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熊の飼い方 29


  光 15

 翌日、会社に行かなかった。行きたいという気分が全くなかった。ベッドの上で天井を眺めながら考えを巡らしていた。
学校も休んだことなどなく、皆勤賞をもらったこともある。別に友達がいるわけでもないが、家にいても親を不安にさせることも嫌だったのもあるが、サボったところで特にすることもなかったので行っていた。いじめを受けていなかったといえば嘘になるが、そこまで陰湿ないじめもなく難なくこなしてきた。
 僕には勉強があり、社会で活躍できるという自信があった。周りが遊んでいるうちに勉強して社会の役に立てる人間になって、将来超えてやると。しかし、今の自分の状況を省みた時、確実にその遊んできた奴らに負けている気しかしない。悔しくてたまらないを超えて、全てのやる気を失った。小さい頃の自分はこんな状況を望んだのだろうか。スマホを見ると親からメールがあった。
「仕事中にごめんね。仕事頑張ってる?仕送り送っとくね」
 返事を返さず、スマホの電源を切った。申し訳なさではなく、ただ苛立ちしかなかった。このまま孤独に死んでいくのだろうか。死んだところで、悲しむ人物なんてこの世にはいないだろう。たとえ悲しんだところで、僕の存在など一週間で忘れ去られてしまうだろう。このようなことを考えていると、時間が過ぎ去ると思っていたが思ったより時間が過ぎるのが遅いことに気がついた。
 秒針がカチカチと一つずつ音を立て、その音が耳に残る。僕を焦らすように時を刻んでいる。外に出ようとも思わない。出たところで、僕の居場所などない。嫌なことを考えないために目を閉じた。しかし、ずっと寝ているために眠ることなどできなかった。また、時を刻む音が耳に残る。
僕はあの時何をしたのだろうか。あれは夢だったのではないだろうか。そんな思いが溢れてきた。そう思った時、足が勝手に動き出した。

 公園を探していた。あの公園は存在したのだろうか。会社から歩いて行った方向をもう一度思い出した。思い出そうとするたびに頭が割れそうになる。
 ずいぶん歩いた。フラフラになりながら道を歩いていた。あれは夢だったのだ。そう思うと安心感が芽生えてきた。だが、先の方に見覚えのある滑り台を見つけた。足が滑り台に向かっていく。心臓は高鳴りを抑えきれなくなっていた。
 公園の目の前に行くと、何かカラフルなものが入り口に横たわっていた。近づいて見てみると、たくさんの花束だった。なぜこんなたくさんの花束があるのだろうか。気になって公園の中を見てみると、あの時の公園だった。公園の中を覗いた時砂場が目に入った。そこには、蹲っている少女の姿が見えた。まさか。
呼吸が荒くなる。息がどんどん早くなってきた。頭がぼーっとしてきた。その場にしゃがみこんだ。砂場に目を向けると、そこには少女ではなくしゃがみこんでいる男性の姿が見えた。
「大丈夫ですか?」
 男性が近寄ってきた。僕は慌てて立ち上がり、来た方向に走り出した。
 頭がしっかりとしない。だが、ただ走ることしか僕の脳には思い浮かばなかった。何かに突き動かされるように、真っ直ぐに。

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