見出し画像

(みんなの広場)人文系の国家総合職採用試験と「教養」観


 霖雨の候、長雨が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?3 月から 4 月にかけて、国家総合職試験を受けてきました。その時のことを寄稿します。

 まず、1 次試験が 3 月 17 日に行われました。場所は熊本市、熊本学園大学です。1 時間目、基礎能力試験。公務員の 1 次試験は大きく分けて3つで、教養試験と専門試験と論文試験があります。教養試験は簡単に分けると「文章理解」「数的処理」「その他」となっています。文章理解は国語・英語、数的処理は受験算数と思っていただくとイメージできるでしょう。その他は今年度からの分け方で、2023 年度試験分までは「時事」 「人文科学」 (国語、美術、音楽、地理、日本史、世界史、倫理) 「社会科学」 (政治経済、法律)「自然科学」 (数学、物理、化学、生物、地学)が入り混じっていました。今でも地方公務員ではそのような出題方法が依然としてあります。そこに今年度から「時事」のウエイトが大きくなり、「情報」が増えました。情報については、プログラミング的思考ができれば特定の言語やスプレッドシートを使ったことがなくても解ける問題です。私は毎回息抜きのように答えています。

 2 時間目、専門択一。私が受けた区分が「政治・国際・人文」であり、今年始まった人文区分を解きました。ここでは「政治学や憲法について 5 問」、そして「人文科学」の分野(自然地理学除く)と社会学・心理学・教育学・人文地理学・文化人類学を合わせた分野から必答 20 問と選択 30 問のうち 15 問を解きます 。ここで自分の教養のなさが浮き彫りになったのです。大体の問題は高校の時までのそれぞれの教科の勉強や大学以降に学ぶ「○○学概論、○○学概論Ⅱ」や「○○学特殊講義」の中の個別研究以外の部分で事足りるオーソドックスな内容ですが、特に選択問題で避けたのが高校で勉強してこなかった「世界史」 「文学・芸術」の分野です 。私が「教養」として定義しているのが、 「知識を詰め込むタイプであれども人文学の読書をもととした、上層階級のハビトゥスに則った入試」によって選別に残るための力 です。それが「文学・芸術」のそれぞれの選択肢で詳らかに問われ、正解の 1 つを絞り込まなければならないのです。「○○の代表作は××」だけではなく、 「××は△△という内容であり、□□という背景があった」というところまで問われるのですが、それにしっかり正解するためには、「不断の努力」としての読書や絵画鑑賞が必要なのです。それができているかどうかを単なる 5 択で問うているこの試験形式自体に一種の皮肉を感じますが、そういう「教養」を問われる試験なのです。

 この試験をパスし、2 次試験に 4 月 14 日、行ってきました。場所は福岡合同庁舎。1 時間目、専門記述。今回の試験は「思想・哲学 2 問」「歴史学 2 問」「文学・芸術 2 問」の計 6 問から(分野跨ぎ OK で)2 問選んで解いてください という形式でした。それぞれ、論理学、公共哲学、歴史学的考え方、歴史学的マクロ事象(日本史と世界史のミックス) 、文学、美術といったところです。私は「公共哲学」と「歴史学的考え方」を選択し、文学部専門科目「倫理学概論」で扱ったもの、稲葉継陽先生の今までの研究の総体について、解答としてそれぞれ書きました。田中朋弘先生、稲葉先生の御両人には大変感謝しております。その中で、「文学・芸術」の 2 問については本当に手が出なかったことを覚えています。そこに私の真の「教養のなさ」が露呈したように思えます。先程私は「知識を詰め込むタイプ」としての教養について書きましたが、真の教養は、日本国民が富国強兵によって急速な成長が要請され、その解決策としての「知識詰め込み型」ではない、文学作品や芸術作品の作品的特徴を普段から語り合うことができる能力であると私は考えます。美術では画家名、様式的特徴、主題だけではなく、美術史的意義まで問うていました。私には答えられないなと落胆したところです。そういう人が本当の「上流階級」で、「旧制五高の皆さん」の一般的な姿であると私は考えています。

 2 時間目、政策論文試験。ここでは、「日本語」「英語」「グラフ」を引用・参考にしながら近年の社会問題について政策を論じるというものです。英語の難度としては、「文章理解」の英語ぐらいと考えておいて差支えはないでしょう。私は上手く説明できないので、他の区分でも同じ問題を解くので、後世寄稿してくれる人に説明を譲るとしましょう。強いて言えば、国家一般職の一般論文試験との違いとしては、総合職が「社会の底流に流れるその年限りのものではない社会問題」を問い、国家一般職では「法改正などにより、その年ホットになった社会問題」を問う としておけば見当違いはないでしょう。

 5 月 7 日、もう一度福岡合同庁舎に行って人物試験(面接)を受けて試験が終了しました。志望官庁に「文部科学省と総務省」と書いていたことで「旧自治省」的な質問に終始したことを覚えています。 「私は旧郵政省的な仕事の方が好きなのに」と思っており、面接カードに後悔しています。文部科学省が第一志望だったので、それだけ書いておけば質問の内容も少しばかり変わっていたのではないかと考えています。

 結果は「人物試験で下位数%しか当てはまらない最低評価」という足切りを受けて不合格でした。これによって、私は「人物試験以外は及第点」だったことが分かりました。そのためアドバイスをしていきます。国家総合職人文分野に限っては、たとえ高校で世界史を取っていなくとも、 「試験範囲(基礎能力試験の「人文科学」 )をスーパー過去問などでサラッと見る」だけで、普段から文学部の専門のそれぞれの授業をまんべんなく受けていれば普通に合格できます。 「文学部で過ごしてきた大学 3 年間の勉強の集大成が問われている」と考えた方が分かりやすいかもしれません。3 年生終了後の春休みという就活のきつい時期と被りますが、一つの併願先としては大変おすすめです。そのため、私をロールモデルとして我が文学部の皆さんがなるべく国家総合職に進んでくれることを先輩として切に願っております。

 最後に、こういうネタに面白みを感じる人は我が大学にいる社会学の「多田光宏先生」の授業を受けに行ってみてください。私の「教養」の定義は多田先生の文章とその参考文献に依拠して考えたので、是非とも理系の読者の皆さんも教養教育で開講しているので受けに行ってみてはいかがでしょうか?

〔瀨口雄暉(文学部4年)〕

#熊本 #熊本大学 #教養 #教養教育 #国家公務員試験 #国家公務員 #公務員試験 #公務員

「みんなの広場」に投稿をお寄せください
「みんなの広場」は熊本大学新聞社の読者投稿欄です。学生・教職員・市民など感じたこと考えたことを積極的にお送りください。メール、DM、本紙記者に直接提出などで投稿できます。必要に応じ題目・文章の変更などを行うことがあります。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?