三年千篇ツイッター小説 互の100篇

毎日1つ、1ツイート分の小説を書いている。

三年千篇と銘打って始めたが、なんと折り返し地点の500篇に到達してしまった。

400まではこちら

前置きはともかく、始めよう。

401

スイスチーズに穴が空いていることが明らかになった。
政府はネズミを駆除すると発表した。
大量の猫が動員され、ついにネズミは絶滅した。
ちなみに、ネズミはチーズを食べず、チーズの穴は発酵時に生じるガスによるものである。
#ツイッター小説

402

街のはずれの、主人を亡くした洋館に、歳の離れた夫婦の幽霊がでる。
「懐かしいな。私が初めてここに来たのも、君くらいの歳だったよ」
夏に惑わされて忍び込んだ男の子を、コーヒーでもてなしながら老人は眩しそうに目を細めて言った。
「どうだい、妻は美しいだろう?やらんぞ?」
#ツイッター小説

403

夏休みの絵日記を採点していて、珍しいものを見つけた。

1日目。今日は家族みんなで海に行く夢を見た

夢の日記。なるほど、いい考えだと思った。ただ、日記の様子が少しずつおかしくなり、最後にはこう書かれていた。

今日の夢で、これが小説だと分かった。だからこれでおしまい
#ツイッター小説

404

遠方の母から手紙が届いた。いや、正しくは封筒が届いた。中に入っているべき手紙はどこにもなかった。仕方ないのでこちらからも手紙を書こう、と思った時、はたと気づいて封筒をもう一度よく見たところ、確かに小さな山羊の絵が見つかった。
母が昔良く歌ってくれた歌を思い出した。
#ツイッター小説

405

ボトルシップだとか、梨入りの酒瓶と同じようなもの。見ようによっては確かに合理的と言えるかもしれない。生まれたての、小指の先ほどの大きさのハムスターを詰めたプラスチックのボトル。それでも、『ペットボトル』なんていう冗談のために1つの命を閉じ込めるなんて。
#ツイッター小説

406

「大盛況じゃないか。さすがは世界を救った勇者様といったところか」
「そんなんじゃないよ。チートは向こうに置いてきたのは君も知ってるだろ。ただ」
「ただ?」
「ステータスウィンドウはこっちでも開けるみたいなんだ。デバフとスキルが分かるだけでまるでマーリンあつかいだよ」
#ツイッター小説

407

「あの、先生?さっきから時々コピー機が勝手に動いてるのは何ですか?」
「ああ、これは月野先生のツイートを全て自動で印刷してるんだよ。彼女は私なんかよりずっと偉大な作家になるぞ」
翌日、彼女の謎の死が報じられた。
「…………この中に、犯人に繋がる情報があるはずだ」
#ツイッター小説

408

子供の頃、休みの日に朝起きると、時々パンケーキの塔が甘い匂いを漂わせていることがあった。
「お母さん、これどうしたの?」
と尋ねると
「これはね、うっかり屋根裏のネズミ穴から落ちちゃったネズミが、巣に帰るために作ったの」
と言われたのだけれど、まさか本当だったなんて。
#ツイッター小説

409

「ふむ……なるほど。奇妙で理解不能な文化だと思っていたが、同じタイミングで空を見上げることによるミラーニューロンの活性化とドーパミンの相乗効果による親密感の向上か」
「何ぶつぶつ言ってるの?次あがるよ」
そう言った君の花火に照らされた横顔に見惚れていたことは秘密だ。
#ツイッター小説

410

「なんであんたの小説は不条理な悲劇ばっかなんだよ!」
「物語というのは人間が不条理を消化するために創り出したものだ」
「だからなんで『天国』でこんなもん書いてんだって聞いてんだよ!」
「『だから』だよ。アンタがこの不条理を消化するといい。アンタの『物語』で」
#ツイッター小説

411

人間をつまみ上げてバリボリと頭から食べる宇宙人が地球に襲来したせいで、まあ人類は絶滅したのだけれど、その宇宙人が美女型だったので、人類の内の男性の中のだいたい2割弱くらいはそれまでの人生よりなんか幸せそうに食べられていったのは救いといえば救いか。
#ツイッター小説 #一文SF

412

それから雨は降り続けた。私の考えていた通り、どれだけ降っても海に流れ着いてしまうのだから、陸地が沈むということはなかったのだけれど、想定していなかったのが浸食作用で、結局陸地は全て削り取られてしまった。
#ツイッター小説

413

「会長?どうしたんですか冷凍庫からアイスなんて」
「もうすぐ奴が来そうだからな」
ドタドタ
「会長!……なんでアイスにコーヒーかけてるんですか?」
「防御してないとアホがうつりそうだから」
「アフォガート……アホガードってことですか!?」
「高度にアホなやりとりだ……」
#ツイッター小説

