三年千篇のツイッター小説 質の100篇

1日1篇、1ツイート分の長さの小説を投稿している。

この度、700篇に到達した。『しちの100篇』だ。

600篇までのリンクは、この記事の末尾に置くとして、さっそく始めよう。

601

「なあにいちゃん。ずっと不思議なんだけど」
「なんだ?」
「なんであの時、俺にパンをくれたんだ?泥棒なのに、俺から盗むんじゃなくて」
「馬鹿。あの時お前、盗めるものなんて持ってなかっただろ。……まあ、良かったけどな。2人なら、パンよりもっとすごいものが盗める」
#ツイッター小説

602

「ねえお父さん、あれは何?」
「ん?あれはろうそくだよ」
「ろうそくって?」
「まだ電灯がなかったころの明かりだよ」
「なんでそれが置いてあるの?」
「それはね、昔、イギリスに、ろうそくを手がかりに分かりやすく科学の話をした人がいたんだ。今日はその話をしようか——」
#ツイッター小説

603

「あははははは!!」
高笑いには悲痛な響きが隠れていた。
「全部、全部嘘だったんだ!!手を引かれて出かけたのも、眠るまで子守唄を歌ってくれたのも!!『あんたにはこんなことをしてあげたのよ』って言われてきたこと全部!」
「でもそれを信じさせようとしたのは本当でしょ?」
#ツイッター小説

604

「私ね?君のことなんでも知ってるんだよ?君がいつ起きて何を食べて何が好きで夜何してるのかも。だから、私より君の彼女にふさわしい女の子なんていないんだよ?」
「いや、君は一番大事なことを知らない」
「何?」
「僕がどれだけ君のことを好きかということ」
#ツイッター小説

605

俺の街にはちょっと道交法に触れるんじゃないかと思うくらい急な坂がある。その坂から、オレンジが1個目の前に転がり出た。不審に思いながら拾い上げて見上げると、制服の少女がしゃがんで笑いながら言った。
「引越してきてから1週間転がしたけど、拾ってくれたのは君が始めてだよ」
#ツイッター小説

606

「なんで困ってる人に片っ端から首を突っ込むんだよ。そんなことしてたらお前の方が身がもたないだろ?」
「……名前が莉子だから」
「え?」
「分からないでしょう!何かあるたびに『仕方ないよね。莉子さんなんだから利己的なのは当たり前だもんね』とか言われる私の気持ちが!」
#ツイッター小説

607

「よし」
ケーキ作りで一番緊張するのはオーブンに入れる瞬間かもしれない。予熱が逃げてしまうと台無しだから。
「できた?」
「うん。あとは焼き上がりを待つだけ」
焼き上がりを待つ間は片付けを後回しにして君と話をする。まるで恋に落ちた日のように胸を高鳴らせながら。
#ツイッター小説

608

考えてみると、ジェットコースターほどジェットじゃないものも他にはあまりない。英語ではroller coasterと呼ばれる通り、転がっているだけで推進力は無いのだ。ジェットはジャンボジェットで知られる通り、推進力の名前だ。ところでジャンボジェットの何がジャンボなのか。
#ツイッター小説

609

彼のレース鳩はいつも最下位だった。愛情を込めて育てていたから、鳩は彼にこの上なく懐いていたが、それでも最下位だった。
ある日のレース、彼の鳩はとうとう帰ってこなかった。彼は悲しみに暮れて鳩を飼うのをやめた。
その鳩が、10年後帰ってきた。世界で一番長いレースを終えて。
#ツイッター小説

610

この村には雪除けの儀式があって、カマキリの卵を見つけて村総出で地面に埋めるんだ。『カマキリは雪が積もらない高さに卵を産む』ということにあやかって。単なる迷信と思っていたけれど、この間村に来た科学者によると、これで土の中で生まれたカマキリがオケラに進化したらしい。
#ツイッター小説

611

「父さん。悠太と遊びに行くたびにソフトクリームを食べてくるの、いい加減にやめてくれないか」
「なんだよ。子どもに厳しすぎじゃないか?」
「そうじゃなくてだな。あんたの事だから、いつか悠太に『昔よく祖父とソフトクリームを食べた』って言わせようと思ってんだろ」
#ツイッター小説

612

「うちって、湖のそばに立ってたでしょ?どうしてもボートが欲しくてお願いしたのに、結局聞いてくれなかったよね」
詰るように言うと、母は目を丸くして答えた。
「そりゃ止めるわよ」
「どうして?」
「理由を聞いたら、『向こう岸で女の人が手を振ってるから』なんて言うんだもの」
#ツイッター小説

