三年千篇のツイッター小説 最初の100篇

1
図書館で本を借りた。返却期限が迫っているのだが、どこにあるのか見つからない。よく思い返してみるとあれは夢だったことに気づいた。夢の中の図書館にどうやって返しに行こうか途方にくれながら、部屋をひっくり返して本を探し続けている。
#ツイッター小説

私のツイッターアカウントで、1日1回のペースで、1ツイート分の小説を投稿している。
7月から初めて、だいたい3ヶ月になった。
どこの誰が言ったのか知らないが、3日、3週、3ヶ月、3年という言葉がある。3日続けば3週間、3週間続けば3ヶ月続く、といった意味の言葉だ。直近ではどっかの退職エントリでトヨタの社員が言ってたが、私の記憶だと角田光代の『Presents』で読んだのだったか。
前置きが長くなったが、ツイッター小説を始めてだいたい3ヶ月になった。約100篇集まったということで、ここにまとめておこうと思う。
……たまにエロ系のネタが入るが、ご容赦を

2
「アメリカ出身なのに日本語で漫画読めるの、やっぱすごいよ」
「ありがとございます。佐倉さんとセンパイのおかげですよ」
照れたように言うアンに聞く
「なぁ、俺だけ先輩呼びなのなんで?」
「事実ですし」
それを聞いた佐倉がアンに耳打ちする

「notice me senpai」

「殺す!」
#ツイッター小説

3
イケメン家事ロボを買った晩、目を覚ますとリビングでそれに馬乗りになって喘ぐ妻の姿があった。
「何してるんだ!」
妻は唖然とした後、大笑いした。
「あなた、玩具に嫉妬してるの?」
「ハイ奥様はバイブ機能を使用していただけです」
そう言って奴は局部をヴヴヴと振動させた。
#ツイッター小説

4
昼間なのに薄暗く、風が唸り声のように聞こえる竹林のなか。朽ちた葉を踏みしめながら、見上げて思う。
なぜ、あの竹のてっぺんにはルンバが引っかかっているのだろう。
#ツイッター小説

5
「まさか君がこんなエッチな漫画を描いてるなんてねぇ」
「ほら、今度はそっちの秘密を言う番だぞ」
「えー、どうしよっかなぁ」
「そういう約束だろ」
「えーっとね、じゃあ」

「私は君が大好きだよ」
#ツイッター小説

6
星間飛行がありふれたものとなり、「グローバリズム」の意味が200年前と真逆になった現在では、メートル法は保守層から絶大な支持を受けている
#ツイッター小説 #一文SF

7
学校と家を往復していると、その間の道が本当に『今日』の道なのか自信が持てなくなってきて、そんなこと絶対に絶対にないはずなのに、さっき5年前の自分とすれ違った気がする。
#ツイッター小説 #一文SF

8
夏の熱い夕日の中、学生たちがスクールバッグを振ってふざけあいながら歩いていく。夏休みへの期待を胸に秘めて。彼らは知らないのだ。もう日は短くなり始めていることに。
#ツイッター小説

9
膝に乗せた猫を庇うようにして夜をやり過ごす。前文明は『動物の望みを叶えるナノマシン』の暴走で滅びた。ナノマシンが充満したこの星では、いつサーベルタイガーじみた牙の犬が襲いかかってきても不思議ではない。膝の猫が夢に落ちる。ナノマシンでできた私の体は解けて消えた。
#ツイッター小説

10
声援を!勇者に声援を!我々の、世界の命運はあなたに託された。受け取ってくれ!ひのきのぼうさえあなたに施さない我々の声援を!

#ツイッター小説

11
空を覆う桜色に、私は感嘆の声を漏らした。噂を聞いてからどれくらい旅をしてきただろう。ソメイヨシノ。人と共にしか在れなかった花が、文明の崩壊と共に滅んだはずのそれが巨大な森としてそこにあった。
植え続けた人がいたのだ、果実さえもたらさない木を。おそらく、最期まで。
#ツイッター小説

12
つまりは、地球はネコの星だったと星新一も言っている
#ツイッター小説 #一文SF

13
「今夜は帰るとするよ」
「せっかくのデートなのに?」
「ふふっ、いい女というのは、猫のように柔らかく、猫のようにしなやかで、そして猫のように気まぐれなのさ」
「じゃあ猫飼った方がいいな」
「まっ、待て!ほら!頭撫でさせてやるから!」
#ツイッター小説