414

ただの吊り橋効果だ。そんなことあるわけない。危機的な状況で生存本能が活発化してるだけ。尻軽だと思われたくない。
文明崩壊から1年、ようやく会えた他人が運命の人だなんてあるわけがない。
……俺はため息をついた。
(めっちゃ熱い視線を送られてるけど、俺も女なんだよな……)
#ツイッター小説

415

「ガラス玉で誤魔化せるわけねえだろ!ちゃんとダイヤを持ってこい!」
怒鳴りつけられた少年が不満そうに頬を膨らませる。
「ガラスだって綺麗じゃないか」
「見てくれはな。だがダイヤは『役に立つ』んだよ」
そう言うと、男は傍らにあったダイヤをむんずと掴んで暖炉に放り込んだ。
#ツイッター小説

416

「透明人間が死んだ」
その噂に私は辟易した。見えないからといって勝手に殺さないで欲しい。と、ドアベルが鳴った。
「はい」
「失礼。警察ですが、最近亡くなられた透明人間の方について何か知りませんか?」
「え?私以外に透明人間がいたんですか?」
「知らなかったんですか?」
#ツイッター小説

417

首に鋭い痛み。反射的にナイフを引き抜いて投げ棄ててから悪手だったことに気づく。刺客?復讐?いや、そんなはずはない。だって、一人残らず殺したのだから。
「あぁ、そうか」
薄れる意識の中で気づく。あの日殺し損ねたもの、まだ人間の心を持っていた俺が、俺を許さなかったのだ。
#ツイッター小説

418

私はドキドキしていた。
我儘を言って叔父さんに買ってもらった白のワンピース。これを着て私は、ひと夏の恋に——
「君」
「は!はじめまして!私、この夏はおじいちゃんの家に来てるの」
「残念。僕もここの人じゃないんだ。でも、仲良くして欲しいな。たぶん、君と同じだから」
#ツイッター小説

419

「彩花〜〜!!!」
「なんだ騒々しい」
「何なのこのインタビューは!」
【Q. 人気小説家とイラストレーターの女性同士の同居ということで話題ですが、肉体関係はありますか?
A. 当然】
「騒ぐことか?無いものは無いんだからそう答えるだろ」
「あんたは“当然”って答えてるから!」
#ツイッター小説

420

「お兄ちゃん、またその子の配信アーカイブ聴いてるんですか?何見てるんだ、って気にするんなら有料版でバックグラウンド再生でもしてくださいよ。自分の兄が甘々妹系ASMRで身悶えしてるのを見る妹の気持ちを考えたことがありますか?

……自分で自分に嫉妬するなんて馬鹿みたい」
#ツイッター小説

421

放課後、呼び出された教室に待っていた2人の顔を見て用件を悟った。年貢の納め時、だろう。
「2人で話しあって決めたんだ。君に選んで貰おうって」
「どっちにするか、だろ?」
俺の言葉に2人が小さく笑みを浮かべる。
「違うよ。君が選ぶのは」
「1人を選ぶか両方を愛するか、だよ」
#ツイッター小説

422

まずは乾杯をしよう。目の前の問題から片付けなければな。さて、ほどよく酒が回ったら聞いて欲しい。この船は沈没する。残念ながらボートで逃げても助からない、どうする?……なに?船を半分に切ってそれで新しい船を作るだって?ははっ!馬鹿馬鹿しい。だが、乗った。やってみよう。
#ツイッター小説

423

「どうしたの?」
「この世界樹に生る林檎を食べれば不老不死になれるって」
その言葉に少女はため息を吐く。
「そんなもの無いわ」
「何故そう言い切れる」
「この樹はりんごの樹じゃなくてヤドリギだからよ」
「そんなこと」
「もう一度言うわ。この樹はりんごじゃなくてヤドリギ」
#ツイッター小説

424

「最近オバケってあんまり見なくなったよな」
「最近、って昔は見たのかよ」
「そりゃもうたくさん」
「時代の変化がオバケに関係あるのかよ」
「そりゃ、CGの進歩のせいだろ」
「は?」
「やっぱり2Dアニメの手法だからな。オバケは。3Dが主流になった今じゃロストテクノロジーだよ」
#ツイッター小説

425

「ゆかいですね」
「ゆかいだな」
「なるほど、ゆかいね」
「…………」
限界を迎えた4人は、大きなため息をつきながらテーブルに突っ伏した。
「物資が不足して茶葉が手に入らなくなったとはいえ、お茶の代わりに白湯を飲んだら『茶会』ではなく『湯会』、なんてことにはならないわ」
#ツイッター小説