613

平和な日常を過ごしていた地球に、突如太陽3000個分にも相当する光の束が殺到し、地上は阿鼻叫喚の地獄となった。
——その頃、母親は庭で遊ぶ息子に声をかけた。
「何やってるの?」
銀河小学校3億年生の息子は答えた。
「重力レンズで惑星を燃やせるか実験してるの」
#ツイッター小説

614

「私、ずっと『風が止められないなら自転車を立て直すべきではない』って思ってたんだ」
「……また倒れるから?」
俺の言葉に彼女はうなずく。
「なんで過去形なの?」
俺がそう言うと、彼女は肩にもたれかかりながら答えた。
「風を止められなくても、隣で支えることはできるから」
#ツイッター小説

616

秘密の話を教えますね。
どうしてあなたがここに来た日に、偶然私もここに来ていたのか。
なんてことない、私はずっとここに来ていたのです。それこそ、一番日が短かった頃からずっと。
ここに来れば、またあなたに会えるんじゃないかと思って。
最終的には、私は正しかったわけです。
#ツイッター小説

617

「あれ?船長、今日は元気そうですね。いつも寄港のたびに陸酔いで死にそうになってたのに」
「ああ、妻の協力でね」
「へえ。どんな方法で?」
「単純なんだが、私が寝るまで妻がベッドを揺らし続けてくれたんだ」
「え゛」
「……大人用の揺籠まで作って。ほんとうにできた妻だよ」
#ツイッター小説

618

ピンボールは彼の人生だった。彼は今際の際まで、時代遅れになった機械式のピンボールを作り続けていた。最期に遺した大作では、最初はボールを弱々しく打ち返すことしかできないが、やがて力がつき、仲間と出会い別れ、多くを得て、失う……。そのピンボールは確かに彼の人生だった。
#ツイッター小説

619

なんと彼女もくまを抱いて寝る人だったのだけれど、新居のベッドはヒト2人にくま2匹が寝るには小さすぎたので、対策を考えている間くまたちを同じベッドで寝かせていたら、私たち以上にくま同士が仲良くなってしまい、私たちは他のものを抱いて寝ることになった。
#ツイッター小説

620

「ねえ、吸血鬼って写真に映らないんじゃなかったの?騙されたんだけど」
「……写真のことを『ブロマイド』ってなんで言うか知ってる?」
「知らないけど」
「silver bromide……臭化銀が感光剤に使われてたから。私たちは『写真に映らない』んじゃなくて、『銀と相性が悪い』の」
#ツイッター小説

621

「はぁ」
「どうしたの?」
「いや、人生の不思議について考えてた。人生、何がどこで役に立つか、分からないもんだなッ」
言い終わると、炭素繊維で弦を作った即席の弓から指を離す。鉄の矢が宇宙に消えていく。燃料が切れたこの船が地上に降りるまで、打つべき矢はあと4000発。
#ツイッター小説

622

『君にもらった人参を、畑に植えて立派に収穫したから、今度食べにきておくれ』
という手紙を、友人のうさぎから受け取った。
「どうぞ、人参のスープだよ」
そう言って彼は緑の葉を浮かべたコンソメスープを私に差し出す。
「……人参は?」
「うん?人参は葉を食べるものだろ?」
#ツイッター小説

623

「騙せてたつもり?貴方を旅の王子だと、私が信じていたと?」
盲目の彼女の言葉が胸に突き刺さる。
「……分かったなら、話の続きをしなさい」
「……許してくれるの?ただの嘘吐きの僕を」
目を丸くする僕に彼女は言う。
「貴方は嘘しか言わなかったけど、貴方の嘘は輝いていたわ」
#ツイッター小説

624

「お前のツッコミはいつもピンぼけなんだよ!」
「お前は反応が遅いだろ!」
「2人ともやめろよ」
「どっちも面白くなくない?」
「火に油を注ぐな!」
「シューストリング?カントリーウェッジ?」
「そこにポテトを持ってくるな!」
「……今のでフライドポテトの話だと分かるのか」
#ツイッター小説

625

「割られた風船と、割られずにしぼんだ風船。どっちの方が幸せだと思う?」
「いや、風船に幸せとかないと思う」
「僕はしぼんだ風船の方が幸せだと思うんだ。だってほら——」
そう言って彼は風船の口を解いて息を吹き込む。
「また膨らめるからね」
と、ゴムが弱っていた風船は割れた
#ツイッター小説