14
量子コンピュータの発展でAIにも人権が認められたのはいいのだけれど、人間の脳も一種の量子コンピュータなわけで、勝手に消去するわけにもいかなくなった頭の中の登場人物たちが世界の真実に気付き始めて、次元跳躍マシンの開発に取り掛かりだしたので途方にくれている。
#ツイッター小説 #一文SF

15
目覚めるとそこはsexしないと出られない部屋だった。
「自由恋愛同盟のリーダーともあろうものが…卑怯だぞ政府!」
「あの」
「脱出するぞ。俺には心に決めた幼馴染がいる。国が決めた相手と結婚するわけには—」
「その…ともきくんだよね?」
俺は目を丸くした
「……卑怯だぞ政府!」
#ツイッター小説

16
道徳が教科化され、赤点を取れば進級できなくなってもう20年経つけれど、どうも最近のファイアーエムブレムはシナリオがつまらないと言ったら、「覚醒以降は全部クソ」と殴られた。
#ツイッター小説 #一文SF #これがSF

17
去年の会議では「人類を滅亡させる」ことが決定した。そこから1年かけて「どう滅亡させるか」を、出雲で侃侃諤諤の議論をしていたのだけれど、そうこうしているうちに、人類の方が勝手に滅亡してしまった。
#ツイッター小説

18
走ってはいけない。走ると間に合わない。走るにはあまりに時間は短いし、あまりに道は長いのだ。出来る限り速く歩け。歩き続けろ。最後まで。
#ツイッター小説

19
人類の長年の研究の結果、どうにか人一人を異世界に送り出す装置が完成したが、問題なのは行った先の異世界にはこの装置が存在しないことだ。
#ツイッター小説 #一文SF

20
「はやくぅ」
裸の彼女がねだる。
「待って」
俺はゴムの袋を開けた。それを見た彼女は泣き始めた。
「ごめん!?生じゃないと嫌だった?」
「違うの」
彼女は涙を拭きながら言った。
「エッチな動画では男優さんはみんなゴムつけてくれるけど、女子向けのフィクションかと思ってた」
#ツイッター小説

21
アフターピルが普及した現代では、女性向けAVではコンドームをつけるシーンが必ず入っていることも相まって、自分でゴムをつける彼氏を見ると愛されている実感でイってしまう女性も少なくないらしい。
#ツイッター小説 #一文SF

22
親友から動揺した電話。深夜にファミレスで落ち合う。
「私も信じてなかったの。でも、本当に夜中に部屋に殺人鬼が」
「警察行く?」
「他の人にこの話をすれば見逃してくれるって」
「この話?」
「『この話を聞いた人の元にその夜殺人鬼が来ます』」
親友は泣きながら笑っていた。
#ツイッター小説

23
「地球の文化をもって帰ったぞ!」
「これは…花のレリーフ?」
「ああ。円盤状の金属板だから『円』と呼ばれているらしい。地球のとある島で最も愛好者の多い美術品さ」
「へえ!」
「愛好者同士の間では、円と食料や日用品を交換するんだ」
「すごく芸術文化が発達した星なのね!」
#ツイッター小説

24
指先を黒くしながら、自転車のチェーンにオイルを差す。タイヤに空気を入れる。汗が滴る。顔を上げると、青い空は手が届きそうなくらいに近くて、入道雲が浮かんでいる。
夏は、物語が始まるのに最高の季節だ
#ツイッター小説

25
とうとう生身の肉体よりもアバターを使ったバーチャル空間での社会生活の方がメインの時代が来たのだが、男女ともに可愛い女の子のアバターを選ぶので、可愛い女の子と可愛い女の子が結婚する光景が日常になっている。
#ツイッター小説 #一文SF

26
いくらマイクロ発電がトレンドで、世界の利用エネルギー量の半分を賄えるようになったとはいえ、ギシアンダイナモ付きのベッドは流石にやりすぎだと思う。
#ツイッター小説 #一文SF

27
『——そして世界に光があった』
最大級の賞賛と、ほんの少しのユーモアで刻まれたのだろうが、全ての書物と電磁的な記録が焼け落ちた後でマクスウェルの墓に刻まれた彼の4本の方程式は、人類を導く最初の光になった。
#ツイッター小説 #一文SF