426

「あんたが『食事制限なんてしなくても、毎食キャベツを1kg食べてから食事をすれば簡単に痩せられるのに〜』なんて言うから信じたのに!むしろ太ったじゃない!」
「いや……1kg食べてからいつも通りのご飯食べたの?食べられたの?」
「あっ……美味しゅうございました」
「馬鹿!」
#ツイッター小説

427

「お前が人間だって?ははっ。血も通っていないお前が?そんなに硬い金属ばかりの身体のどこに人間の心が宿るというんだ?」
「……自分が生身を継ぎ接ぎにして作られたからってその程度のことでマウントを取るなよ。『フランケンシュタインの怪物』、この腐った死体が」
#ツイッター小説

428

人間は、現象を、感情を、あらゆるものを見定めて、それに『名前』を付けることでそれを支配下に置いてきた。
けれど、名前をつけてはいけないものもある。
「何?」
「なんでもないよ」
私は幼馴染に笑顔を向けた。
これを恋と呼んでしまったら、私にはどうすることもできないのだ。
#ツイッター小説

429

「私ね、本当は気づいていたのよ?あなた、もうストレージなんてとうの昔にいっぱいになっていて、ずっとRAMをやりくりして過ごしてたんでしょ」
「ご安心ください。私は主記憶装置だけで1PB保有しています。あなたの最期の言葉を記憶するのに、まだ十分な領域が残っています」
#ツイッター小説

430

「どのみち俺らは出来損ないさ。傷だらけの欠けだらけ。見苦しいったらありゃしない。でもな、欠けも凹みも無い完璧に平らな板は、鍵になることはできないんだ。欠けがあるから何かを回せる、何かを開けられるんだよ。いまはそれが何なのか分からなかったとしても」
#ツイッター小説

431

「……本当にあるもんなんだな」
大航海時代、多くの商船を襲って莫大な財宝を得たという海賊船。その船長が万一の時の再起のために太平洋の孤島に隠した宝の地図。膝ほどの高さの宝箱を開けた私は、目を丸くして、肩を落として、笑った。
「なるほどね」
箱には胡椒が詰まっていた。
#ツイッター小説

432

「私、卒業式の日に先輩にラブレターを書いたんですよ。字が汚いのがコンプレックスだったんですけど、必死に綺麗な字で。でも、差出人が書けなくて。いつもの字で書いてたら、先輩は気づいたんでしょうか……」
「ああ、それであいつ“川崎、字が上手くなったんだな”って言ってたの」
#ツイッター小説

433

「かにじゃなくてカニカマの方が好きだってことも、別に珍しくはないだろ?」
一世一代の告白をしたはずが、なんとも気の抜けた例えに感情の置き場が分からなくなる。貴方は微笑んで続ける。
「だから俺はお前のことが好きだよ。俺の婚約者じゃなくて、結婚詐欺師だったお前のことが」
#ツイッター小説

434

昨晩、この閉ざされた山小屋で殺人事件があったのは確かだ。致死量の大量の血痕に、凶器もある。
じゃあ、みんなで探そうじゃないか。犯人を?いや、それは後でいい。それは差し迫った問題じゃない。
今すぐ明かさなきゃいけないのは、
『この中の誰が殺されたのか』だ。
#ツイッター小説

435

3年間の寮生活もついに終わりを迎えた。
「最後に一つだけ聞いていい?」
「何?」
「私がいつも名前を書いて冷蔵庫に入れてたプリン」
「あ」
「なんで勝手に食べなかったの?」
その言葉に彼女は苦笑する
「……なあ、あいつ何言ってるんだ?」
「分からない?喧嘩したかったって」
#ツイッター小説

436

当時最新鋭の天体望遠鏡が、超超巨大天体が地球を飲み込む軌道を走って迫り来るのを確認した。残念ながら地球に生きる以上、それから逃れるすべは無い。
初観測から6億5312万4710年が経過したが、超巨大天体は軌道を変えることなく、天文学者が予測した通りに地球に近づき続けている。
#ツイッター小説

437

「ん?」
アルバムを整理していた手が止まる。
「どうした?」
肩越しに覗き込んだ恋人が訊ねた。
「いや、この写真に写ってるのって誰だっけと思って。まだ小学生の頃に仲が良かった、とても大事な人だったはずなのに」
それを聞いた恋人は眉を上げる。
「いや、それアタシだから」
#ツイッター小説

