見出し画像

三年千篇のツイッター小説 おしまいの100篇

毎日1篇、1ツイート分の長さの小説をツイッターに投稿している。3年弱続けていた。そして、それが1000篇に到達した。千篇のツイッター小説を、三年かけて書くことが目標だった。それを達成した。

さあ、最後の100篇を始めよう。

901

「いろんなおにぎりを食べてきたけど、休みの日にお母さんが握ってくれたおにぎりが1番美味かったな。あれはきっと愛情の味なんだろうな」
「いい話ね」
「素手に塩をつけて握るから、握った直後にしか食べられないんだよ。雑菌が繁殖するから」
「……嫌な話ね」
#ツイッター小説

902

優しさの半分は知識だということは、バファリンの1/4は知識なんだろうか。
#ツイッター小説

903

「私はね、家では良き父親なんだ。職場では上司として頼りにされている。だから、復讐なんてやめるんだ。私を殺しても、彼女は帰ってこないよ」
「そうはいきませんよ。殺人犯が捕まらないと皆が安心して暮らせません。
選んでください。貴方が捕まるか、貴方を殺した私が捕まるか」
#ツイッター小説

904

「ねえ、一緒に逃げませんか?」
「……どこへ?」
「西へ」
「何から?」
「夜から」
「どうして?」
「だって……先輩は次の朝が来たら、私のことを忘れてしまうんでしょう?なら、1日で地球を1周し続ければ、先輩は私のことを——」
俺は彼女の頬を撫でて、目をつぶった。
#ツイッター小説

905

「どうかした?」
私の問いかけに、妻は俯いて言った。
「えっとね、その、どうして、毎日——」
口籠る妻に、私は笑みを浮かべて言った。
「どれだけ忙しくても、世界で一番大事なことを言うのに必要なたった1秒もないなんてことはないからね。『愛してる』」
妻の耳は真っ赤になった。
#ツイッター小説

906

「神は初めに『光あれ』とおっしゃられた。このことから、光は聖なるものだと分かる」
「いや、違うんじゃないかな。もしそうなら、光に満ちた世界にすれば良かった。でも実際には、昼と夜を分けられたんだ」
「では何故」
「たぶん……寝たかったんじゃないかな。神様」
#ツイッター小説

907

「12夜って知ってる?」
「何それ。知らない」
「12月25日から12日目の夜で、クリスマス祝いの最終日のことだよ」
「それが何?」
「つまり、世の中には意外と手遅れじゃないことも多いってことさ。その日に食べよう。昨日には間に合わなかった、君の手作りケーキ」
#ツイッター小説

908

「この手口は、サイボーグ狩りの犯行ですね」
「な!?サイボーグは死んで当然だが、妻は人間です!」
「そうとも限りません。奥様、白内障治療に人工水晶体を使われていますね?サイボーグ狩りにとっては、十分サイボーグです」
「狂っている……」
「——正気なのは誰なんでしょうね」
#ツイッター小説

909

「カレーが嫌いなの!?」
「そんなに驚くこと?」
「だって、カレーなんてダントツ人気な料理でしょ?なんで嫌いなの?」
「なんでって……ただ辛いものが苦手だからだけど」
「あ、そうか……じゃあ、全く辛くないカレーは?」
「それはもうハヤシライスでしょ」
#ツイッター小説

910

「ウチ、クリスチャンだよね?この間大々的にクリスマスもお祝いしたし」
「そうだけど、それが?」
「じゃあ、大掃除はしないほうが良いんじゃない?大掃除って『トシガミサマ』を迎える宗教行事みたいなものだし」
「分かった。もうそれでいいから、あなたはただの掃除をしなさい」
#ツイッター小説

911

アルプス一万尺を口ずさみながら、ふと君の夢を見た夜のことを思い出した。
笑ってしまったのが、夢の中でまで君は、僕じゃない相手に夢中だったということだ。
#ツイッター小説

912

「その時は『生涯忘れることはないでしょう』と思ってたんだけど、今思えば何を忘れないだろうと思ってたのかも思い出せないんだよな」
「まあ、人間ほとんどの事は忘れるものだからな。俺なんか父親の名前も忘れてるし」
「……え?」
「いや違うから!表記!発音は覚えてるから!」
#ツイッター小説

913

「今年はコズミックなおせちを買ってきたよ」
「コズミックなおせちって何?」
「『URLにアクセスして、この番号を登録してください』って」
「お年玉付き?」
「やった!『地球外文明の可能性あり!』だって!」
「それお節じゃなくておSETIだな!?」
#ツイッター小説