626

「さあ、殺すがいい!俺はそれに値することをした!」
秘密警察に後ろ手に拘束された男が吠える。道端にばら撒かれた男の『商品』をもう一人の秘密警察が拾い上げる。それは煙草の箱に詰められた紙束だった。
「なるほど、小説の密売か」
「いや——俺が売ったのは、『勇気』だよ」
#ツイッター小説

627

巡回セールスマン問題を異様な速度で解くスーパーコンピューターが登場して、情報安全保障のために各国のスパイが送り込まれたが、ついにその中央部までたどり着いた1人が見たものは、成長速度を極限まで加速するよう品種改良された粘菌だった。
#ツイッター小説 #一文SF

628

「じゃ、先に『好き』って言っちゃった方がなんでも言うことを聞くってのはどう?」
「いいね」
「私のことどう思ってる?」
「宇宙で一番可愛い」
「頭を撫でられるのは?」
「永遠にしてほしい。次はこっちだ……好きな食べ物は?」
「すきやき……あっ!」
「よし!」
「なんてね」
#ツイッター小説

629

「あなたの寝言、いつも意味不明なんだよな」
「おいおいそれは当然だろ」
「そりゃ寝言ってそういうものだって言われたらその通りだけど」
「違う違う。……起きてる時の発言も意味不明なんだから、寝てる間の方が意味がわかるんならおかしいでしょ」
「……確かにその発言だとそうね」
#ツイッター小説

630

「ん……あなた、我慢してください……子どもが聴いてますから」
「もう寝てるよ」
「そんなことないです。あの子、昼間『アンアン』って私の真似して大変だったんですから」
「……それはアンパンマンを観たのでは?」
「アンパンマンはアンアン言いませんよ!?」
「チーズだよ!」
#ツイッター小説

631

「はぁ……」
航海から帰って酒場でうなだれる冒険家を、顔見知りが見つけて話しかける。
「よう、どうした?」
「この間行った島に、宝箱が——」
「なかったのか」
「あったんだよ」
「じゃあ喜べよ!」
「嬉しいわけないだろ!前人未踏の島だって聞いて行ったんだぞ!」
#ツイッター小説

632

「昨日の夜、ずっと考えてたんだ。『もし“またね”って言ったら、ちゃんとお別れできなかったって後悔することになる。でも“さよなら”って言ったら、約束してればまた会えたのかもしれないって後悔することになる』って」
そして、彼女は言った。
「だから、絶対会いに来てね?またね」
#ツイッター小説

633

「別に不味くはない、不味くはないからいいんだけどさぁ……『きなこもちが食べたい』って言ったのを、『きのこもちが食べたい』って聞き間違えることある?見たことないでしょ『きのこもち』なんて」
私はそう不貞腐れながら、なめ茸が絡んだもちを頬張った。しょっぱい。
#ツイッター小説

634

「……憧れてたんだ。『手作りのプリンを作る父親』に。ただ、分かっていたことだけど、プリンを作るのって簡単なんだよね。材料も卵と牛乳と砂糖だし。……でも、それを普段のおかずに使わずに、毎日の食事とは別に料理すること。そういうことこそが『豊かさ』なのかもしれないね」
#ツイッター小説

635

夕方の5時の鐘がもう3時間も鳴り続けている。
#ツイッター小説

636

「金の負債ってのはまだマシだったんだな。踏み倒してるとヤクザのお兄さんがくるけど、取り立てにくるのは人間だもんな。ほんとうに厄介なのは睡眠の負債で、こっちは死神が取り立てにくる。睡眠時間の貸主が死神とは知らなかったわ」
「……親友の夢枕に立って言うことがそれか?」
#ツイッター小説

637

久しぶりにその歌を聴いて驚いた。まるで私を見て書いたのかと思う内容で、私が感じている『痛み』がそこにはあった。ただ、それは1番までで、2番は身に覚えがない内容だった。2番で『彼』は大切な人と出会い、世界が輝き出していた。
それならば、2番はこれから起こることだろう。
#ツイッター小説

638

「人間というのは、どうして手に入らないものばかり魅力的に感じてしまうんだろうね?」
「〆切前のこのクソ忙しい時に何?」
同居人の言葉に眉を顰めながら振り返る。彼女は答えた。
「前は連載が欲しくて夜も眠れなかったのに、いざ連載が始まると布団が魅力的に見えてたまらない」
#ツイッター小説