438

「人間が嫌いなんだよ」
首猫背な男がそう言った。
「嘘とか物語とかそういうものは好きだけど、人間は嫌いだ」
それを聞いた私は眉間に深く皺を寄せる。
「じゃあなんで私に付き纏うんだ」
「あんたは、人でなしだろ?俺と同類さ」
私は心底不快に思ったが、否定はできなかった。
#ツイッター小説

439

「ねえ、あなた。ちょっと聞いてもらっていい?」
「何?」
「翔太が夏休みの自由研究で『海の水から塩を作る』って言ってコップに入れてあった海水があったでしょ?……あれがここ2、3日半固形状になって動いてるのだけれど」
「ああ、海は命の母って言うからね」
「そういう問題!?」
#ツイッター小説

440

お父さんは箱を大事にしていた。木製の幾何学模様が敷き詰められた箱で、奇妙なことにどこにも口がなかった。
「お父さん、これは?」
「これはお父さんの宝物なんだ」
中に何が入っているかどうしても気になった私は、ついにそれを割ってしまった。
「ああっ!僕の108回秘密箱が!」
#ツイッター小説

441

僕の病室には世界の全てがあった。白い壁と、点滴。そこに君が来るまでは。
君は病室に無いものをたくさん知っていた。窓、虹、海。
君が病室を去って、僕は外に出たいと思った。それを叶えて、僕は知った。外の世界には世界の全てがあったが、僕が一番欲しいものはもう無かった。
#ツイッター小説

442

「隠さないでよ〜。君ってぇ、何耳なの?」
猫耳の少女が自室に連れ込んだ同級生の男子にしなだれかかるようにして問い詰める。
「もしかして、狼?私、食べられちゃうのかな?」
「狼、じゃないけど……」
少年が帽子を取る。
「我慢はできないかも」
そこにあったのはうさ耳だった。
#ツイッター小説

443

鏡の向こうに行こうとしても、向こう側の私が邪魔をして鏡に入れない。業を煮やした私は鏡に拳銃を向けた。私は引き金を引いたが、鏡の向こうの私はただにやりと笑った。銃弾が音もなく鏡に吸い込まれる。私の鳩尾に穴が空く。
「ああ、ようやく邪魔者がいなくなった」
私の声がした。
#ツイッター小説

444

「賭けをしよう。このコインが地面に落ちた時、表ならお前が俺を殺す。裏なら俺がお前を殺す」
「ああ」
その返答にニヤリと笑った彼が親指で弾いた硬貨は金属音と共に宙を舞った。それを彼がぱしりと宙で掴む。
「おい!」
「おっとすまない」
そう言うと彼は私にそれを投げ渡した。
#ツイッター小説

445

運動が苦手だから、体育の時間は地面ばかり見ていた。そんな中、校庭の砂の中に、無色透明なキラキラ光るものを見つけた。ダイヤモンドかもしれない、そんなことを考えて僕はそれをつまみ上げた。
ずいぶん後で知ったのだけれど、それは珪砂というありきたりなものだったらしい。
#ツイッター小説

446

「なんで悠太は雨でも傘を差さないの?」
母がタオルを洗濯機に放り込みながら弟の愚痴を私に聞かせる。
「……分かった、なんとかしてみるね」
次の日は晴れだった。
「ただいま」
「おかえり」
5時に帰ってきた悠太の頭を私は撫でた。次の雨の日から、悠太は傘を差すようになった。
#ツイッター小説

447

「悪いか?知ってるだろ。アタシは欲張りなんだよ」
少女は男の子の手を掴みながら言った。
「どっちかしか選べないとか、そんなことは認めない。アタシは全部欲しいんだ。生まれてからずっと一緒の幼馴染も、なんでも話せる親友も、恋人も
……アタシが欲しいのはアンタの全部だ」
#ツイッター小説

448

誰にも見えない。深夜の、街灯もないこの公園では、私自身にさえ私が見えない。足の音と身体を撫でる風だけで振り付けを確かめる。感覚が研ぎ澄まされる。だからこそ、イヤホンから流れる曲が止まる前に誰かが立ち去る足音が聴こえて、驚いて開いた目は私の高校の制服の後ろ姿を視た。
#ツイッター小説

449

妻は沈痛な面持ちでテーブルに項垂れていた。
「どうかした?」
「昨日ね、迷子を見つけて交番に届けたの。無事にお母さんに会えたらしいんだけど——」
「いいことをしたじゃないか」
妻は小さく震えながら、ため息を吐いて続けた。
「その子の『1割』が今日ウチに届いたの」
#ツイッター小説

