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熊の飼い方 20

影 11

 今日の外は、騒がしくなく静かだった。窓から差し込む光は鮮やかな橙色をしていた。どのようにしてこのような景色が作られているのか理解しがたい。しかし、何かが合わさってこのような色に変化しているのだろう。この辺りの一部だけであろうか。それとも、日本中を覆っているのだろうか。この景色に感動している人はこの世にいくらいるのだろうか。高い窓から差し込む木洩れ陽をライトに机に向かった。途中で書けなくなった手紙を取り出す。

僕は、何もできませんでした。
勉強はある程度できたのに、仕事はできませんでした。
怒られた。罵られた。殴られた。
僕は何もできないと強く感じました。
人と喋る事も、友達もできない。コミュニケーションを取る事が出来ない。
そんな僕を救ってくれたのが、あの場でした。
少しの間でしたが、あそこでは僕の居場所があったように思います。
誰にも怒られることはありませんでした。
何をしても悪いと思うことはありませんでした。
一体何が悪いのでしょうか。

 書いているうちに、怒りがこみ上げてきた。悪い事とは一体なんなのだろうか。良い社会とは一体何なのだろうか。そのようような思いに駆られた。しかし、自分にはどうすることもできない。過去を変えることなど不可能だ。かといって未来を変えるというような綺麗事も好きではない。
 自分に対する怒りも増した。僕は僕にしかなれない。
 見上げると、窓からの光がなくなっていた。僕には、やはり『影』が似合っているのだと思った。

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