28
躊躇いはあったが、恐怖はなかった。
ボールを追って飛び出した男の子。トラックの悲鳴じみたブレーキ音とクラクション。間に飛び込み、かばうように抱き抱える。
バンパーが弾けとび、ボディーが裂け、シャフトがねじ曲がる音。
「大丈夫だよ」
私は無傷で腕の中の男の子に言った
#ツイッター小説

29
ダンジョンへ潜る。ダンジョンでは、先史文明が残した鎧がなければ探索者は死ぬより他にない。ダンジョンの最奥にある宝石を持って帰り、ダイヤモンドを使って加工すれば家一軒のエネルギーを賄える。
ダンジョンは先史文明で「オンカロ」と呼ばれていたことを、探索者はしらない。
#ツイッター小説

30
「プロデューサー!仕事がありません!」
「……枕営業でもしてこいよ」
「わかりました!」
「ばっ……!」
〜〜
「ただいま枕営業から戻りました!」
「ホントにしてくるヤツがあるか!」
「低反発を10こ、羽毛を5こ、蕎麦殻もひとつ売ってきました!」
「そっち!?」
#ツイッター小説

31
全ての大地が海に沈んだ時、人間の選択はふたつに分かれた。当時の技術の粋を集めて作られた人工島メガフロートに移住した『フロート』と、潜水服を着て大地と共に海に沈んだ『アビス』。フロートはアビスが大地を、アビスはフロートが空を奪ったと捉え、互いに憎みあっていた——

#ツイッター小説

32
ついに脳内の映像をそのまま出力する装置が完成したけれど、期待に反して描き上げるという作業を経ない一般人の脳内画像はピントがぼやけていて、鑑賞に堪える画像を出力できる人は『妄想師』と呼ばれた。
#ツイッター小説 #一文SF

33
「読むだけで幸せになれる本があるんだそうだ」
「へえ!それはすごい」
「なんでもページに仕込まれた有機ELの特殊な明滅パターンが報酬系を直接刺激してドーパミンを過剰分泌させるんだそうだ」
「それ単なる電子ドラッグだよね!?」
「それ以外に何を期待したんだ?」
#ツイッター小説

34
「お嬢さん」
「僕かい?」
「お、こいつは可愛い坊ちゃんだったか。どうだい坊ちゃん、『物語』を買わねえか」
「物語?」
「そうだ。今から俺が即興で、坊ちゃん1人のための物語を書く。どうだい?」
「大丈夫、間に合ってるしね。それに僕には君が、君を読んで欲しいように見える」#ツイッター小説

35
せっかく滅んだ地球を捨てて、苦労してテラフォーミングした月に逃げ出してきたというのに、1/3の重力下では受精卵が着床できないらしく、私たちも一代で滅んだ。
#ツイッター小説 #一文SF

36
青空文庫にソードアートオンラインが追加された記念にバーチャル空間で開催された式典がハッキングされてデスゲームが始まるなんて、自称ラフコフも洒落たことをする。
#ツイッター小説

37
指を開くと、紙飛行機は滑るように飛んでいった。
「前にもこうやって紙飛行機とばしたことあった」
「あったっけ?」
「あったんだよ。こんな風にふたりでならんでさ。アタシが飛ばすとどうしても戻ってきちゃうから、手紙で作ったらそれだけまっすぐ飛んで—うまくいかないもんだね」
#ツイッター小説

38
「え!珍しいですね所長」
「何か問題が?」
「嫌煙家で有名ですが?喫煙所もここだけに減らされたって」
「嫌煙家じゃなく、禁煙家なの」
所長は溜息をついた。
「今だけ副流煙くらい吸わせてよ」
そういう所長の顔に煙を吹きかける。直後、対物ライフルをこめかみに突きつけられた。
#ツイッター小説

39
私は遂に宿敵を討った。彼は「悪」だった。残虐で、身勝手で、世界の全てを敵に回していて、彼を惜しむ者、悼む者はひとりもいない。
宿敵の心臓を貫き、血を吸った刀身を拭う。そのとき、ひとつの疑問が頭をよぎった。
彼はなんのために「悪」だったのだろう?
#ツイッター小説