914

「私を逮捕しようってのかい?ご覧の通り、私は単なる重度障害者だ。自力でベッドから起き上がる事もできない。できる事と言ったら、考えることと話すことしかない。だから、昨日国内で発生した38箇所の同時爆破事件とは私は全く無関係だ。君たち警察が37箇所しか把握してなくてもね」
#ツイッター小説

915

「ああん!またダメだ」
「どうしたの?」
「雪の結晶が見たいのに、すぐに溶けちゃうの」
「ああ、それなら——」
私はひとひらの雪を受け止めた指を目の前に持ってきた。
「ほんとに綺麗だね!」
目前で貴女が言う。
今日ほど自分の身体が冷たい樹脂であることに感謝した日はない。
#ツイッター小説

916

りんごが裁判にかけられた。容疑は姫と天才科学者に対する殺人。世論は有罪と疑わなかったが、結果として逆転無罪を勝ち取った。検察は『弁護人:なし』の表記に油断していたのだ。ラ・フランスとル レクチェは敏腕弁護士だった。
#ツイッター小説

917

さすがに天を仰いで肩を落とした。私だってそれなりの決意の要る決断だったのだ。
ずっと続けていた叶うあてのない想いに見切りをつけて、私を想ってくれていた人に応えようとしたのに
「私が好きになったのは、諦めることなく一途に想い続ける貴方で、今の貴方じゃない」
だなんて。
#ツイッター小説

918

「ここは?」
目を開けた瞬間に、途方もない時間眠っていたことが分かった。でも、覗き込む君が君であることは分かった。
「何か言いかけてあんなことになるから、こんなに時間をかけてまで起こさなきゃいけなかったじゃない。なんて言いかけたの?」
「その……メアド交換しない?」
#ツイッター小説

919

「君、記憶力がすごいんだって?」
「まぁ、そうだよ。すごいというより、一切忘れないってだけだけど」
「一昨日の晩御飯は何を食べた?」
「……すぐには思い出せないかな」
「記憶力は!?」
「物心ついてから全部の食事を覚えてるんだぞ?どれが一昨日の食事かなんて分からない」
#ツイッター小説

920

追い詰められた宿敵は叫んだ。
「いいだろう!お前の勝ちだ。だがいいのか?敵を失えば、お前のその力も人々は恐れ、お前を排除するだろう」
ヒーローは答えた。
「悪いけど、2年後に地球に小惑星が衝突する予定でね。なんとかしないといけないから、そんな戯言を聞いてる暇ないんだ」
#ツイッター小説

921

なぜか毎年、りんごがいくつか川上から流れてくる。不思議に思って川を登ってみると、川岸ギリギリにりんごの木が植えてあった。
「奥さん、なぜこんなところにりんごの木を?」
「息子の頼みなんです。外に行けない僕の代わりに、りんごに遠くに行って欲しいって」
#ツイッター小説

922

「お前はそのナイフを殺すためだけに使うのか。勿体ない」
生存者がいたことに内心驚きながら、声の方を見遣って問う。
「他に何がある」
「そこの死体をナイフで捌けば、肉は立派な食糧になるし、骨は装身具の材料になる」
「……もう少し道徳的な説教がくるかと思ったぞ」
#ツイッター小説

923

「え?入部希望?」
部室の3人は唖然とした。だって、大会には出そびれたのに。
「なんで?」
「先輩たちが公園で練習してるのを見たんです。阿呆らしかったですけど、楽しそうで」
「俺、解った——努力は他人に見えるところでした方がいいんだなぁ」
「それでいいのか!?」
#ツイッター小説

924

「おじいちゃん!初めまして!」
「うわっ!なんだお前は!」
「おじいちゃんの孫ですよ。お願いしたいことがあって、そのタイムマシンで来たんです」
「お願い?」
「未来では大麻の栽培が禁止されてて。だからおじいちゃんに分けて欲しいなって」
「タイムマシンで大麻を無心!?」
#ツイッター小説

925

金魚を飼うために水槽を買ったのだけれど、1週間ほど経ったある日、金魚は水槽を飛び出して死んでしまっていた。今度はそうならないように、新しく金魚を買ってきて、水槽の中と水面の高さが同じになるように、部屋の中も水で満たした。これで金魚は水槽と部屋を自由に行き来できる。
#ツイッター小説

