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Dragovan Jovanović『Girl from the Mountains』セルビア、三つ巴の戦いの彼方に

大傑作。ロマンス映画的な主題"with"と戦争映画的な主題"against"が徹底的にぶつかり合う壮絶なゲリラ映画。 Ljudmila Lisina が演じるカトリーヌ・ドヌーヴにそっくりなニナは、街の近くにある小屋に住んでいる。軍に志願して町を去った恋人ラドヴァンは、ナチスとの戦争が始まって以降行方知れずになっていた。ある日、ニナは突然パルチザンからメッセージを託され、それが遠因となってナチスから追われる身となった。こうして、ニナは恋人ラドヴァンを探しながらナチスとの戦いに身を投じていく。ナチス対パルチザンの戦いは本作品中盤の山場でもあり、砲撃に人海戦術に大量の戦車が登場するなど、中々の規模で戦闘が起こる。そして、ここに第三勢力であるチェトニクが登場する。元々はユーゴスラビア王国の正規軍にいたセルビアの将兵たちが、ナチスへの降伏を拒絶して結成した抵抗組織だった。彼らは徹底した大セルビア主義/反共主義で、規律に欠け、枢軸国側とは積極的に交戦せず、クロアチア人やムスリムを殺して回っていたのだ。

当初のロマンス映画的な妄想(ニナが思い出すラドヴァンは常にスローモーションで、ニィィィナァァァ!!!と恥ずかしげもなく叫ぶ姿には笑いが堪えられない)から戦争映画へと、そしてナチスへのパルチザンの抵抗へと変化していく過程で、世界の血生臭さはどんどん深くなっていき、最終的にナチスそっちのけで旧ユーゴ王国の同胞同士で殺し合うという、どうしようもない展開へと発展していく。しかし、ニナの心はパルチザンに入る前から変わらない。彼女は徹底して"with"の心を持っているのだ。チェトニクとなって舞い戻ったかつての恋人を見逃すのも処刑するのも、その同じ想いから来ていることが分かる。前者は彼をも包み込む友愛、後者は友愛を信奉する者を害する者への決別として。

最初は獅子の中に迷い込んだ子羊のように、銃の使い方もままならなかったニナは、暮らしていた世界の平和を尊ぶ理想的な抵抗運動メンバーに成長する。そして、その過程に付き従うのが、冒頭で出会ったパルチザンの青年ミルキだ。仲間思いな彼が、その想いを淡い恋心へと変化させるには時間がかからなかったが、その描写は戦争の生々しさに比べると実に淡白で、それが逆に"with"と"agaisnt"の対立を鮮明にしている。ニナの"with"的精神は最後の最後まで"against"に阻まれ続けるからだ。"これが愛か…"と言わんばかりの悲しいラストまで、言うことなしの傑作。

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・作品データ

原題:Devojka sa Kosmaja
上映時間:73分
監督:Dragovan Jovanović
製作:1972年(セルビア)

・評価:90点

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