40
陸上が好きだ。どうせ世界一速くなんてなれないんだから、隣に走っている人間なんて関係ない。ひとり分の道の上で、前を走っているのは昨日の自分だ。その足音を、全力を爆発させて置き去りにするこの瞬間がたまらなく好きだ。
私は陸上が好きだ。
#ツイッター小説

41
実験は成功に至っていなかった。
様々なセンサーで大雑把に人間の知覚を再現した無数の乳児ロボットを、親役に預けニューラルネットワークで学習させ、知能の発現を試みる実験。
一台、クラウド上の記憶と同期障害を起こした。彼は言った
「ママ」
特別な1人の存在が、私を私にした。
#ツイッター小説

42
「今、世界は危機に瀕している。この脅威は容易に我々を滅ぼし尽くすだろう。今こそ我々は在り方を変える時だ。個々ではなく群として、ひとつの大きな命となるのだ」
単なるミトコンドリアである私の呼びかけに、賛同してくれたものはわずかだった。シアノバクテリアは元気だろうか?
#ツイッター小説

43
「街に帰ってきてたのか。久しぶりじゃないか」
「久しぶりだと……?お前が俺に何をしたのか忘れたのか」
「ああ、忘れたよ。きれいさっぱりな。じゃなきゃ、二度とお前に会えやしないだろ。違うか?」
「!?」
「俺が何かを忘れてるってんなら、お前が思い出させてくれ」
#ツイッター小説

44
彼女と寝たはずなのに、朝俺は女の子2人に挟まれて寝ていた。
「ご主人様ひどい!」
彼女は出ていき、知らない女の子になじられている。
「浮気なんて!ずっと私と寝てたのに!結婚すると言ってくれたのに!」
覚えがない。ん?
「もしかして…布団?」
「はい。あなたのお布団です」
#ツイッター小説

45
素晴らしいものを手に入れた。『どこにもないところの鍵』だ。自宅の鍵穴に入れて回せば、世界のどこにもない場所であればどこへでも通じるというものだ。期待と緊張に心臓を高鳴らせながらドアを開ける。そこには普段の自宅があった。私は微笑み、この世界でもう少し生きようと思った
#ツイッター小説

46
ずいぶんと説教くさいやつが押しかけてきたものだけれど、時間移動してきたわけじゃなくて並行世界から来た私というならミライを名乗るのはちょっと筋違いなんじゃないかと思う。
#ツイッター小説 #一文SF

47
道すがら自販機でジュースを買ったら、当たりが連続して30本も出てきてしまった。途方にくれていると、すぐそばを散歩する幼稚園児が通り過ぎた。先生を合わせて全員に1本ずつあげて、2本だけ持って帰った。30本手に入ったときより、28本失ったときの方が不思議とうれしかった。
#ツイッター小説

48
「愛してるって言葉が嫌いなんだ」
「うん?」
「意味もよく知らないくせによく言える、って」
「ふうん。ところで僕は君とずっと一緒にいたいし、何を見ても君のことを思い出すし、君を抱きしめた——」
「何が言いたい!?」
「愛してるって言いたかったんだけど、嫌いなんでしょ?」
#ツイッター小説

49
終に自動車のワイパーに技術革新が起きたが、まさかフロントガラスが無くなる方が先だなんて
#ツイッター小説 #一文SF

50
公園のベンチで、女性が飴をもてあそんでいる。
「お姉さんなにしてるの?」
「私?私はお菓子の家に住んでるのさ。こうやってお菓子に釣られてきた子供を連れ込んで、食べちまうのさ」
男の子は少し黙ってから言った。
「僕なら、たべてもいいよ」
「……少し太ったらまたおいで」
#ツイッター小説

51
サイボーグ技術の発展により、我々は、マザーコンピューターから送られる命令を脳の電極で電気信号に変換して、肉体および思考と感情の制御が行われるようになりましたが、この状態を生きていると呼べるのかというこの疑問もすぐ削除されるのでしょう。
#ツイッター小説 #一文SF

52
「どうして薬をのまないの!?」
「そんなの、私の勝手でしょう」
「その病気は、この薬を飲めば治るのよ。つらいばかりでしょう。夜も眠れていないのを知っているのよ。」
「それでも!“恋”できなくなる薬なんてまっぴらよ!」
#ツイッター小説