926

「これ、あげる」
「チョコレート?なんでいきなり?」
「なんでもいいでしょ」
「バレンタインの練習用に買ったはいいけどいざ作ろうとしたら渡す所を想像して恥ずかしくなってやめたとか?1月に?」
「なんで推測の解像度がそんなに高いのよ!?」
#ツイッター小説

927

「……チョコパイが食べたい」
「はぁっ!?!?いきなり何言ってんのよこの変態!!」
「別に普通のことだろうがよ何言ってんだこの脳内ピンク、というかサイズが『ちょこ』なの自覚あんのかその割には性欲が——」
結果として食らったのはチョコパイではなく顔面パンチだった。
#ツイッター小説

928

「そういえば、なんで職場がこんなに遠いのに電車通勤してるのかって不思議がってたよね」
私の部屋で、窓から差し込む朝の日差しに目を細めながらあなたはいった。
「眠れないんだ。電車の中でないと」
「え?でも——」
「——だから、昨晩は本当に久しぶりにベッドで眠ったんだよ」
#ツイッター小説

929

「なんで小説なんて書くんですか?いまじゃあなたなんかよりずっと上手な小説をAIで簡単に作れるのに」
その質問に万年底辺作家は答えた。
「そんな質問をする奴には決して分かるまいよ。頭の中で作品が『外に出せ』と騒ぎ立てる。だから仕方なく書く。ただそれだけさ」
#ツイッター小説

930

墜落を始めた飛行機に、奇跡的に猿の手を持った乗客が乗り合わせていた。
「お願いします。この飛行機が地面にぶつかりませんように」
すると飛行機は軌道を変え、南米の未踏の地にある大穴へと落ち始めた。3ヶ月落ち続けて、共喰いの後に乗客は全員餓死した。今でも落ち続けている。
#ツイッター小説

931

月に一度、会いに行っている人がいる。コールドスリープカプセルで眠っている彼は、ひいおばあちゃんの恋人だった人らしい。彼の難病の治療法は未だ確立されていない。
「私にとって、あなたは何なの?」
3世代経ても争えない血と、騒ぐ心臓の置き場を私はまだ知らない。
#ツイッター小説

932

「実は私、あなたのことが好きだったんですよ」
「だった、って、今は好きじゃないんですか?」
「どっちがいいですか?」
その問いかけに言葉が詰まった私に、貴方は笑っていう。
「大丈夫、今でもそうならわざわざ過去形で言ったりしませんから」
「ちょっと!ひどくないですか!」
#ツイッター小説

933

『いつも、お別れは手紙でって決めてるんです。手紙なら、別れた後も残ってくれるし、なにより、向き合ってお別れの言葉なんて言ったら泣いてしまいそうだから』
そう書いた手紙を下駄箱に残していこうとしているところを、君に見つかってしまった。泣きそうだ。
#ツイッター小説

934

「ただいま」
俺の言葉に彼女が振り返る。そして駆け寄ると、右手の拳で俺の頬を殴って、それから抱きついてきた。
「なんで帰ってくるたび殴るんだよ」
「あんたがいつも何も言わずにいなくなるからでしょ!」
「まあ、そのおかげで最近はこの痛みも嬉しくなってきたけど」
「え…」
#ツイッター小説

935

「マグカップとは温かい記憶がセットになってるところがあるな」
「いいね、そういうの」
「物理的に、だけどね。深夜に親が作ってくれたホットミルクとか。親は何考えてるのか解らなかったから、あんまり仲良くなかったんだよね」
「ミルクを温めてくれたなら、充分温かい記憶だよ」
#ツイッター小説

936

天国の門の前で頬杖をつく男の前に、新たに来た集団の1人が声をかけた。
「あ、飛び降りた人。先に来てたんですね。てっきり生き延びたのかと」
「別に、死ぬ前に1度飛行機から飛び降りてみたかっただけだから。けど」
「けど?」
「あんな気持ちいいなら2、3度やっておけばよかった」
#ツイッター小説

937

「潰されるならどっちがいい?ハイかノーか」
「そんなもの、ノーに決まってるだろ」
妙な2択だと思いながら答えた男の額を銃弾が貫いた。
「……ハイだったらどうなったんだ?」
そう言ったもう1人の胸に間髪入れず風穴が空いた。
「脳の方がおすすめだ。肺ほど苦しまずにすむ」
#ツイッター小説