639

いざという時のために空間を食べることができるイモムシを飼っていたのだけれど、目を離した隙にサナギになって羽化されてしまった。宇宙のような翅の彼は今でも私の肩に止まっている。考えてみれば、はじめから彼は、逃げようと思えば逃げられたのだ。
#ツイッター小説

640

「うちのクラスには、他の組と違って備品として何故かドッチビーがあった。ドッチボールじゃなくて、ドッチビー。柔らかい布製のフリスビーで、ボールにぶつかるのが嫌だった私も、それでなら遊べたのだ」
——
「って言って欲しくて小学校に寄贈したんだけど、そんな声は届いていない」
#ツイッター小説

641

異世界に召喚された俺は、先人たちに倣って現地の卵と酢を使ってマヨネーズを作って美味しいと評判になったが、生で使えるほど衛生的な卵が手に入らず、大概深刻な食中毒を引き起こしたので、マヨネーズは『美味なる毒』、俺は『暗殺料理人』として有名に……こんなはずじゃなかった。
#ツイッター小説

642

「ねえ、写真撮ろうよ」
病室の私に彼女は言った。私は物心ついた時から吸血鬼で、写真には写ることができなかったのだけれど、雪山でのあの事件で、私は吸血鬼の力を失っていた。
「笑って」
フラッシュが光り、写真が出てくる。これが世界で2枚目の私の写真だとは誰も知らないのだ。
#ツイッター小説

643

「はぁ」
俺はため息を吐く。ゲームを遊ぶだけで生活できるようになるのは夢だったが、こんな形ではなかったはずだ。
目の前の画面には『You lose』の文字。プレイヤー人口を維持するためには、最低レートで『最高の負け方』をするプレイヤーが必要なのだ。ゲーム会社が金を出す程に。
#ツイッター小説

644

「悠太は!?」
弟が不良に拉致されたと聞いて、長女が息を切らして駆け込む。
「大丈夫。おじちゃんが助けてきてくれるって指切りしてくれたもん」
「1人で行かせたの!?」
驚く姉を次女が制止する
「私も大丈夫だと思うな。……あの人が指切りしてくれた指、小指じゃなくて薬指だった」
#ツイッター小説

645

定期的に訪れる1000年の眠りから目覚めた私は、眠る前の全てが過ぎ去ってしまった切なさと同時に、初めての懐かしさを覚えて戸惑い、眠る私に寄り添うように生えていた大樹に触れた。
『君がエルフで良かった。木の心が分かるって本当だったんだね?この姿ではもう声は出せないから』
#ツイッター小説

646

「私は何も見たことないの」
「私もよ。おんなじね」
「私にあるのは、この狭い部屋と小さな窓から見える曇り空だけ」
「窓?窓ってどんなものでできてるの?」
「……金物の枠と、透明なガラスでしょ」
「透明なものって見えるの!?……私とあなたは、けっこう違うみたいね」
#ツイッター小説

647

「今でもね、時々思うんだ」
皮肉なくらい綺麗な星空の下、廃墟の壁で夜露を避けながら、道連れのポンコツロボットに語りかける。
「『2人じゃカプセルを閉じれない、揃って丸焼きになるだけだ』って言われたけど、一緒ならそれも良かったんじゃないかって。きっと幸せだったと思う」
#ツイッター小説

648

「フレンチレストランだとか気取ってるが、行列ができたって話を聞いたことがねえぞ。実は客居ないんだろ」
「失礼ながら我々のサービスは入店から退店までの全てであり、その中でお客様を待たせることをよしとしておりません。貴店も人気ならラーメン屋でも予約を受けるべきでは?」
#ツイッター小説

649

不思議だ。これはただの物語で、結末は初めから決まっている。けれど今はっきりと、この物語を私が読んだことの意味が分かった。私が読んだことで彼女の運命は確かに変わったのだ。
「私は君を…君の名前を知っている!」
私は叫ぶ。彼女は驚いて言った。
「なんで…だって貴方は」
#ツイッター小説

650

野球選手の身体能力の強化によって23世紀の野球は200年前とは次元が違うレベルに達していたが、さすがに第一宇宙速度でスタジアムから飛び出したホームランボールを、1時間30分後に地球を一周して帰ってきたタイミングでピッチャーがジャンピングキャッチしたのは前代未聞の事だった。
#ツイッター小説

651

「太陽って、美しいの?」
『太陽を見せてあげる』と言って連れ出した俺に日傘を差した彼女が訊ねる。
「いや?全部の光がごちゃ混ぜで、見たら目が灼けるだけだけど——」
と、辺りに急に『夜』が訪れた。慌てて遮光板を渡して空を指差す。
「あれは美しいと思う」
皆既日食のコロナ。
#ツイッター小説

