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シェイクスピアの台詞を原文で読む③「マクベス」

 なんとなくシリーズ化してきた翻訳記事。この記事には「オセロ」で翻訳を試みた①②があるので、もしご興味持っていただけた方は先に①を読んでいただけましたら幸い。③だけでも内容としては成立はしているので大丈夫です。

 ちなみに先に言っておくと、今回とある事情があって途中で挫折している。最後の翻訳までゴールできていないのだ。
 とはいえ翻訳自体は投げ出さず、最後までやりとげるつもりなので④に乞うご期待。私は明日の私に期待する。

 というわけで、前書きにあたるものは①の記事にお任せして、今回はいよいよ「マクベス」(Macbeth) に挑戦します。来月自劇団「獣の仕業」で上演する作品でもある。つまりいよいよ本丸、というわけだ。行ってみよう。

マクベスの原文引用

Tomorrow, and tomorrow, and tomorrow,
Creeps in this petty pace from day to day,
To the last syllable of recorded time;
And all our yesterdays have lighted fools
The way to dusty death. Out, out, brief candle,
Life’s but a walking shadow, a poor player
That struts and frets his hour upon the stage,
And then is heard no more. It is a tale
Told by an idiot,full of sound and fury,
Signifying nothing.

Shakespeare"Macbeth"(5,5)

 一行目は獣の仕業の公演名の副題にもなっている。マクベスという作品の中でTOP3に入るくらい有名な名台詞だ。自分の脚本でも何度も引用しており、正直和訳版は暗唱できるくらい内容を知っている。
 だが(だからこそと言ってもいい)①②と同じように愚直に単語レベルで丹念に、細心の注意を払って読みほぐしていこう。

はい、読んでみよう。

 今までになく長文なので、前半後半部に分割して取り組んでいく。今回の記事で翻訳するのは前半部。行の途中で切るのは忍びなかったのだが、明確な区切りはなく、この後がずっと「,」区切りだったので、便宜上ここまでとした。

Tomorrow, and tomorrow, and tomorrow,
Creeps in this petty pace from day to day,
To the last syllable of recorded time;
And all our yesterdays have lighted fools
The way to dusty death.

 ここからは同じ流れ。わからない単語をすべて調べる。何となく想像が付く微妙な理解の単語も見栄を張らずにちゃんと調べるのが個人的にポイント。特に "pace" はカタカナ語として(ほぼ日本語扱いで)よく使うものの、元々の原義は把握できておらず、重要だった。
 あと "day" がヤバい。意味が広すぎる。英語圏の人によって万能なので、危ない単語。

まずは分からない単語を辞書で引く

Creep: (こっそりと)忍び寄ること、(ゆっくりと)進むこと
petty: 取るに足らない・わずかな・些細な・下級の、(考え方が)矮小な
pace: (歩いたり走ったりするときの)一歩、(一歩の)歩幅、歩調・足並み・歩く速度
day: (不可算名詞)昼・日中、(可算名詞)一日・約束の日・期日・時代・人の一生
syllable: 音節(=単語の中の一音で発せられるまとまり)
light: 照らす、明るくする、火を付ける、灯を付けて道案内をする
dusty: 埃っぽい、塵まみれの、無味乾燥な、つまらない

ホント分からな過ぎてまいっちゃう。

力任せに直訳する

Tomorrow, and tomorrow, and tomorrow,
明日、そして明日、そして明日、

Creeps in this petty pace from day to day, ※1
忍び寄ることは些細な足並みの中で一日一日と
To the last syllable of recorded time;
記録された時間の最後の音節へ

※1: from day to day: (物事の変化が)日ごとに、一日一日と、(将来を考慮せず)その日その日で
慣用表現があった。命拾いした。一旦このまま拝借する。

And all our yesterdays have lighted ※2 fools
そしてすべての私たちの昨日は照らしている 愚か者を
The way to dusty death.
道 埃っぽい死への

※2 have lighted: have+過去分詞 の現在完了形。懐かしくて鼻血が出そうですね。現在完了は「過去と現在を関連させる」ための表現で、日本語訳としては以下の分類が一般的。
① 継続「(過去から現在まで)~している」
② 経験「(過去から現在に至るまで)~したことがある」
③ 完了・結果「(過去に行った結果が現在も維持されており)~した」
⇒直訳の場合は「①照らしている」「②照らしたことがある」「③照らした」となるのだが、本質的に重要なのは言い方ではなく "light" のニュアンスなので、全体を読んでから再度考えることにする。一旦①で仮置き。

 つなげるとこうなる。

Tomorrow, and tomorrow, and tomorrow,
明日、そして明日、そして明日、
Creeps in this petty pace from day to day,
忍び寄ることは些細な足並みの中で一日一日と
To the last syllable of recorded time;
記録された時間の最後の音節へ
And all our yesterdays have lighted fools
そしてすべての私たちの昨日は照らしている 愚か者を
The way to dusty death.
道  埃っぽい死への

 なんというか。それっぽいんだけど、なんかダサいね。
 でもここで諦めたら試合終了。直訳だもの。ダサいのは仕方がないんだよ。カッコよくするのは最後まで我慢。ここが肝心。先へ進もう。