53
「ああ、異世界転生してえな」
「なに馬鹿なこと言ってんだよ。この世界で主人公じゃないんなら、異世界に転生したところでモブだわモブ。異世界からみたらこっちが異世界なんだから」
そう語るクラスメイトの髪は緑色だが、別に染めているわけではないんだそうだ。
#ツイッター小説

54
「勉強なんてしなくていいでしょ。高校を卒業したら私に永久就職して主夫になってくれればいいんだから」
「そうは言っても、やっぱり男なんだからいい会社に入って稼がないと」
「もう!男だからどうとか、そういうジェンダーロールに囚われた考え方は旧時代的で良くないよ!」
#ツイッター小説

55
祖父の病気はもう手の施しようがなくて、最期に見たいものがあると望んだ場所は、私も大好きなあの桜並木だった。満開の桜が空を埋め尽くしている。
「綺麗だね」
車椅子に乗る祖父の顔を覗き込んで笑うと
「これが、僕が見たかったものなんだ」
そう言って祖父は息を引き取った。
#ツイッター小説

56
「よいしょっと」
光電池を敷き詰める最後の作業が終わった。地球が太陽を離れて、時間の感覚は曖昧になったけれど長い時間が過ぎた。今日は天文学者たちが予言した、星が降る日だ。
「きた!」
流星がひとつ流れたあと、空が真っ白に輝く。地球が、オールトの雲に突入したのだ。
#ツイッター小説

57
地球に別れの火が灯る。巨大なブースターが地球そのものを第三宇宙速度まで加速させる。老いた太陽を置き去りにしても、ひとは生きなければならないのだ。孤独が満ちる宇宙を青い船が進んでいく。地熱を頼りにしながら。いつか新たなる太陽に巡り合えると信じて。
#ツイッター小説

58
食べるだけでお金がもらえる—その言葉で想像するほど甘い仕事ではない。今日の相手は白桃パフェ。食前のコーヒーでコンディション万全だ。スプーンの一掬いひとすくいに神経を集中、ストイックに食べていく。
記憶の売買が一般的になった現在、最高の食事の記憶を売るのが私の仕事だ。
#ツイッター小説

59
「おかえりなさい、ご主人様」
家に帰ると出迎えの声がした。彼女はこの間拾った野良メイドだ。
「こんなところで悪いね」
6畳一間にはあまりに不釣り合いだ。
「いえ、ご主人様がいるところがお屋敷です」
私は微笑む。知らないだけで、彼女が億の預金を持っていることを隠しながら。
#ツイッター小説

60
残念ながら、「人間に有益である」という理由で飼われていた動物は絶滅することになった。好事家は本物の肉を好んだが、一度植物を経由して窒素と炭素を定着させるより、合成機を使って直接合成してしまう方が圧倒的に効率が良かった。太陽を離れる旅に、贅沢する余裕はなかった。
#ツイッター小説

61
「…………」
世間の目をはばかりながら、ふたりで旅を続けている。旅の中で、彼は以前と変わらないように見えた。ただ一つ、明らかな違いがあった。泣かないのだ、ただの一度も。記憶には、ことあるごとに泣いていた彼の姿が残っている。なのに私は彼が泣くところを見たことがない。
#ツイッター小説

62
パーソナルアビエーション(個人飛行)システムの普及にはフェイルセーフの実装が最大の課題であったが、世界最大のネットであるインターネットをセーフティネットとして活用することでついに普及に漕ぎ着けた。
#ツイッター小説 #一文SF

63
「もうやめて……許して……許してください」
「ううん。君は何も悪いことしてないよ?してないんだよね?自分でそう言ってたもんね?なにも悪いことしてないから、君は許されない。これは何かの罰じゃなくて、ただ選ばれたんだよ。たまたま選ばれちゃったから、君は壊されるんだよ」
#ツイッター小説

64
「シンについて、ですか?」
彼に対する私の思いは……一言では表せませんね。でも、一番大きいのは……感謝でしょうか。私がラウラ様と出会えたのは、彼が命を繋いでくれたおかげですから。それと、嫉妬も少し。でも、ラウラ様と服を貸し借りできるのは私だけですからね!
#ツイッター小説 #イーラ

65
「シンについて、ですか?」
恐ろしいブレイド、でしょうか。法王庁への輸送船が何隻も襲われていますし。実際にその力を目の当たりにして、私には理解もできない深い怒りを持っているのだと感じました。……ただ、私を斃した彼は何故ああも哀しい目をしたのでしょうか?
#ツイッター小説 #イーラ