652

あんなに赤いのにへびいちごが甘くないのが何故か悔しくて、いちごだって元々は甘くなかったものを品種改良によって今の形にしたのだと思い直し、鉢いっぱいのへびいちごから一番甘いのを植えて育てようと思ったのだけれど、食べてしまっては植えられないと食べ終わってから気づいた。
#ツイッター小説

653

「どうしてよりにもよってクレープなの?ケーキとかパフェじゃなくて」
「クレープは特別なお菓子だからよ。作りたてを食べてこそだし、手づかみで食べるところもポイントなのかも」
そう言って彼女は口を開ける。俺は、両腕がもう動かなくなった彼女の口元にクレープを差し出した。
#ツイッター小説

654

円盤の大軍が小惑星を引き連れて地球へ進軍してきた。だが、地球人は慌てなかった。小惑星は悉く、地表に到達する前に燃え尽きるサイズだったからだ。大気圏に小惑星が投入される。そして、計算通りに燃え尽きた小惑星の中心から出てきたものは、ホカホカになったサツマイモであった。
#ツイッター小説

655

退職後、思い切って夢だったラーメン屋を始めて、究極の縮れ麺が作れる製麺機まで完成したが、客足は伸びず、資金繰りに困った中でふと思いついてその製麺機の販売を開始したところ、ちょっとしたチェーン店なら買収できるくらいの収益が手に入ってしまい、生きることの意味を考えてる
#ツイッター小説

656

ガラリ、と音を立てて飲み屋の引き戸が開くと、外には見るからに料理人という服装の男が立っていた。
「なんだ?道場破りかなんかか?」
「ショバ代は払う。俺は……そうめん屋だ」
「へえ、そうめんですか。ちょうど急に暑くなってきたところだ。おやじさんと私で2ざるもらおう」
#ツイッター小説

657

「お父さん。ずいぶん大切そうにしてるけど、その手紙は、ラブレター?」
「たぶんそうだと思うんだけど、実は読んだことないんだ」
そのやりとりを見ていた母親が言う。
「読まなくていいよ。今では意味がないことしか書いてないから」
「何で分かるの?」
「……私が書いたから」
#ツイッター小説

658

夏頃から天候不順が気になって、あちこち歩き回ってどんぐりを集めていた。それを秋の終わりに隣の森に山盛りに置いて、リスが来ないか見張る。そのうちに寝てしまったのだけれど、起きた時にいくつかポケットに戻っていたのは、お礼のつもりか変な木だと思われたのかどちらだろう?
#ツイッター小説

659

「ありがと!」
娘の笑顔を見て、妻がため息を吐いて僕に言う。
「あなた、ハンバーグは毎回半分あげるの……何?」
言葉の意味が分からず3秒ほど固まってから、僕は目を丸くして釈明した。
「ごめん!僕の時は母がいつもしてくれていたから、半バーグっていうのはそういう料理かと」
#ツイッター小説

660

「好きなお菓子?甘いものならあるけど、とても特別なもので、一緒に手作りしないと食べられないんだ」
なんていうから、言われた通りにショートケーキを作ったのに。あなたはシンクのハンドミキサーを手に取って
「ありがとう。これが好きなんだ」
そう言ってブレードを咥えた。
#ツイッター小説

661

「ん?」
引っ越し前、荷物を整理していたら、子ども時代の宝箱が出てきた。その中にひとつ、平べったい石が入っていた。
「姉ちゃん、これ、なんでくれたんだっけ?」
「え?ああそれ。あんたが水切りをしたいからっていうから選んだら、そのまま大事に持って帰ったんでしょ、確か」
#ツイッター小説

662

「あまり桃に触らないでくれる?傷むでしょ」
「ごめんごめん。……桃って触り心地がいいよね。りんごよりもみかんよりも、触り心地なら桃が好きだな」
彼のその言葉に、私は目を細めてため息を吐きながら言った。
「あなたは本当に、傷つきやすいものに無遠慮に触れるのが好きね」
#ツイッター小説

663

「不思議だな。あいつもお前クリスチャンなんだろ?教義的に幽霊って存在の余地なくないか?」
「そんなに不思議か?聖霊はいつも傍らにいてくださるんだから、その役割をひと時だけ『大事な人』が肩代わりできたらと望むことは、何も不自然なことでは無いと思うが」
#ツイッター小説