前置詞を考える

 いつもこの直訳後のくだりでは代名詞がなんなのか考えているのだが、今回の前半部には代名詞がひとつもない(後半にはいくつかある)。代わりに前置詞が頻出するので前置詞の意味をしっかりと捉えていきたい。
 やあ、前置詞。懐かしいですね。「in the building」とか「at am 8:00」とか「on your desk」とかのあれだ。「名詞の前につく」ので「前置詞」と言う。日本語はこの手の品詞が名詞の後に続くので「後置詞」となる。「ビルの中で」「午前8時」「あなたの机の上で」という塩梅。センテンス全体の中でも、英語はこの手の情報が文章の中で後回しなのに対し、日本語は冒頭に配置されることになりがちなので、文法って本当に楽しいものだ。

 さて、前置詞は丸暗記ひとつでも対応できるのだが、前置詞が本来的に持つ「イメージ」を把握しておくことがより重要。それによりより文脈にそった翻訳が(特に英語力が並の私は)できると思う。

Tomorrow, and tomorrow, and tomorrow,
Creeps in this petty pace from day to day,
in~:  ~という状態、領域、空間、基準において
from~: ~を起点として※~からは離れていく前提を持つ
to~: ~へ到達する※~に近づいていく前提を持つ
To the last syllable of recorded time;
of~: ~の一部に属している・存在している
And all our yesterdays have lighted fools
The way to dusty death.

 これを強引に力任せ直訳に反映してみる。ついでに明らかに語順が日本語文法として明らかにおかしかった最後のセンテンスは語順を修正した。

Tomorrow, and tomorrow, and tomorrow,
明日、そして明日、そして明日、
Creeps in this petty pace from day to day,
忍び寄ることは些細な足並みをおこなうという状態の中にあっては、一日を起点として、(fromとは別の)一日へ到達し
To the last syllable of recorded time;
記録された時間という全体の中のひとつである最後の音節へ到達する
And all our yesterdays have lighted fools
そしてすべての私たちの昨日は照らしている 愚か者を
The way to dusty death.
埃っぽい死へ到達する

 台詞として優れているかは別にして、意味合いをしっかりと捉えられた文章になったと思う。ここまで解像度を上げて意味を掴めたら、あとはそれっぽくするだけ……。と思いきや、ここで新たな問題が発生した。

この単語は何? ~そして挫折へ~

Creeps in this petty pace from day to day,
忍び寄ることは些細な足並みの中で一日一日と
Creep: (こっそりと)忍び寄ること、(ゆっくりと)進むこと

 この「Creeps」名詞のつもりで翻訳していたのだけれど、動詞では??
 文章の先頭なので名詞に決まっていると思い込んでいたけれど、tomorrowを主語にした三単現S付きの動詞だったりしないよね? あら、どうしましょう。ちょっと分かんなくなってしまいました。
 もしかしたらと名詞creepが不可算名詞である可能性にかけてみたのだが、可算名詞だった。
 動詞creepが他動詞である可能性(他動詞なら目的語があるはず。あれば動詞)にもかけてみたのだが、自動詞・他動詞どちらもあった。
 終わった。いやあああ私、名詞、苦手なんだよなあ・・・。

 あー、ごめんなさい、続きは次回!! エーーン!!

 でも騒いでも意気込んでもいいが、諦めるのだけは、だめなのだ。
 何故ならこの部分だけ、自分が翻訳した台詞で上演しようとしているのだから。
 本番まで一か月を切ってしまった。どうなる、翻訳!
 最後の一瞬に、辿り付かせてくれよ。

獣の仕業次回公演のお知らせ

獣の仕業 第十四回公演
マクベス [Tomorrow, and tomorrow, and tomorrow,]
2022年10月21日(金)〜10月23日(日)
会場:シアター・バビロンの流れのほとりにて
脚本:W・シェイクスピア 翻訳:坪内逍遥
脚色・演出:立夏

  • 21日(金)20:00

  • 22日(土)14:00,19:00

  • 23日(日)13:00,18:00

  • ※上演時間90~100分※

チケット予約フォーム

劇場観劇と、配信視聴でチケット予約窓口が異なっています。

劇場で見たい方

  • 劇場観劇チケット:2,500円

  • 紙脚本付き+劇場配信チケット:3,000円

  • ※上記フォーム内で券種を選択できます。

配信で見たい方(アーカイブ視聴)


出演

マクベス/Macbeth(武将)…小林龍二

マクベス夫人/Lady Macbeth(マクベスの妻)…雑賀玲衣
ダンカン/Duncan(スコットランド王)、ヘケート/Hecate(月と魔術の女神)…長瀬巧
バンクォー/Banquo(武将)…恩田純也 
マクダフ/Macduff(スコットランド貴族)…今村貴登
三人の魔女/Three Witches:
・第三の魔女/Third Witch、マルコム/Malcolm(王子、ダンカンの息子)…きえる
・第二の魔女/Second Witch、フリーアンス/Fleance(バンクォーの息子)…野崎涼子(salty rock)

第一の魔女/First Witchシートン/Seyton(マクベスの鎧持ち)…手塚優希

あらすじ・演出ノートなど詳細

感染症対策なども記載しています。

詳細は決まり次第noteやTwitter@kmn_chan_botでお知らせいたします。
Twitterでは公演関係者たちもおのおので #獣の仕業 #獣マクベス のハッシュタグで情報や稽古場の様子を投稿しています。ぜひご覧になってください。

獣マクベス公演関係者リストhttps://twitter.com/i/lists/1558797824996753408

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