938

「今日はここ、東京ディズニーランドに来ています!さっそくインタビューしていきましょう。こんにちは!」
「こんにちは。今日は海を越えてここまできました。とても楽しみです」
「海を越えて!どちらからいらしたんですか?」
「横浜から」
「横浜から海を越えて!?わざわざ!?」
#ツイッター小説

939

「ただいま」
まだ南極にいるはずの人のその声に、玄関に駆け寄った彼女は言った。
「なんで帰ってきてるの!手紙には大丈夫って書いたのに!」
「——消えるペンって、-10度になると字が戻るんだよ」
そう言って彼が取り出した手紙には、何度も消されたであろう『会いたい』の文字が。
#ツイッター小説

940

エデンの園に……というか創世記が書かれた頃のメソポタミアにはりんごは無かったという説が有力だ。なら、どうして後世の人間はりんごに禁断の果実なんていう濡れ衣を着せたのだろうか。初めて甘くて食べられるりんごを食べた人が「これは罪の味だ」とでも思ったのだろうか。
#ツイッター小説

941

「約束だ。僕は君が死ぬ前に、君とお別れしよう」
その言葉に君は、僕の頬を張って走り去った。目には確かに涙が浮かんでいた。
「お、おい」
気遣わしげに寄ってきた友人の方を向いて、僕は言った。
「怒らせたかもしれないね。僕は一度も約束を守ったことがないから」
#ツイッター小説

942

コイントスをする。
「裏だ。……そう言えば、どっちの時どうするか決めてなかったな。裏だから……行くことにするか」
そう言って重い腰を上げた俺に、一部始終を見ていた君が言う。
「それ、意味あるの?」
「結局自分で決めたんだから、コイン任せよりむしろ良いだろ?」
#ツイッター小説

943

「『心臓の音』って、聞いたとこないな。聞こえても不思議じゃないと思うんだけど」
「こう?」
そう言いながら抱き寄せて、君の耳を胸に押し付ける。
「聞こえる?」
「うっ、うん。自分の心臓の音の話してたつもりだったんだけど、大丈夫、分かった」
#ツイッター小説

944

「おかしいな。手が2本、足が2本、口がひとつ、目はふたつ、鼻もひとつ。全部人間と同じなのに、同じにしたはずなのに、どうしてみんな逃げていくんだろう」
それを不思議に思っていたのは、彼本人だけだった。
#ツイッター小説

945

「地球っていうんですか。なんか、どこにでもあるハビタブル惑星って感じですね。特色とか無いんですか?」
そう宣う宇宙人に不敵に笑い答える。
「なんと——地球では皆既日食が見られるんです!」
「え?——ああ。惑星で恒星を隠しながら進むのが星系航行の基本なので驚き損ねました」
#ツイッター小説

946

「何で言わなかったの?そのお菓子は私からですって。あんなに一生懸命作ってたのに」
「別にいいでしょ」
「あ、分かった。名乗り出るんじゃなくて、バレたいんだ」
「お姉ちゃん?2月だからかな、すごく寒いんだけど」
「今の私悪くなくない!?」
#ツイッター小説

947

「いただきます」
彼女の家の食卓で手を合わせる。焼き魚と筑前煮、それに味噌汁という純和風の夕食だ。
「……うん、美味しい」
「よかった〜。『おふくろの味』になってる?」
「え?焼き魚が?そう言われても……シチューにしたからなぁ」
「何を?え、何を?」
#ツイッター小説

948

「じゃあ、元気で」
その言葉に、眩しい物を見たように顔をくしゃっと丸めて言う。
「おいおい、元気も何もないだろ。俺はもう死んでるんだから」
呆れたように混ぜっ返しても、彼は何も答えなかった。
「……ああ、元気でやってるよ。そっちこそ元気で」
彼岸の終わりのことだった。
#ツイッター小説

949

「今日は臨時休業です」
楽しみに来た小料理屋の扉にはそう張り紙がされていた。
「まいったな。明日は開きますかね?」
近所の住人に訊ねると、彼は答えた。
「いや、そういや2年は開いているところを見てない気がする」
それから半年後、その店は何もなかったように再開したらしい。
#ツイッター小説

950

「あれ?おかしいな……」
「何探してるの?」
「作り置きしてたはずのが無いのよ」
「作り置き?料理なんてもう3年はしてないでしょ」
「違う違う。料理じゃなくて、小説。毎日更新のためのストックがあったはずなんだけど」
「少なくとも冷蔵庫にはあるわけないでしょ!?」
#ツイッター小説