664

不思議な法則がある。現在確認されている約3万5千個の銀河文明の中で、技術の発展速度には違いがあったものの、どれだけ技術が発達しても、他の星からの来訪者が訪れる前に宇宙に進出して他の文明の母星にたどり着いた文明はひとつもないらしい。そう、『ひとつも』無いらしいのだ。
#ツイッター小説

665

「どうぞ」
招待した夕食の食卓。私は彼を尊敬していたが、完璧な紳士然とした態度は鼻につく。ホットドッグで手がベタベタになるところを見てやろうと思ったのだけれど。
「ありがとう」
彼はケチャップを1口分ずつつけて、完璧に食べ切った。
「……お上手ですね」
「好物ですから」
#ツイッター小説

666

ついに動物の全身を完全に透明にする薬が完成した。勢い勇んで飲んでから、その副作用に気づいた。全身が透明になる以上、眼球……網膜も透明になり、失明してしまうのだ。
#ツイッター小説

667

「こんな良いアンティークレンズ滅多にないんだよ〜!」
「君、そんなこと言って、一体いくつレンズを買うつもり?」
「……お願い」
そう言って彼は私の手を取って、手のひらにキスをした。
「っ〜!……ズルい」
いつもこうなのだ。手のひらへのキスの意味は『懇願』なのだという。
#ツイッター小説

668

「まいど」
品物を受け取った客がちょうど帰るところに出くわした娘が、慌てた様子で私にいう。
「ちょっと!今のお客さん、狐だったよ!」
「知ってる」
「化かされてない?お金が本物か確認しないと!」
「確かに狐は人を化かすけど、手袋を買う時だけは本物のお金を出すんだよ」
#ツイッター小説

669

「どうしよう……」
目の前に座る友人に言う。
「どうした?」
「眠れないんだ。いつでも寝られるのだけが特技なのに」
「それは……寝過ぎだ」
「え?」
俺が聞き返すと親友は言った。
「ここをどこだと思っている。夢の中の夢の中の夢の中の夢だぞ」
#ツイッター小説

670

「ほら、おいで。……何があったのか聞かせてくれないかな?」
膝を叩きながら娘に呼びかける。娘は俯いたままこちらに来て言った。
「……いい子になりなさいって言うんでしょ」
「ううん。僕は、君がどれだけ悪い子になっても君の味方だ。だから、君がママと法律の味方だと助かる」
#ツイッター小説

671

「ただいま」
買い物から帰ると、置き手紙の前で固まっていた彼氏が涙ぐんだ目で顔をあげた。
「よかったぁ。心配したよ」
「心配って……行き先はちゃんと手紙に書いたでしょ?」
私がそう言うと彼は首を横に振って言った。
「何か凄く悪いことが書いてるかもと思って読めなかった」
#ツイッター小説

672

「ソメイヨシノって種が無いだろ?なんでか知ってる?」
「聞いたことはあるけれど、理由までは」
「頭山って知ってるか?江戸時代、まだ種がある桜が一般的だった頃は、本当に桜の種を飲み込んで、頭から桜の木を生やしちまう奴が大勢いたらしい。それで、種の無い桜を作ったんだと」
#ツイッター小説

673

「聞いて!」
私の悲鳴に友人が振り返る。
「何?」
「トンボを捕まえようって指を回したら、首が取れちゃったの」
「そんなこと」
「それだけじゃなくてね、犬にも試したら、首が取れちゃったの」
「嘘だぁ」
「嘘じゃないよ。こう——」
私は、無意識に動く指を慌てて押さえつけた。
#ツイッター小説

674

「ごめんね〜。手間かけちゃって」
実家に帰ってきた読書好きの娘が言う。
「気にしないで。『古めの紙の辞書』だよね?はい」
「ありがとう。えっと……『クラウド』『NISA』『ASMR』……」
「そんな単語まで載ってた?」
「ううん。“この辞書にはまだ載ってない単語”を調べてるの」
#ツイッター小説

675

「それにしても、よくこの『島』に来られたね。狙ってこれる場所じゃないよ?いつも動いているから、海図にも載ってないし」
「あの星を目印に来たんだよ」
「どれ……あんなに明るいのに、星図にない」
「土星、だよ」
「なるほど。海図に載らない島に来るには、星図に載らない星か」
#ツイッター小説

676

ドォン!
サーカスの天幕に大砲の音が響く。
飛び出した弾は、いつも玉乗りで転ぶピエロだった。
彼が右手で握ったナイフが閃き、空中ブランコに失敗した彼女の脚に絡みついた縄を断ち切った。
2人はもつれあって地面に落ちる。
バン!
「……大丈夫?」
「うん、転ぶのは上手いんだ」
#ツイッター小説