450

「行かないと」
駆け出そうとする肩を同居人が掴む。
「作品から作者のプロファイリングするのやめろって言ったろ。知りたくもないことを知ることになるって」
「そうだけど!」
「お前に何ができる」
「でも!15歳なんだよ!こんな老害の影武者として使い潰していい才能じゃない!」
#ツイッター小説

451

「すみません」
バスで座っていると、見知らぬ声に話しかけられた。
「白杖をついているということは、目が見えない方ですか?」
「ええ」
「貴方は運がいい」
「なぜ?」
むっとして聞き返すとその声は答えた。
「さっき運転手が突然死しまして、崖から落ちているところだからです」
#ツイッター小説

452

お隣のお姉さんに気が付いたのは、ここに越してから数日後のことだった。午後の柔らかい日差しに照らされて、窓枠にもたれかかりながら幸せそうな笑顔で眠っていた。僕は飽きずにそれを見つめていると、日が暮れて夜になった。ご飯を食べて戻ってきてもまだ寝ていた。10年後の今も。
#ツイッター小説

453

「先輩!音が外れてないか聞いてもらっていいですか?」
「うん。いいよ」
その様子を見ていた俺は右眉だけ上げるような顔をした。
「……あいつが先輩って呼ばれてるの違和感がすごいな」
「なんで?先に入部したのはあの子なんだから先輩でしょ?」
「いや、でもまだ中学生だぞ?」
#ツイッター小説

454

「ねえ、ずっと一緒にいてくれる?」
「もちろん」
「一生?」
「ああ、死ぬまで君を離さないよ」
「ほんと?嬉しい」
君は笑ってそう言うと、その約束を果たすために一番確実な手段を取った。
「まったく、思い切りがいいのはいつものことだな」
#ツイッター小説

455

「もう!ちょっと見てくれる?」
「どうした?」
同居人に呼ばれて画面を覗き込む。
「依頼主からOKが出なくて」
「……腕立て伏せなんて珍しいリクエストだね」
「腕立て伏せってリクエストされた訳じゃないけど」
「じゃあ、なんで?」
「『バストアップの絵をお願いします』って」
#ツイッター小説

456

「昼ごはんは何にしようか?」
「別に。世界一有名なハンバーガー屋とか?」
私の返答にあいつは楽しげに吹き出した。今日ずっと上機嫌なのが妙に癪に触る。
「何?」
「ハンバーガーって大口を開ける料理でしょ?自然体でいてくれてるんだなって」
「……」
私はパンケーキを頼んだ。
#ツイッター小説

457

「おいおい、笑えよ」
「……これから命懸けで戦うってのに、笑えるわけないだろ」
「命懸けで戦うからだよ。しかめっ面で戦うなんて負ける奴がやることさ。笑顔ってのは、もともと威嚇の表情が変化したもんなんだ。笑えよ。牙を剥き出しにして。あいつらなんて食ってやるって」
#ツイッター小説

458

「重いなぁ」
私は彼からもらったテディベアを抱き寄せながら呟いた。愛の重さだ。綿や布、有機物だけじゃ説明できない重さだ。別に音が出る機能があるわけじゃない。きっと中には幾らかの電池が入っていて、目がカメラになっている。
「おやすみなさい」
私はクマの鼻にキスをした。
#ツイッター小説

459

「博士、どうしたんですか?」
「私は新しい発明をしたのだ。とても素晴らしい装置だ。だが、同時に非常に危険な装置だ。だから、自分自身を実験台に実験を行ったのだが……」
博士は深いため息を吐いた。
「この発明が何だったのか思い出せないのだ」
それは、記憶を消す装置だった。
#ツイッター小説

460

「急に誘ってくるなんて、先輩は本当にカラオケが好きですね」
「それが違うんだ。——昨日、1人カラオケしたんだけど、全然楽しくなくてさ。俺が好きなのはカラオケじゃなくて、好きな人が好きなものを自分も好きだと知れることだったのかなって」
「先輩急に何言ってるんですか!?」
#ツイッター小説

461

「砂浜にハリボテの城なんて建てて何のつもりだ。守りの足しには欠片もならんぞ」
「まあ見ていろ」
その言葉に深いため息を吐く。こんなもの1刻もあれば倒されるし、そもそも今日は大潮だ。敵が来なくても勝手に倒れる。とその時、土台が崩れた城が音を立てて敵軍に倒れ込んだ。
#ツイッター小説

462

「ねえ、この絵を見てくれる?」
「うわっ。何このおっぱい」
「でしょ?そう思うよね?」
「?」
「普通の人は、3時間かけて細部まで精密に描き込んだマクミランTAC-50よりも爆乳に気が取られるのだから、チェーホフは不必要な銃よりも不必要な爆乳に苦言を呈すべきだったと思うの」
#ツイッター小説