951

「まだ居たのか」
「……あそこで俺がシュートを外してなければ勝てたのに」
「——成功の記憶は大事だけど、失敗の記憶はもっと大事だよ。君は来週には、自分が立ち上がることが出来ることを知っている」
「でも負けたんだ!」
「心おきなく負けるためにスポーツはあるのさ」
#ツイッター小説

952

「で?首尾はどうだった」
「抜かりなく」
「でかした!さすが我が課の誇る、可能を不可能にする男!」
「それ貶してません?」
そう言った新人に課長は振り返りながら言う。
「まさか。世の中には“可能だけどやらない方がいいこと”が沢山あるんだよ。こんな大雪予報での出勤とかな」
#ツイッター小説

953

「あいつ、また別の女といたんだよ?いい加減別れた方がいいって」
私をカフェに呼び出した友人が心配そうに言うのを見て、私は首を振って答えた。
「いいの。分かってることだから」
「分かってるって」
「彼には、1人だと多すぎるの。1人には全てを捧げてしまう人なの、彼は」
#ツイッター小説

954

「小さい頃、あなたはやけに帽子を欲しがる子どもだったわね」
懐かしむように母がそう言う。宅配便の帽子や、野球帽、警察官の帽子を見るたびに、それを指差して欲しがったのだと。
今にして思えば、その頃私が欲しがっていたのは『帽子』ではなく、『所属』だったのだろう。
#ツイッター小説

955

宇宙時代の到来によって数万の惑星に知的生命体が見つかったけれど、その全ての惑星に特徴的で少数の月があったため、月というのはメタ知性体の生命知的化装置だという説が流れたが、加速シミュレーションの結果、単に月が無いと暦の作り方が分からず知性に到達しないのだと判明した。
#ツイッター小説

956

君の大好きな夜の散歩に、3人で来るのはこれが初めてだった。
「あ、流れ星」
その言葉に、俺は呆れた声で言う。
「目が見えないのになんで」
「なんで分かったの!?」
割り込んできた友人の声に目を見開く。
「本当に流れたのか?」
「流れ星って、音がするのよ」
そう君は笑った。
#ツイッター小説

957

「バレンタインには何が欲しい?」
「あなたの絵を描いて欲しい」
最愛の彼女はそう答えた。
「絵でいいの?本物じゃなくて」
「本物じゃ、私は触れられないから。私と同じ絵になったあなたが欲しい」
#ツイッター小説

958

「ねえイア。雨とか降らせてみない?」
初の艦外探索から帰ったあなたがそんなことをいうから、ナビゲーションAIである私は訝しんだ。
「艦内のバイオスフィアは水脈で水を行き渡らせています。雨は不要です」
「それはそうだけど……」
「——ああ、虹を見たんですね」
#ツイッター小説

959

こんな残酷な話があってたまるか。君を嫌いになれる理由なんてもうひとつもありはしないと諦めていたのに。それでひとりで苦しみ続けていたのに。たった一つだけ、君のことを嫌いになる瞬間が世界に残っていたのだ。そして、今知った。
それは、君が私のことを好きと言った時だった。
#ツイッター小説

960

「良薬は口に苦しとは言うし、確かに自分を苦しめるものが悪いものだとは限らないわ。でもそれは前提として、基本的には良いものではないという上での話よ」
そう言って彼女はベッドの方に向き直る。
「だから、わざわざ骨折するのはもうやめなさい。それは筋肉痛とは違うのよ」
#ツイッター小説

961

朝目が覚めて、ぞっとした。
昨晩、「朝目が覚めた時、私が私でありますように」と祈ることを忘れたことを思い出したのだ。あれほどまでに常に不安で、毎晩祈らずにはいられなかったのに。つまり、昨日私は私ではなくなっていたのでは?
「……まあ、惜しむほどのものでもなかったか」
#ツイッター小説

962

アンドロイドは記憶の複製が禁止されている。cut&pasteはできてもcopy&pasteはできないということだ。人間は不合理なルールを作るものだと思っていたのだけれど
「経年劣化検出。稼働終了シークエンスに移行します」
躯体の更新で初期化された私の旧機体を見た時、その意味を知った。
#ツイッター小説