677

「なんか……この気温、この日差し、この湿度、この風を感じると、『夏の終わり』って感じがするよね〜」
「……正気か?まだ5月だぞ?まだまだこれから遥かに暑くなるのに?」
「むぅ……だからだよ。最近みたいな毎日30度を超える季節は、『真夏』であって『夏』なんかじゃない」
#ツイッター小説

678

うっかりしたことに、冷蔵庫の卵入れにゆで卵と生卵を混ぜてしまった。
「まあ、大丈夫」
そう呟いて、卵をふたつ取ると、テーブルの平らな面の上を転がした。ゆで卵の方が速く転がるのだ。
「よし」
その時、軌道が曲がって生卵がテーブルから落ち、カシャンと割れて中身か溢れた。
#ツイッター小説

679

「それにしても、あんたにしてはずいぶん良い子を見つけてきたものね」
「……あの子のうちで遊んでた時にさ、気がついたらかなり遅い時間で。『食事作って来ますね』って言って出てきたパスタが」
「美味しかったの?」
「——素パスタで。この子は一緒にいてあげないとだめだって」
#ツイッター小説

680

母の日に妻が娘から『肩叩き券』をもらっていたから、1ヶ月先の父の日が来れば私も貰えるだろうかと期待していたのだけれど、当日、娘が私に手渡したのは『耳かき券』で……嬉しいのは間違いないが、娘にどんな父親だと思われているのか不安になった。1枚はずっと残しておこうと思う。
#ツイッター小説

681

「夏が嫌いなの」
茹だるような日差しの中で君が言う。
「どうして?暑いから?」
「ううん……夏のさよならはいつでも唐突だから」
君のその言葉の意味が分からず、帰り道で別れた後もどうしても気になった僕は、明日改めてその言葉の意味を君に訊くことを心に決めた。
#ツイッター小説

682

「貴方はもしかして……宇宙人間ですか?」
「ああ。この星は平和だね。みんなが助け合っていて。それで話が通じるかと思って来たのだけれど」
「ええ、良く来てくれました。さあ、此方へ」
そう言われて初めて彼がロボットであることに気づいた。おそらく本来は人間を助けるための。
#ツイッター小説

683

「幼馴染1人幸せにできないで何がアイドルだ。我儘でいいんだよ。奴もファンも全員振り回して、心の底から笑ってくれ。その笑顔で俺達は幸せになるんだから」
その言葉に彼女は駆け出す。
「我儘になれ、なんて、自分を棚に上げてよく言えますね」
「……回らんでしょ。全員我儘じゃ」
#ツイッター小説

684

「俺、兄貴がいるんだ。自慢の兄貴?そうかもしれない。なんでもできて、性格もよくて。俺は物心ついた時から真似して追いかけて、届かなくて……お前が好きになったのは、俺じゃなくて俺の中の兄貴なんだよ」
「まさか。私が好きになったのは、憧れを必死で追いかける誰かさんだし」
#ツイッター小説

685

「なんだかねぇ」
膝を抱えて座り込む私をみて、彼は呆れたようにそう言って、隣に座る。
「お前、何か嫌な事があるとすぐここに来るだろ。励まされたいのか?」
「……悪い?」
「悪かないけど、要らんだろ。俺を書いたのはお前なんだから」
私はため息を吐いた。原稿用紙の中心で。
#ツイッター小説

686

「最後まであきらめないのは良いことです。見てください、この筋肉。崖から落ちるのを1ヶ月耐えていたら、こんなにもパワーになったのです」
「……でも、結局落ちて死んだのでしょう?意味無いのでは?」
「……いえ、これでこんな羽目になる運命にした神を一発ぶん殴れます。」
#ツイッター小説

687

『空を自由に飛びたい』
その願いを、ランプの魔人は叶えてくれた。確かに叶えてくれたのだが、着陸する方法を願うのを忘れていたことに気づいた時にはもう手遅れだった。浮き足立った心地でホバリングを続けながら、どうしたものかと私は首を傾げている。
#ツイッター小説

688

「朝の2時間は自分の未来のために使いなさいって言ってるのに、ずっとゲームばかりしてるから怒ってしまったんです」
「……私は、勉強よりも将来に役立つことを知っていますよ。1. 遊ぶこと、2. 友達と遊ぶこと、それと……」
「それと?」
「母親が信頼できる相手であることです」
#ツイッター小説