463

「ねえ」
「うん?」
私の呼びかけにあなたは振り向く。
「それ、毒なんでしょ?なんで飲むの?」
「知りたいかい?それはね……」
あなたが真剣なまなざしで私の目をのぞきこむ。私は息を飲む。
「甘いんだ」
そう言ってニッと笑ったあなたの気持ちも、今なら分かるような気がする。
#ツイッター小説

464

「奪われたものは、時間が経つと奪われたことも分からなくなるんだよ」
「なんのこと?」
「凧揚げを知ってるかい?電線が空を覆うまでは、子供はよく揚げたものだ」
「知ってるけど、楽しそうだとは思わないな」
「まあ、そうだろうね。同じように、昔は政府を自由に批判できたんだ」
#ツイッター小説

465

「雨は嫌いだ。嫌いだったんだ。嫌いだったんだが……。この間、君が一緒の傘に入って、並んで歩いてくれただろう?あれ以来、雨音を聴くたびに、あの時の君の声が思い出されるようになってしまって——。このままでは、いずれ世界の全てを好きになってしまいそうだ」
#ツイッター小説

466

「最後に聞いておいてやろう。魔王!なぜ世界に戦線布告などした!」
「ん〜。ほら、戦いの中で絆って生まれるだろ?世界のために命をかけるようなお人好しに、恋人ができたらいいなって」
「そんなことの為に——」
「お前は文句付けんなよ。知ってんだぞ?昨夜はお楽しみでしたね」
#ツイッター小説

467

個人飛行機の普及はついに起こらなかったが、200階建ての高層マンションが一般的になった結果として、誰もが毎朝玄関からではなく、ベランダからパラグライダーで通勤通学のスタートを切るようになった。
#ツイッター小説 #一文SF

468

牛などの消化器官に生息する、セルロースを分解できる微生物を、人間に安全に移植する技術が確立したことによって、紙や藁、薪まで食べられるようになった人類は、食糧問題をほぼ恒久的に解決したのだけれど、代償として人類全体が、ひどい便秘に悩まされるようになった。
#ツイッター小説 #一文SF

469

「なあ、こんなに錆びた聖剣を使えるようにできるんだろ?なら、こいつも研いでやってくれないか?」
「この剣を?なんの変哲もない鉄の剣に見えるが」
「そうだよ。普通の店売りの剣だ。けど、特別に作られた聖剣よりも、大差ない剣の山から俺が選んだ剣が、俺にとっては特別なんだ」
#ツイッター小説

470

「ずっと不思議だったんだよ。なぜおうちデートのたびにチャーハンなんだろう、なぜチャーハンがケチャップで味付けされているんだろうって」
「……」
俯く彼女に、私は温かな苦笑を向ける。
「こういうことだったのか」
私はハートマークの描かれたオムライスにスプーンを入れた。
#ツイッター小説

471

「先生」
切なげな声で、ベッドに仰向けになった家庭教師先の女子高生に呼びかけられてビクッと肩を震わせた。
「どうしたんですか?先生が言った通り、エッチじゃないご褒美ですよ?」
そう言って彼女は口元まで引き上げたブラウスの裾を握った。
「さ、お腹、なでなでしてください」
#ツイッター小説

472

「さすがにちょっとショックだわ。いつも断るから焼肉嫌いなのかと思ってたのに、1人で焼肉屋から出てくるなんて」
「違うんだ。みんなでやる焼肉は……こう、多いんだよ。情報量が。1人で1枚と向き合わないと上手く焼けないんだよ、僕は」
#ツイッター小説

473

「これがきなこもち。炒った大豆の粉がかけられてて、甘くて香ばしくて美味しいんだよ」
「もう!図鑑で言葉で説明されても、食べたこと無いから味なんて分かんないよ!『絵に描いた餅』そのものじゃん!」
「そうは言っても、もちを食べるのは危ないから法律で禁止されてるからねえ」
#ツイッター小説

474

ぽちゃん。木の枝に糸とやわらかさきイカをつけた簡易的な釣り竿が水音を立てる。
「ねえ、ザリガニがハサミを離してくれない時ってどうすればいい?」
「そういう時は水を張ったバケツの底にお尻を着けてあげるといいよ」
「うーん、今挟まれてるのは鼻だからそれは使えないなぁ」
#ツイッター小説

475

「おやすみなさい」
「あ……え……」
「えっ?どうして泣くの?」
ベッドで寄り添った恋人の、想像していなかった反応に目を丸くする。恋人は答えた。
「ごめん。でも本当に、最後に言われたのがいつだったか思い出せないくらい、おやすみなさいって言われるのが久しぶりだったから」
#ツイッター小説