963

「お母さん、久しぶりにあのアイスが食べたいな」
「どのアイス?」
「風邪を引いた時に、よくお母さんが食べさせてくれたバニラアイス」
「うーん、それはお父さんに言わないと難しいわね」
「お父さんに?どうして?」
「だって、あのアイスを作ってたのはお父さんだもの」
#ツイッター小説

964

「だっこ、ねぇだっこ〜」
駄々っ子のように両手を広げて言う君に、私は喉から出かかった言葉をグッと飲み込んで抱きしめた。これはきっと試練なのだ。例えそれを言っているのがこの間30歳の誕生日を迎えた恋人であっても、茶化さず受け入れることで恋人としての度量の証になるのだ。
#ツイッター小説

965

「ちょっと!こんな旧式部品1個でこの値段とかバカじゃないの!いくら代えが効かない部品だからって足元見てんじゃないわよ!」
「仕方ねえだろ。当時の金型でも残ってりゃもう少し安くできたがな」
「え?金型も無しでこの精度をたった1個?それでこの程度の値段とかバカじゃないの」
#ツイッター小説

966

「猫と金魚を一緒に飼ってると、金魚を猫が食べちゃうって言うでしょ?でも、ウチ全然そんなこと無いんだよね。良いもの食べさせてるからかなぁ」
「……で?どうなのよ実際」
(昔食べさせられた生魚が、トラウマになるくらい不味くて、今でも魚が食べられないのよ)
「——ふうん」
#ツイッター小説

967

『またね』
朝起きて、昨日の別れ際に君の言った言葉を思い出して目を見開いた。君は別れる時はいつも
「じゃあね」
と言っていたはずだ。再会を約束するその言葉は、その意味とは裏腹に、もう二度と君に会えないことを暗示しているように思えた。
#ツイッター小説

968

私のお姫様は不機嫌だった。
「パパ。私が起きるより先に起きて。それで私が起きるまでどこにもいかないで」
そう言って君は私にお気に入りの白雪姫の絵本を持たせた。
翌朝、腕枕で眠っていた君が目を擦って言う。
「ここどこ……?」
嗚呼、君の思いが解った。
「私の腕の中ですよ」
#ツイッター小説

969

「『闇』っていうとなんか悪いもののように思えるけど、闇にも良い側面はあるんだよ。眠りと癒しを運んだり」
「あの……熱弁するのは構わないけど、その動きは何?」
「ん?顔が眩しすぎるからその下の『闇』に顔を埋めようかと」
「ほんっとにもう!!!」
#ツイッター小説

970

「私だってラブレターくらい貰ったことあるし」
私の言葉に3歳下の妹が呆れたように言う。
「いつ?」
「私も中学の卒業式で、下駄箱に『大好きです。いつも見てました』って手紙が。まあ、差出人不明だけど」
「待って。……私が今日貰ったのと同じ内容なんだけど」
#ツイッター小説

971

「嫌なら学校なんて行かなくていいんだよ」
不機嫌に帰ってきた娘を見ながら言う妻に訊ねる。
「学校嫌いなの?」
「当たり前でしょ!特に席が決められててヤな奴の隣に無理矢理座らせられるとことか!」
そう言われて、彼女が3年間私の隣の席だったことを思い出した。
#ツイッター小説

972

「なんで手動で泡立てるの?ハンドミキサー使えばいいのに」
呆れたように言う娘に私は答える。
「そうなんだよ。実はそれだけじゃなくて、レシピを入力すれば自動で材料を計ってくれるし、順番通りに混ぜて型に流しこんで焼いてくれる。……それじゃ工場で作るのと変わらないからね」
#ツイッター小説

973

「あれ?健人くん、そのお菓子ってもしかして……ホワイトデー?」
「そうだけど?」
「相手は誰!?」
「姉ちゃん1人だよ」
「なんだ〜」
そう言って別れた後、友人が言う。
「さっきのが、あんたがバレンタインを渡し損ねた相手?あんたも苦労するね」
「マロン、グラッセかぁ……」
#ツイッター小説

974

「すみません。ハンバーガーをお届けに上がりました」
「おそらく届け先を間違っているかと思います。ここには食事を必要とする人物はいません」
「え?——ああ、ほんとだ。番地を間違えてる。ありがとうございます」