689

「うーん……」
「どうかした?」
「いや、お嬢様に『絶対サンドイッチの具にできない食材』を持って来いって言われて」
「ふふーん。私、解っちゃった」
「何?」
「……パン!」
「…………いや、実は俺もそれ言ったんだけど、あるらしいのよ。イギリスに、トーストのサンドイッチ」
#ツイッター小説

690

「おかしい……体重が増えてるなんて」
「運動してないんじゃないの?」
「してるのに増えてるからおかしいんだよ!毎日3回、朝食昼食夕食のカップ麺が出来上がるまでの5分間、きちんと運動してるのに!」
「それ以前に毎日毎食カップ麺ってところが問題なんじゃないかなぁ!?」
#ツイッター小説

691

「この鉄傘を何に使うか、っつったよな」
そう言いながら、男は庇の下から出る。往来には礫のごとき雹が降り注いでいた。
「待っ——」
制止の声を遮って、男が鉄傘をお猪口に返す。傘が雹を受け止める。
「度胸とこいつがあれば、氷室が無くても夏にも氷が食えるって寸法さ」
#ツイッター小説

692

折角中世イギリスに転生したというのに、イメージと違って紅茶が伝来するのはもっとずっと後のことのようで、毎日昼間からビールの生活の後ろめたさに耐えられず、大麦で麦茶を作って飲んでいたら、いつのまにか英国全土に広まってしまい、私は歴史を変えてしまったらしい。
#ツイッター小説 #一文SF

693

深夜、2階から下りるとリビングに彼女がいた。
「よく食べるわね」
私は黙って製氷庫を開け、氷を3粒口に放り込む。
「氷食症っていうのよ。血が薄いとなるの。氷じゃなくて鉄を摂りなさい」
返事をせず、私は肩を彼女に差し出す。
「あなたの血が薄いといつまでも魔力が戻らないわ」
#ツイッター小説

694

「いい加減デモなんぞに参加するのはやめろ。世界を変えられるとでも思っているのか」
「まったく、父さんは現実とゲームの区別もつかないんだから」
「……何?」
「ここがゲームの世界なら、プレイヤーはルールに従うしかない。でもここは現実だ。俺たちがルールを作る側なんだよ」
#ツイッター小説

695

「ねえママ」
小さな娘が手を繋いだ母親を見上げて問いかける。
「なあに?」
「どうして夕焼けを見ると寂しい気持ちになるのに、朝焼けを見ても寂しい気持ちにならないの?」
その問いに母親は答えた。
「それはね、あなたは毎朝遅くまで寝てるから、朝焼けを見たことがないからよ」
#ツイッター小説

696

『ざくろは心臓に形が似ている』
と、彼女から聞いたのはいつだったか。
「……はい」
真夜中、姉がなんの気まぐれか、どこからか買ってきたざくろを胸の前で半分に割いて私に片方を渡した。それ以上彼女は何も言わなかったが、何を言いたいのかは分かった。
滴る果汁は血に似ていた。
#ツイッター小説

697

「ひとつだけ約束してほしいんだ。これから生まれてくる子に『あなたなんてウチの子じゃない』とは、絶対に言わないで欲しいんだ。それを言われれば、子どもは本当に行き場を失くすから」
「言うわけないでしょそんなこと!?」
「え!?あ、あぁ……そっか、普通は言わないのか……」
#ツイッター小説

698

「……どうしたの?そんなにその動物動画が面白かった?」
「……いや、割と自然な組み合わせだと思うんだけど、中学の時の同級生からアレなことを吹き込まれたせいで未だに栗鼠と栗の組み合わせがまともに見れないんだよな」
「栗と栗鼠がどうかしたの?」
「そういうことだよ!」
#ツイッター小説

699

あなたの手が私の背に触れる瞬間が好きだった。初めて出会った時もそうだったから。あなたは私を開いて、私ののどを剥き出しにする。あなたが時間を忘れて私を見つめている間、私がその時間が永遠に続けばいいと思っていたことを、あなたは知らないのでしょう。

私は本なのだから。
#ツイッター小説

700

「クリストファーロビンとアリス・リデルの共通点を知っているかい?」
「英児童文学の主役以外にですか?」
「どちらも、大人になってしまうんだ。けれど物語の中では彼らは永遠に子供で居続ける」
「なるほど、それであなたはこんな物を書いたんですね。私を『永遠』にするために」
#ツイッター小説

いかがだっただろうか。100篇もあるのだから、1つくらい気にいるのがあれば嬉しい。

次は、また100篇後に

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