476

『光学迷彩猫という兵器を知っているか?品種改良によって極限まで黒い毛を持った黒猫を、ある特定の長さに毛を刈り揃えることで、電磁波を一切反射しなくしたものなんだが。完全な黒のせいで距離感が掴めない。思ったより遠い?大きいな。50cm、1m……
あれは猫じゃない!豹だ!』
#ツイッター小説

477

「あのね。これはちょっと違うと思うんだけど?」
「いやもう、大正解だと思います」
俺の言葉に、彼女は頬をさらに膨らませる。無理を言って、俺のワイシャツを裸の上に着てもらった、のだけれど
「胸はパツパツだし、下なんて何も隠れてないじゃない」
彼女は俺よりも大きい。
#ツイッター小説

478

「何よこれ!両面に数字が書かれてるトランプなんて何にも使えないじゃない!」
「なんだと!お前が欲しいって言うからわざわざ特注したんだぞ!」
「なんでこんなの!」
「『裏の無いトランプ』が欲しいって言ったのはお前だろう!」
「私が欲しかったのは『占いのトランプ』よ!」
#ツイッター小説

479

「おや?手紙が届いている」
「なんて?」
「『この間、手紙を出したんですが、読みましたか?』……って」
「それ、手紙で書く意味あるか?」
「この間の手紙というのは……ああ、こんなところに埋もれてたのか。気づかなかった」
「意味があるのも問題だな!!」
#ツイッター小説

480

「メディアってのはまるでミダス王みたいなもんで、どんなに下らないものでも黄金に変えちまえる。だが、本物の黄金の価値を伝えられる方が良いとは思わないかい?」
「企画は分かった。だが……王様の耳はロバの耳、というのもミダス王の逸話だろ?葦笛程度で惑わせると思うなよ?」
#ツイッター小説

481

「最近、若い魔女の間では掃除機に乗るのがブームなんだってねぇ」
「本当かい?昔はほうきに乗れない落ちこぼれがまたがるものだったのにね。どれ、私も久しぶりに」
2人は、話題の掃除機の店に向かった。上空を円盤状の何かに立った魔女が飛び交っている。
「思ってたのと違うよ!」
#ツイッター小説

482

「ずっと読んでるけど、あんたの小説って単純なのよ。何か好きなものができたら、しばらくずっとそれのことばっかり書くでしょ」
「へえ?じゃあ、今俺が一番好きなものって分かる?」
「もちろん。——『小うるさい読者』でしょ?」
「くふっ!……わぁ、大正解だよ」
#ツイッター小説

483

『ねえ、いま空を見れる?』
そんなメッセージがスマホに届いた。見上げて、首を傾げて、少し調べてから返事をする。
『何もないよ?流星群でもないし、月も半端』
しばらくしてメッセージが返ってくる。
『そうだよ。何もない日だから、たぶん今空を見上げてるのは私達だけなんだ』
#ツイッター小説

484

「お兄さん」
駅のホームで背後から呼びかけられて振り返る。
「行き先を間違ってるよ」
私に声をかけた金髪の男が言った。
「そうかい?」
「ああ。ここは山手線のどれかの駅に行くためのホームで、他の場所に行くとこじゃない」
私は苦笑いして、黄色い線を越えていた足を引いた。
#ツイッター小説

485

「な!?」
馬鹿な。確かに私は全問正解したはずだ。転生までして、問題と答えを全て把握した状態で試験に臨んだのだから。
「0点だなんて、何かの間違いです!」
「いや、間違えたのは君……なんだろうな、たぶん」
「あ」
差し出された試験用紙には、前世の名前が書かれていた。
#ツイッター小説

486

「凶器は枕だった」
探偵の突拍子もない言葉に助手は目を丸くする。
「まさか。枕に砂でも詰めて殴ったとでも?」
「違う。中身は普通に使われるものだよ。それに、外傷はなかっただろう」
「じゃあ、どうやって」
探偵は一拍置いて言った。
「被害者は、そばアレルギーだったんだよ」
#ツイッター小説

487

国民への体育教育の充実の結果、国民全体の身体能力が飛躍的に向上し、健康寿命も大幅に改善、国際的なスポーツ大会の表彰台を独占するようになったが、10キロ程度の通勤路であれば普通に走破してしまうようになったために、悲鳴をあげたのは鉄道会社だった。
#ツイッター小説 #一文SF

488

居酒屋にはいささか不釣り合いな、華やかな出立ちの女性ふたりが話している。
「いつも思うんだけど、あなたって唐揚げに絞ったレモン食べるよね。好きなの?」
「あんまり。甘くないじゃない」
「ならどうして」
「可哀想でしょ?絞るだけ絞って、残りはゴミとして捨てられるなんて」
#ツイッター小説

