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熊の飼い方 25

光 13

 いつもより早く仕事が終わる。午後七時。外はまだ少し明るい。大阪の街は、夜の仕事が始まる準備をしている。少し遠回りをして帰ろうと思い立った。気分があまり良くないからである。
また今日も、いつものように上司からの罵倒。今日は、「お前見とるだけでイライラするねん。もう帰れ」と言われた。どうやら会社にいることも許されない。張り詰めていた糸がプチンと音を出して切れた。
 二ヶ月以上罵倒され続いている。どうしてこんなにも上手く行かないのだろう。生きていても意味があるのか。逃げるという選択肢もない。助けてくれる人なんていない。
 外は明るいのに僕は常に暗闇の中を当てもなく歩いているみたいだ。歩いても、歩いても灯りが見えない。ファンタジーでは、森の中に迷うと必ず灯りを見つけ、そこで色々なことを学ぶのであろう。しかし、僕の目の前には灯りなど一切ない。あるのは暗闇と絶望だけだ。
 気付いた時には、随分遠くまで来ていた。周りには、廃れた店、転がる空き缶、ゴミを探す野良猫、上空にはカラスの鳴き声がする。まっすぐ歩いて行くと、木に覆われている場所があった。ブランコ、滑り台、砂場しかない小さな公園だった。どうせ行くところなどないので、ブランコに座ろうとしていた時、砂場で蹲っている物体が見えた。近づいていくと、小さな少女が一人、砂場で遊んでいるようだった。
 不思議だった。以前であれば、場所を変えていたのかもしれない。しかし、なぜか体が公園の方に向かっていた。美しいと感じた。何も知らない、これから大人になり社会に出たら、そうやって遊んでいることなんて出来ない。頭の中はファンタジーの世界だ。僕にはもうファンタジーの世界など見えない。羨ましさを超えて腹立たしい。壊してやりたい。少女は、何も気にせず手を砂で汚している。何も気付かず。
 僕の手は気づいた時には、少女の首筋に向かっていた。今から教えてあげる。こんな世界にいても暗闇しか無い。今ファンタジーを見ることができるうちに見て死んだほうがいいと。そして、僕の前から消えて欲しいと。

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