「……じゃあさっきの人は何者だったんだ?」
#ツイッター小説

975

「教授、あれだけ成果を出してるのに精力的に研究されてますよね。私なら隠居しちゃうなぁ」
「まあ、あの人の目的には届いてないからな」
「目的?」
「恋するアンドロイドの開発」
「なんでまたそんな浪漫主義な」
「あくまで推測だけど……教授は昔、アンドロイドにフラれたんだ」
#ツイッター小説

976

「俺のこと、思い出せるか?」
「無理よ」
「そうか……」
「思い出そうにも、忘れたことがないもの」
#ツイッター小説

977

「『作家は経験したことしか書けない』っていうけど、俺の場合はむしろ逆だなぁ」
「経験してないことしか書けないの?」
「そうじゃなくて、書いたことを経験するの」
「…………え?」
彼の作風を思い出しながら、私は首を傾げた。
「……2、3度死んでらっしゃる?」
「まあね」
#ツイッター小説

978

「迎えに来たよ。一緒に、青空を見に行こう」
扉を開けた音に、初めて会う君は振り返る。
「ごめんね。私、嘘は吐いてないんだけど、大事なことを言ってなくて。——私、目が見えないの」
そんな君の肩を掴んで言う。
「だからだよ。ここに居ても目が見えるようにはならないだろ?」
#ツイッター小説

979

私の妹はいつもサボテンに水をやりすぎて枯らしてしまう。そんなに水をやりたいならヒヤシンスにでもすればいいのに、頑なにサボテンを買ってきては枯らす。ここまでくると、むしろサボテンのことが嫌いなんじゃないかとさえ思えてくるが、そんなことはないんだろうな。
#ツイッター小説

980

去年、お前が「どっか行きたい」って呟いたの覚えてるか?あの時お前は、行きたい場所を言えなかったよな。「そうか、僕はどこかに行きたいんじゃなくて、どこかに行ってしまいたいんだ」って顔してたけど、違うぞ?お前は、ここに居たいって言いたかったんだ。
#ツイッター小説

981

「あなたの小説には決まって魅力的な父親が登場しますが、先生ご自身のお父様とのエピソードなど、何かありますか?」
「やっぱり、母親のことを書くとどうしても母のことを思い出してしまうのに比べて、父親に関しては完全に想像で書けることが大きいんじゃないかと思います」
#ツイッター小説

982

その公園には特大の砂場があった。子供達が砂の城を作っているうちはまだ良かったが、そのうち大人が悪ノリを始めて、ちょっとしたテントくらいの大きさの砂のかまくらを作って、そこに野宿者が住みはじめた。
が、すぐいなくなった。絶え間なく砂が降ってきて居心地が悪かったから。
#ツイッター小説

983

「誕生日プレゼント何がいい?」
「私の喜びそうなものが欲しい」
漠然すぎる返事に少しムッとして言う。
「だから訊いてるんだろ」
「違うの。物はなんだっていいの。ただ、私のいないところで私のことを考えて欲しいの。そして、『あなたの中の私』がどんな人なのか教えてほしい」
#ツイッター小説

984

「初デートが美術館って、なんか大人っぽいね。よく来るの?」
「いや?」
「じゃあ、カッコつけたくて背伸びした?」
「そういうわけでもない」
「じゃあなんで」
「俺は絵には興味はないけど、君がどんな絵に惹かれるのかには興味がある。好きな人のことだから」
#ツイッター小説

985

妹が分厚い児童書を覆い被さるようにして読んでいる。覗き込むと、ページの隅にパラパラ漫画を描いていた。
「いや読めよ」
「いつか有名なアニメ監督になって、プレミア付きで売るんだ!」
そんな光景を、テレビに映ったアニー賞のトロフィーを持った妹を見て思い出した。
#ツイッター小説

986

100万円の札束を渡されて
「これで店の中の飲食物やその他なんでも好きなだけ買っていいので、店から出ないで3日間生き延びてください」
と言われて連れて行かれた先が、自動販売機がずらりと並んだ自動販売専門店だった。癪だったのでトイレの水だけで生き延びてやった。
#ツイッター小説

987

「無人島に行くなら、私はメガネ君とがいいなぁ」
仮定の話でも、好きな子にそんなことを言われたらどきっとする。
「どうして?僕なんか力もないし……」
そういう僕の目を見つめて君が言う。
「やっぱり、火が大事だと思うんだ」
「……確かに遠視用の眼鏡だから集光はできるけど」
#ツイッター小説