489

「素敵なテディベアね!」
「そうだね。ずいぶん年代物だけれど。100年くらい前のものじゃないかな」
「そんなに前のものなのに、くたびれてないのね」
「ああ、それはひいおばあちゃんの——」
「大切にしていたものだから?」
「髪の毛で作ったものだから」
「ひいっ!」
#ツイッター小説

490

「博士!素晴らしい発明が完成しました!」
「ほう」
「トラック用のサスペンションです。従来のサスペンションは振動を吸収するだけでしたが、これは能動的に作動し振動を心地良いものに変えられるのです!」
「あ〜……これはお蔵入りだな」
「何故!」
「寝ちゃうだろ、運転手が」
#ツイッター小説

491

『七味唐辛子』としてユニット活動していたにもかかわらず、唐辛子が単独で『一味唐辛子』として活動していたことが発覚し、残りのメンバーで『六味唐辛子』というグループを作ったのだけれど、「唐辛子がいないならそれもうただの六味じゃん」と結果は散々だったらしい。
#ツイッター小説

492

キョクアジサシは、生き物の中で最も長い距離を移動する鳥だ。彼は知っていた。世界には果ては無いけれど、限りがあるということを。
ある日、彼はその光を初めて見た。落ちた先には黒い何かがいた。
「どこから来たの?どこでも帰してあげる」
「無理だよ」
流れ星は宇宙を見上げた。
#ツイッター小説

493

生贄という風習の背景にあった、『死んだ時に雨を降らせる体質』というのが科学的に解明され、気候変動のこの時代に歓喜をもって迎えられたのだけれど、多数の幸福と1人の少女の命を天秤にかけることに耐えられず、予備のクローンを100体作った私は一体何を間違えたのだろう?
#ツイッター小説 #一文SF

494

「なあ、『愛は理解』なんだよな」
「そういう見解もあるな」
「俺は彼女を理解しているつもりだ。彼女が何を好きで、何が嫌いで、何を目指していて、何を悩んでいるのかも。……でも、これは愛なんだろうか?」
「それを悩むのが愛さ」
検索エンジンは苦笑しつつ通販サイトに言った。
#ツイッター小説

495

「好き……」
思わずという風に漏れたその言葉に俺は目を丸くする。一拍遅れて腕の中の彼女も真っ赤になる。
「ちがっ!こうやってあなたにぎゅってされながら頭を撫でてもらうのが好きっていうだけで、あなたのことが好きってことじゃないから!」
「もう、それでもいいよ」
#ツイッター小説

496

ポン!
じょうろの水を受けた苗が、軽快な音とともにナスを実らせた。日替わりだから思い通りの野菜はできないけれど、日常が少し楽しくなった。俺は嫌いなナスを両手に、お隣のドアを叩く。
「ナスだ!」
幼馴染が嬉しそうな声を上げる。
「そっちは?」
「南瓜」
「よし、交換だ」
#ツイッター小説

497

確かに覚えているのだ。思い出すと頬が緩んでしまうのだから。いつだったか、誰だったのかも思い出せないけれども。それでも『好き』だったことは覚えているのだ。過ごしてきた時間に濾過されて、無色透明になった甘いそれが、新しい『愛』を実らせるための泉になるのだ。
#ツイッター小説

498

「2/14とはいえ、菓子の持ち込みは禁止だろ?」
「仕方ない。はい、これで君も共犯」
そう言って30円のチョコを握らせる。
「はぁ……斎藤先生!こいつ菓子持ってきてます!」
「なっ!」
「覚えておきな。ルールを破るやつは約束も破る」
気づいていた。チョコの宛名は斎藤だった。
#ツイッター小説

499

「勝負に絶対に勝つ方法って知ってる?」
「そんなものあるの?」
「『勝負することそのものを勝利条件にすること』だよ。だから…………プリンの大食いで勝負だ!」
「——今の『間』は何かな?本当は種目を何にしようと思ってたの?ほら、怒らないからお姉さんに言ってみな?」
#ツイッター小説

500

「半分、ねぇ」
私には生まれた時から姉が居たから、生まれた時から全てが半分だった。おやつも、布団も、本も。何か丸ごとというものを手に入れたことがなかった。
それも、姉が18になって家を出て終わった。
「さてと」
私は腰を上げる。姉の家に父から小玉のメロンが届いたらしい。
#ツイッター小説

今日はここまで。これだけあるのだから、1つくらい気にいるものが有れば嬉しい。

では、また100日後に。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?