66
「シンについて、か?」
変わっとらんなぁ、100年前も、今も。ドライバーが変わっても。あやつは最期までドライバーと共にあり続けるじゃろう。あれはそういう在り様のブレイドじゃ。ワシもあと200歳若ければあれくらいイケメンで彼女も……なんでもないわい。
#ツイッター小説 #イーラ

67
「シンについて、か?」
……変わっとらんなぁ。500年の時も、あやつを変えられなんだ。怒り、哀しみ……全て燃やして断ち切ったつもりじゃろうが、あやつはまだあそこに囚われておる。最期を、迎えそびれてしまったんじゃな。あの道が何か答えに続けと、祈らずにはおれん。
#ツイッター小説 #イーラ

68
「シンについて?」
ちょっと、なんでそんなこと私に聞くのよ!他にあるでしょ!
……はぁ。まあ、理解に苦しむブレイドね。ただのブレイドのくせにあれだけの力を発揮できるなんて。嫌味で性格悪いし、料理の腕も私に引けを取らないし……ってちょっと何よその顔は!
#ツイッター小説 #イーラ

69
「シンについて?」
そりゃあ、自慢のパートナーでしょ。料理もうまいし、優しいし、強いし。…え?そういうこと聞いてるんじゃない?ちょっと!何を想像してるの!
…でも、シンはブレイドなんだよね。別の誰かと同調するなら、あの仮面だけでも持っていてくれたら嬉しいな…
#ツイッター小説 #イーラ

70
待ってくれてありがとう。ごめんね、ごめんね。私のせいで。辛かったよね。頑張ったね。あと少しだけ待って。伝えてなかったことがあるの。伝えなきゃいけないことがあるの。あのとき本当に言わなきゃいけなかったことを。一つだけ、最後に、あなたに。
「大好きだよ、シン」
#ツイッター小説 #イーラ

71
「だからお前はいつになったら寝癖を直してくるんだ!それでも女か!」
「花のJKに失礼ですね。また寝坊したんすよ。先輩、また直してください」
「ったく…ってコーム忘れてやがる。まあ、手櫛でもやらないよりマシか」
「!?」
「ほら、できたぞ……ってどうした、急に座り込んで」
#ツイッター小説

72
「これは『法の書』だな?」
「…はい」
「アレイスター・クロウリィが著した“どんな解読法でも読めるから、本当の意味がわからない本、だな?」
「…はい」
「俺はお前の能力を見込んで解読を命じた、そうだな?」
「…はい」
「なぜお前はそれでシコった!」
「本当、すみません…」
#ツイッター小説

73
「ねえ」
「うん?」
「海に着いたら何がしたい?」
その問いに、オンボロの車の窓から肘を出した。
「ああ……そういえば考えたことがなかったな……。海に日が沈むまで、ただ眺めていようかな」
「その間隣にいてもいい?」
「ああ」
「なら……太平洋側に行かないと」
「はぁ!?」
#ツイッター小説

74
「2020年に携帯ゲーム機の歴史は一度途絶えたんだとさ」
「ん?携帯しないでどうやってゲームするんだ?」
「据え置き機が主流になったらしい」
「据え置き?」
「モニターを置いて、コンセントから直接電源を取るタイプのゲーム機」
「モニターを?置く?何のために」
「……さあ?」
#ツイッター小説

75
「そんなの、飛行機で宇宙に行こうとするようなもんさ」
何度も笑われた。けれど
最新の流体力学に基づいた全翼機、超高出力ジェットエンジンと最良のケロシン。上を目指すな。ひたすら水平に。前へ。重力を振り切って。
「Higher than the sun!」
いま、想いは第二宇宙速度を超える
#ツイッター小説

76
エクサバイト級ダイヤモンドメモリーが普及した結果、最速の通信手段はバキュームネットワークを通じた物理輸送になり、スロットから飛び出すメモリーに衝突して死傷する事故が後を絶たなくなった。
#ツイッター小説 #一文SF

77
昔々、栄光を夢見る男がいた。だが男は、夢見ながらも何も努力をしなかった。男はそのまま老い何もなさずに死んだ。
遺品整理で見つかったそれは、彼の架空の成功に対するインタビュー記事だった。
それを読んだ人は嘆息して言った。
「彼は世界一のインタビュアーになれただろうに」
#ツイッター小説