988

「いろんな世界を旅してきたんですね」
話に一区切りついたところで、嘆息するように言って、彼女は訊ねた。
「今まで行った世界で、一番好きなのはどの世界ですか?」
「一番懐かしい世界は私が最初にいた世界ですが、一番好きな世界は、私がまだ行ったことがない世界です」
#ツイッター小説

989

「これから秘密の技を教えるよ。小学校に上がった時、必要になったら使いなさい」
そう言って父が、近くの公園で逆上がりを教えてくれた。体育は苦手だったけれど、クラスで最初に逆上がりに成功したことは僕の自信になった。賢くて、公園の鉄棒で逆上がりできる身長の父に感謝した。
#ツイッター小説

990

「俺、ラーメン屋になりたかったんです」
そのレストランの店主は言った。
「他のラーメン屋とは違う、清潔で洗練された店内で、予約を取ってまで行きたいラーメン屋に。そのつもりでやってたのに、いつのまにかフレンチになってました。で、ウチのメニューにはラーメンがあるんです」
#ツイッター小説

991

ラベルも何も無い缶があった。
「これは何の缶?」
「これはアキ缶だよ」
「でも、未開封だよ?」
「中に秋が入っているから、秋缶だよ」
そう言われて、缶切りを持ってきてその缶を開けてみた。中には栗が詰まっていた。なるほど、秋。
「でもどちらかというとクリ缶では?」
#ツイッター小説

992

「まあ、なんだって準備しておくもんだな」
「はじめの狙いとは真逆だけどな」
そんな軽口を叩きながら、地磁気を使って発電するために北極と南極を結んで作られた巨大なコイルを使った、人類存続のための『地球再磁化作戦』の最後の火蓋が切って落とされた。
#ツイッター小説

993

「こら悠斗!」
妹が生まれてから、僕が名前を呼ばれるのは叱られる時ばかりになっていた。別に、赤ちゃん返りではない。悠斗という名前を、以前は自慢に思っていたのだけれど——
「お兄ちゃんなのに、なんでピアにいじわるするの!」
いや、ピアってどんな名前だよ。
#ツイッター小説

994

実家には年に4回ほど、家の手入れをするために帰っている。両親が亡くなって空き家になってから、屋根に置いた太陽光パネルで簡易的な発電所みたいになっているけれど、まあ固定資産税とトントンくらいで利益はそんなに出ない。
「あれ?この家があることで国だけ丸儲けでは……?」
#ツイッター小説

995

「ごめんなさい。そんなに大切なものだとは思わなくて。あのぬいぐるみ、ずいぶんボロボロになっていたから」
「無理もない、10年以上前に買ったものだ。他人にとって何が大切かなんて、見ただけじゃ分からない。あれが僕のメレアグロスの薪だった、というだけの話」
「メレ……何?」
#ツイッター小説

996

プールに行く時はいつも、お母さんが100円をくれた。お小遣いというわけではない。コインロッカーを使うための100円玉だ。使い終われば返ってくるから、その100円で安いアイスを買って食べた。そんなことを、夏の熱い日差しと共に思い出す。
#ツイッター小説

997

「この辺におばけ焼き鳥が出るんだって」
「おばけ焼き鳥?」
「どこからともなく現れる焼き鳥の屋台で、すごい美味しいんだけど、どれか1つのメニューを食べた人はおかしくなるんだって」
「とりつくねだろ?」
「知ってるの!?」
「まさか。許可取って取り憑くなんて律儀だなって」
#ツイッター小説

998

「なんだよ、その石」
「これ?『星のカケラ』だよ」
「隕石?嘘だぁ」
「違う違う。もっと大きい星」
「小惑星?」
「もっと」
「月の石?」
「もっと大きい」
「わかんねえよ、そんなのあるかよ」
「——地球のカケラだよ」
#ツイッター小説

999

「僕は君の、最後から2番目の恋人だよ」
趣味の占いが恐ろしくよく当たる彼がそう言ったのは、私の想いが冷め始めた頃だった。私はむっとして、眉間に皺を寄せながら訊ねる。
「別れると分かってたなら、なんで付き合ったの?」
「それでも君のことが、好きでたまらなかったからだよ」
#ツイッター小説

1000

「……ぷはぁっ」
ここまで読んで、私は顔を上げた。深く潜っていたかのように息をして、それから眉を顰めた。悪くはなかった、とは思う。けれど、承服できないことがあった。少し考えた後、私はベッドから起きてペンを握った。私が物語を書き始めるのは、決まってこういう時だ。
#ツイッター小説

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?