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熊の飼い方 17

光 9

 雲が人間に光をできるだけ当てないように空を覆っている。僕は、進んでいるようだが進んでいない足を持ち上げ会社に向かう。今日はどのようなことで怒られるのだろうか。部長の怒った顔が自分の頭を占領している。周りの社員も最近は、僕の陰口を言っているようだ。
 足は会社の方角に向かっている。サボりたいのは山々である。いつも気がついたら会社にいる。事務所にはまだ誰もいなかった。いつものことだ。気持ちだけは誰にも負けたくない。しかし、気持ちだけが進み、体は付いて来てない。不調をきたしているのは事実だ。佐々木はいつも出勤時間の五分前に到着する。仕事の量は同じなように見えるがいつも自分より早くこなす。自分も負けないように仕事をこなすが時間がかかってしまう。僕は佐々木よりもいい大学に入った。大学でもほとんどの時間を図書館で過ごした。サークルなどとも縁がなかった。歯を食いしばって誰よりも勉強してきたはずだ。それなのになぜだ。そのような答えの無い問いといつも闘う。
「田嶋ご飯行こ」佐々木は言った。
「ごめん、今日はやめとく」僕は小さな声で言った。
「最近、忙しそうやな」
「色々書類が溜まってて」
 最近、佐々木と話す機会も減ってきている。佐々木を無意識に避けている自分がいる。嫌いというわけではないが、距離を置いておきたいのかもしれない。佐々木といると常に負けている気がするからだ。外には見せないようにしているつもりはないが、勝手に意識してしまっている。佐々木はそれに気づき、気を使ってくれていることも分かる。
 昼は、コンビニのおにぎりやパンで済ませている。それぐらいに時間がない。今度こそは、勝つしかない。この思いだけでパソコンに向かう。
 できた書類を上司に持って行く。それを跳ね返される。この繰り返しが今日も続く。このやり取りはいつまで続くのだろうか。
気が遠くなる。ぼっーとする頭を持ち上げながら書類と向き合った。

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