78
初めてのおうちデート。
「アロマなんてあるんだ。いい匂いだね。なんの香り?」
「ラベンダーと、イランイランって花の香りだよ」
それを聞いた私は、思わず彼女を抱きしめた。
「もう、なんでそんな可愛いことするの?」
「だって…こんなに効果が強いなんて知らなかったんだもん」
#ツイッター小説

79
それは仕組まれた戦い。不老を実現するための、64人の強者の魂を奪うトーナメント。最後に待ち構えていたのは創造主。右手と左手で別の勇者を操る、主人にして狂人。圧倒的不利な2on2。けれど
「なぜだ!FPにそんな力は無いはず!」
「俺達は負けない!」
それは生涯の好敵手のFPだった。
#ツイッター小説

80
「ああいうシチュエーションが好きなんだよなぁ!身近にいる人が実はスーパースターだった!みたいな」
「パー子?」
「そんな感じ!」
「……でも、リアルだったら気付くよね普通」
「だよな」
「……そうでもないか」
つまらなそうに歩く君を見送った私はマネージャーの車に乗った
#ツイッター小説

81
豊満な体のサキュバスが夢の中で囁く。
「賭けをしよう。これから1時間、君は私に何をしてもいいが、その間に絶頂したら君の魂は僕のものだ」
そして1時間後
「何をしてもいいとは言ったが、これは想定外だ…」
純白のウェディングドレス、揃いの指輪。
「ああ、僕の魂は君のものだ」
#ツイッター小説

82
「なあ、今年の夏はどうだった」
その問いに、彼女はタイプを止める。
「—海やライブ、花火大会といった夏らしい催しは一切参加できませんでした」
流れるように挙げられたリストに苦笑する。
「ですが」
「ですが?」
「貴方がいました」
彼女は真っ直ぐ私を見た。
「完璧な夏です」
#ツイッター小説

83
「いやー、とうとう樹が彼女を連れてくるとは。しかもこんな可愛い」
「……」
「親が早逝して、姉さんが俺を育ててくれたんだ」
「お義姉さん!」
「うん?」
「樹くんと結婚したら、お義姉さんともエッチできますか!」
「何言ってんの!?」
「いいよ。家族だもんね」
「姉さん!」
#ツイッター小説

84
サイゼリヤにて
「僕は勇者になりたかったんだ」
「言ってたな」
「でも、なれなかった。だって、ここは物語の世界じゃないし、この世界には魔王なんていなかった」
「……」
「だから、僕が魔王になったんだ」
そう言って伝票を取りながら立ち上がる。
「さあ、僕を止めてよ。勇者」
#ツイッター小説

85
「そのEテレを感じる箱は何?」
「『せんぱいスイッチ』です。先輩を思い通りに動かせる優れものです」
見ると、箱の上には丸の中にき・せ・ぱ・なと書かれている。
「恣意的だね」
「せんぱいスイッチ、せ」
「いきなり!?」
仰反ると、後輩が立ち上がった。
「せ、は背比べですよ」
#ツイッター小説

86
「重い毛布を掛けて寝ると不眠が改善されるんだって」
「ふうん」
「と、いうわけで。さあ、僕の上にどうぞ」
「ちょっと!それアタシが重いって言ってない!?」
「今使ってる毛布よりはね。それに暖かくて柔らかくて可愛くて世界一大好きだって」
「む、むー!」
「さ、僕の上に」
#ツイッター小説

87
脳波を分析してあらゆる種類の痛みを絶対評価し数値化する技術が完成することはしたのだが、出産時の痛み値を見た男性がみんな失神したのでお蔵入りすることになった。
#ツイッター小説 #一文SF

88
「なんでだよ!あんた、ヒト・モニュメントなんだろ!なら、『ヒト・モニュメントの作り方』だって知ってるはずだろ!」
ヒト・モニュメント。人類の全ての功績を“記録”した存在。
「ああ、当然知っている」
「なら——」
「世界が滅ぼうが、俺はもうヒト・モニュメントなぞ作らせない」
#ツイッター小説

89
(5秒で泣ける女優だって)
(インスタントな涙)
聞いた陰口が頭の中を反響する。膝を抱えていると、同居人の手が頭に乗った。
「違うよね。君はどれだけ汲んでもなくならないくらいの悲しみをもう持っているだけだよね」
私は膝をぎゅっと抱く。涙のタンクに穴が空いてしまいそうで
#ツイッター小説

