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調理前の『お米』に、号泣する準備はもうできている(育児エッセイ)【メディア掲載】

「お母さん、お父さん、26年間育ててくれてありがとう……」

新郎に寄り添いながら、新婦が涙ながらにご両親への感謝の手紙を読み上げる。
王道かつ感動的な結婚披露宴のクライマックスに、私も思わず涙腺が緩みかけていた。

しかしその涙は、次に聞こえた司会の女性の声で足早に引っ込んでしまった。


予想外の贈り物

「それでは、新郎新婦のおふたりよりご両親へ、感謝の気持ちをこめてお米の贈り物です」

お、お米!?

まさかの贈り物の登場に、思わず漫画のようにガクッと身体を揺らして驚いてしまった。

4年制の大学を卒業して数年がたち、同年代ではまだ少数派ではあるもののぽつぽつと結婚式を挙げる人達が出てきた頃だった。
その日、小さなころに家族と一緒に参列した親戚の結婚式ぶりに他人の披露宴に参列した私は、両親への感謝を表すものとして『お米』を贈るシーンに初めて遭遇したのだ。
イメージとしては『お花』あたりが主流な気がしたが、まさかの食料品、しかも調理前の『お米』とはかなり意表をつかれた。

「このお米は、新郎新婦が誕生された時の体重と同じ重さになっております。新婦は2860g、新郎は……」

そして司会が続けた説明に、またしても度肝を抜かれた。
そ、そんな中途半端な重さのお米をどうしろと言うのだ……?

そのとき私は、きっと披露宴の最後にはふさわしくない訝しい顔をしてしまっていたと思う。
しかしそんな1ゲストの渋い反応など目にもくれず、会場の扉の前に立つご両親達は贈られた米を抱きしめながら泣きに泣いていた。

中途半端な重さの調理前の生米が詰まった袋を抱きながら、泣く大人達。
後になって調べてみるとこれは世間の披露宴では割と人気がある両親への贈り物だそうだが、披露宴参列初心者の私にとってはかなり非日常的な光景だった。

生米を贈られて泣くとは、いったいあれはどういう感情なのだろう……?

そう思ったのは私だけでは無かったらしい。同じテーブルに座る友人達が、小声で話しかけてきた。彼女たちもまた、披露宴参列初心者であった。

「贈り物が米とは、意外性あるよね」
「それな。しかも産まれた時の体重バラされるの、ちょっと恥ずかしくない?」

何を隠そう私は、出生体重がほぼ4kgという日本人の平均出生体重を大幅に上回る超ビッグベイビーだった過去を持つ。
これから出会う未来の旦那様よりはるかに重いであろうその出生体重を披露宴のクライマックスに司会に明かされ、参列者達から「新婦、でかいな!」と笑われる絵が頭に浮かんでしまった。

「私なら、米じゃなくて花にするかな……」
「うちもー」

友人達とヒソヒソとそんなことを言って笑ってしまった。


贈り物の意図に気づいた日

私がこの日笑ってしまったことを後悔するのは、約7年後の春である。

「ママさん頑張ったね、元気な女の子ですよ」

私は病院の分娩台の上にいた。

息を整える間もなく、胸の上に赤くてあたたかな重みが乗せられたのを感じた。
そこには、長女のときとは比較にならないくらいスムーズにお腹から出てきてくれた次女がいた。

圧力でぺちゃんこになった真っ赤な顔と、か細い手足が胸にへばりつく。
軽い。とっても軽い。
でもそこには確かに命の重みがあった。

「小さいね……」

そう言った瞬間、産まれたばかりの次女には申し訳ないが頭の中を埋め尽くしたのは長女の姿だった。

2歳になり、あちこちを走り回り、ことあるごとに口達者に文句を言うようになった彼女も、2年前はこんなに小さかった。

いつの間に、あんなに大きくなってしまったのだろうか。

約3kgのぬくもりを胸に抱きながら、たった2年しかない長女との思い出にひたり、涙が首を伝って服が濡れるほど泣いた。

おいおい、たったの2年で、こんなに泣けちゃうの……?
7年前に参列したあの披露宴で、産まれたばかりの我が子と同じ重みの生米を抱きしめながら、ご両親たちは26年分の思いを馳せていたのであろう。

そんなご両親を笑ってしまったことを、いま全力で土下座して謝りたい。

そして私は産まれたばかりの次女に「披露宴では、3232gの米をプレゼントしてくれよな……」と分娩台の上で前のめりにお願いをしてしまうのだった。


経験は人生を豊かにする

辛かったこともしんどかったことも、その経験は後の自分に『感動』の引き出しを増やしてくれるのだ。

私にとって、出産や子育ては決して楽しいことばかりではない。
しかしこの経験をしたからこそ、若い頃は笑うだけだった他人の結婚式での『両親に贈呈される調理前のお米』にも、今後はハンカチが足りなくなるほど感動して涙することができるだろう。

今後、たった数十メートル先のスーパーに幼い子供がひとりで買い物に行くテレビ番組や、桜の季節に夕方のニュースで流れる卒業式の映像にも、じんわり感動して涙してしまう日が来るかもしれない。

どんな経験も、自分の心に『感動』の引き出しを増やしていると信じて乗り切っていこう。

少し目を離した隙に部屋中にご飯粒をまき散らかしている、1年前の約3倍の重さに成長した次女を眺めながらそう心に誓った。

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こんばんは。

「外資系コンサルティングファーム勤めのワーママが、3年後の2027年までにライターでフリーランスになる」までの記録をリアルタイムで発信していきたい、K子です。

「天狼院ライティング・ゼミ」で書いた文章を天狼院書店のWEBメディアに掲載していただくことができましたが、今回は子育て系の内容ということで全文をnoteに掲載しました。

出産してから、他人の結婚式ではハンカチでは足りないくらい号泣してしまうようになりました。

ライティング講座も残すところいよいよあと1週。
最後は今まで書いたことのないジャンルに挑戦します!

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