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熊の飼い方 26

影 14

 僕は追いかけている。緑あふれる丘の上で。周りは綺麗な芝生に囲まれている。日光が芝生を照らし、さらに緑が映えているように見える。空には、所々に薄い雲が流れ、その他は青色が一面に広がっている。心地良い風が額をすり抜けていく。このような場所で一生暮らせたら幸せだろうな、と微かに思った。
 僕の前を走っているのは、高校生ぐらいの女の子だろうか。髪が肩に当たるか当たらないかぐらいで、走る度になびいている。こちらを何度も見ながら、笑みを浮かべ丘を自由自在に走り抜けている。だが、顔が髪に隠れよく見えない。僕は、それに追いついて捕まえるように追いかける。容易に追いつくことができない。
 丘を越えると大きな山が見えてきた。葉を多く蓄えた広葉樹林でできた山のようだ。その山は北欧の小高い丘の印象からかけ離れた風貌であった。異様な雰囲気に包まれていた。少女はその山までたどり着いた。だが、止まることなく、速度を変えずその山の中に入って行く。僕もそれについて山の中に入って行く。僕が山に入った頃には、少女の姿が見当たらなくなってしまった。辺りを見渡すと、木が僕に迫ってくるようだった。生き物がうごめく様子も無く、静かであった。真っ直ぐ進んで行くしか無い。進めば進むほど、後には戻れないように思うが帰る当ても見当たらない。ただ、少女を探し遠くを見つめながら走っている。
 森にも関わらず傾斜があまり無い。走っていると、何かに躓き、転んだ。足には、非常に柔らかい感覚が残っている。立ち上がり、振り返ってみるとそこには、先ほど追い掛けていた少女がうつ伏せで倒れていた。
 心臓が鼓動していることを体全体で感じている。この少女が誰なのか、確認するべく体に手を近付ける。手は汗を全体にまとっている。少女の右肩を両手で掴み、仰向けにした。顔はなかった。目をこすって確認したが顔を持たない少女がそこにはいた。と、思った瞬間、少女の顔が自分の顔に変化していく。鼓動が自分をおかしくしていく。声帯が千切れるほど叫んだ。誰に訴えることもなくただただ叫んだ。自分の声が森全体に響き渡る。
 叫びとともに、目の前が真っ暗なことを確認する。このような夢を見るのは初めてでは無い。身体が息遣いで定期的に動いているのを確認した。何を意味しているのだろう。思い出すには時間がかかった。

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