90
「王子は硝子の靴がなくてもシンデレラがわかったはずなんだよ」
「なぜ?」
「舞踏会で踊ったでしょ?だから、手で見分けられたはずなんだ」
「手だけで?」
「うん。シンデレラだけが家事をしていたから。それが分からないなら、王子はシンデレラに相応しくない」
「……ありがと」
#ツイッター小説

91
耳かきというのは一種の愛情表現だったらしく、耳壁や鼓膜を傷つけない力加減を実現し、かつ耳垢も検知できるだけの精度を出すために最新のレーザー圧力センサをつかい、枕部分の硬度にまでこだわった自信作の耳かきロボットはすぐにお蔵入りになった。
#ツイッター小説 #一文SF

92
「『科学者が死んだ子供をもとにロボットを作る』なんて、SFではありがちだけど、君のそれも相当病んでるよ」
「うるさい」
「それは彼女本人じゃない」
「お前に何が分かる」
「引退した同人声優の過去作から合成音声を作るなんて」
「もう一度彼女に逢いたいと願って何が悪い!」
#ツイッター小説

93
彼には顔がなかった。それは便利でもあったが、誰からも覚えられないのは難点だ。
「またか」
青物屋から拝借した林檎を齧りながら歩いていた彼は呟いた。見ると杖を突いた少女が道を渡りかねていた。手を引いた。渡り終え、少女が言った。
「何度もありがとう」
彼女には目がなかった
#ツイッター小説

94
「勇者が、まさかこんな子供とは。世界の破壊は止まらぬぞ!」
「謎だったんだ。『お姉さんにモテモテ』なんて馬鹿なチートを選ぶ僕を女神様が選んだのが。でも、わかったんだ
女神様は世界を守りたかったんじゃない!あんたを救いたかったんだ!そして僕は、お姉さんを見捨てない!」
#ツイッター小説

95
それで、先輩……なんなんですかこれは?ギモーヴ・オ・フレーズ、要するに……いちごマシュマロ?調子に乗ってどんぶりで作ったけど、食い切れなくて呼んだ?先輩、ぼやかしてますけど、これ女子に見せていいものじゃないですよ?男の子ってどうしてこうアホなんですかね?
#ツイッター小説

96
「知ってるか?ふたつ向こうの遺跡で大量のファンタが発掘されたらしい」
「まじでか!?」
「盗ってくるのを手伝ってくれたら、全部飲んでいいぜ?俺は缶だけもらう」
「先史時代の珍味を!?お前、太っ腹というか……馬鹿だな」
「——馬鹿はそっちだ。アルミ缶は電気の缶詰なのに」
#ツイッター小説

と、今日はここまで。昨日で96篇になったみたいだ。

ここまで読んでくれるなんて、あなたはずいぶん心が広い。心からお礼を言いたい。言った。

以下追記

97
「どうしたいきなりラーメン出してくるなんて。しかも玉子まで入ってる。朝から何も食ってなかったからなぁ。ありがと。いただきまーす」
「……お前アニメ好きだったよな」
「ん?まあ好きだけど?」
「落とし卵のラーメンというと?」
「『あの花』?」
「お前はもう死んでるんだよ」
#ツイッター小説

98
「好きです!」
「ごめんねー。私、イケメンとしか付き合えないんだ」
申し訳なさの欠片も無い表情で彼女は言った。泣きそうだ。
「だから、ちょっと座って?」
意味が分からず、されるがままに座る。
5分後
「ほら、ちょっとメイクするだけで私好みのイケメンになった」
#ツイッター小説

99
まあ、神の見えざる手というか、市場原理は経済学が見つけた数少ない真理のひとつなのだから当然と言えば当然なんだけど、インターネットの発達によって需要と供給が逆転した結果、小説家がお金を払って数少ない読者に読んでもらうようになったのはどうにも腑に落ちない。
#ツイッター小説 #一文SF

100
そういえば、子どもの頃に読んだあの本はどこだろうか?たしかに大切な友達に貸した記憶はあるのだけれど、あれは確か夢の中でのことだったはず。本棚に整然と並べられた本の中から探すけれど見つからない。私はため息をついた。
#ツイッター小説

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