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「この雑誌が好きだからこそ」九州で唯一の『ビッグイシュー』販売活動

『ビッグイシュー日本版』はホームレスの人たちが街頭で販売する雑誌で、今年で創刊20周年を迎える。熊本市では九州で唯一、街頭で販売する活動が続けられている。熊本地震やコロナ禍で苦しい状況が続きつつも、活動は引き継がれている。

九州で唯一の『ビッグイシュー』販売者

 ビッグイシューは1991年にイギリスで創刊され、世界10カ国で発行されている。日本版は2003年に創刊され、2万5000部以上の発行部数を有する。毎月2回発行されており、社会問題や国際情勢に関する記事の他、著名人のインタビュー記事も多数掲載されている。販売者が売り上げ450円の半分を受け取れる仕組みで、経済的自立支援に大きな役割を果たしてきた。
 九州で唯一の販売員である、中西仁志さんに話を伺った。中西さんは上通りのびぷれす熊日会館前でビッグイシューを販売している。販売を続けて9年、前任者から合わせると11年以上になる。時間帯は11時から3時ごろまで、年末年始を除きほぼ毎日街頭に立って販売している。
「九州だと街頭販売はここだけ。福岡でも販売しておらず、他に販売している一番近い所は岡山。そのため、市内だけでなく山鹿や八代などの県内の各地域、あるいは福岡など九州各地からわざわざ買いに来る人も多い。遠方の方は数カ月分をまとめ買いしていく人もいる」と中西さんは語る。

記者の取材に応じる販売者の中西さん=10月22日、上通


『ビッグイシュー日本版』の最新号を販売する中西さん=同

 発行は月2回で毎回100部くらい。1日10 部くらいはける。熊本地震の前は400部、コロナ禍前は200部ほど販売していたが、 地震とコロナ禍により相当減っており、売れない日もあり、特に若い世代に紙媒体が売れず、読者層が高齢化しつつあると感じているという。「人気アイドルや俳優のスペシャルインタビューが掲載される号は新規読者が買いに来ることも多いが、それでも平均の年齢層が高めなのが現時点での問題」と分析しており、1号限りの購入者だけでなく、新しくリピーターを作るのが今後の目標だ。  販売者になったきっかけは、社会福祉団体からの紹介。本を読むのがもともと好きで、「この雑誌ならきっと買ってくれるだろう」と惚れ込んだのも大きいという。中西さんは「自分以外に販売員が九州にいないこともあり、辞めてしまうと雑誌を求める人が困ってしまうので、責任もある」と言う。雑誌を売るために笑顔や会話力、コミュニケーション力がつい てくる。お客さんに嫌な思いはさせたくないので、営業的なスキルも鍛えられるそうだ。「ずっと立って売るのはしんどいときもあるけど、辛い姿を見せたくない。」と中西さんは語った。 販売中の中西さんは販売者としての誇り、信念をのぞかせていた。「身体がもつ限り続けていきたい。この雑誌が好きだからこそ、続けられていると思う」。中西さんは笑顔で語った。

立つ姿には販売者としての誇りと信念が表れていた=同

雑誌と読者、販売者を結ぶ「ビッグイシューカフェ」

 上通り近くの日本基督教団草葉町教会で毎月ビッグイシューカフェは開催されている。 販売者、サポーター、読者が交流し、記事などについて語り合う。映画監督のインタビュー記事から派生し、実際にその作品の上映会を開催するなどのイベントも行われている。全国的にも読者とサポーター、販売者が定期的に直接交流する場は珍しいという。
 ビッグイシュー日本版には各地に販売員を支援する「サポーター」がおり、現在熊本では3人が活動している。会計や広報などを担当し、読書会も実施しており、ビッグイシューを熊本に根付かせること を目標としており、九州唯一の活動地点となっている。ビッグイシュー熊本チームの広報担当者によると学生サポーターと社会人サポーターが多く、一度就職で活動を離れたメンバ ーが仕事が安定した数年後に活動に戻ることが多いが、最近は学生サポーターが新規に入 ってくれることが少なくなり、マンパワー不足でやれないことが多く、これを克服したいと いう思いがある、とのことだった。

最新号の内容を読み、議論し、交流する「カフェ」=10月22日、草場町教会


 読者からは「ヤングケアラーの問題に関する特集から雑誌を知った。こういう問題を突っ込んで取り上げてくれるのでいつも読んでいる」「東京の有楽町駅で毎号買っていたが、熊本に移り住んだ時、ここでも売っていると知り、嬉しかった」などの声があり、熱心な読者が多いことを窺わせた。
 実際に、他と比べると投稿や広告出稿、活動などアクティブな読者が多いのが特徴だという。読者層は女性が7割くらいで、子育てや社会貢献活動などを通じて知ってくれることが多い。ただし、「読者層は創刊当時の読者がそのままスライドしており、やや高齢化の傾向がある」(サポーター)という問題意識は販売者の中西さんと共通しており、雑誌としての新たな企画や紙面の刷新など若返りを図っている。
 学生サポーターが再生産できていないのが現時点の最大の問題であるという。かつてはサポーターが独自の活動を行えずに低調であったため、解決策としてカフェを毎回開催し、つながりと交流の場を作ってきた。しかし、まだなかなか活動が見えにくいところがあって、今後、より具体的な活動を報告、拡散して透明性を高め、認知度を高めていきたい、と担当者は語った。少しでも読者を広めたいという思いが強く、サポーターは「新しい人、接点がない人と繋がりを持たないと持続しない。街頭での購読者にカフェまで足を運んでもらいたい、というのはハードルが高いかもしれないが、今後SNSの告知の工夫なども強化したい」と意気込みを見せた。
 また熊大生には「まずビッグイシューを知ってほしい。一人でも多くの人の手に取ってほしい。若い世代の声も取り入れて試行錯誤しながら雑誌の改良を続けている。ホームレスの人はもちろん、 それを支える人たち、読む人たちの経済的、心理的な支えとしてこれまで続けてきた活動を、 次に繋いでいきたい。すぐにサポーターとして活動するのは難しいかもしれないけど、まず は一読してみてほしい」と語った。

【サポーターやカフェの連絡先】
ビッグイシューくまもとチーム
Twitter : @Bigissue_KumaT
メール : bigissue.kuma@gmail.com
ブログ : https://bg-kuma-new.seesaa.net

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