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悪文を避ける「一文一義の原則」と文章の書き方

このnoteでは,より良い文章を書くためのポイントを話していきます.レポートや論文,報告書や企画書を書く上でのヒントにしてください.

今回は「何を言っているかわからないと言われた」という方へ,「一文一義」を考えます.

長く,複雑な文章

文章を書いていると,自分が何を書いているのかさえわからなくなるような文章を書いてしまうことがあります.たとえば,以下のような文はどうでしょうか.

社会学とは,その名の通り社会の学であり,人々の行動や意識を調査することで,社会現象の背後にあるメカニズムを探ることを中心としながら,経済学や心理学といった他の社会科学諸学問をしばしば援用しつつ,社会の謎が実証される.

私のあらん限りの「悪文力」を使って悪文を書いてみました.何を言いたいか全くわからない文章ですね.皆さんはこんな文章は書かないと思ったかもしれません.しかし,気を抜くと誰もがこのような文章を書いてしまいます.

この文章はなぜわかりづらいのでしょうか.いくつかの注意点にわけて考えたいと思います.

長い文章は区切る

まず,この文章は明らかに長いです.言いたいことを詰め込みすぎて,一文に多くの意味が入っています.これは「一文一義の原則」に反します.

一文一義の原則は,一つの文章には伝えたいことを一つだけ述べる,というルールです.文章は句点までを指します.先程の文には,句点は一つだけなので,あれで一文となります.明らかに複数の「伝えたいこと」が混ざっています.列挙すれば,
 ・社会の学
 ・人々の行動や意識を調査する
 ・社会現象の背後にあるメカニズムを探る
 ・経済学や心理学といった他の社会科学諸学問をしばしば援用する
 ・社会の謎が実証される
となります.なんと5つも含まれています.明らかに過積載です.

この文章で伝えたいことは「社会学とはどういう学問か」ということでしょう.そうなると,どれか一つをピックアップして,まずは一文として言い切ることが必要になります.他の言いたいことは,別の文章を立てて述べましょう.

このように,基本的に文章は短くまとめると,理解されやすくなります.これはKISSの原則として欧米ではまとめられます.KISSとはKeep it Simple and Short.(短く簡潔に)という文の頭文字から取られています.

主語と述語をちゃんと対応させる

次に,この文章は主語と述語が対応していません.試しに,文章の途中を取っ払ってみましょう.

社会学とは(中略)実証される.

明らかに対応していませんね.英語で言えばbe動詞のあとに動詞がまた来るような形になっています.

文頭から見ていけば「社会学とは〇〇な学問である.」という文章であればしっくりきます.一方,文末から見れば「社会の謎が実証される.」という文で完結しているようにみえます.主語と述語が一致していないので,このような食い違いが生じます.このような不一致は,文章を区切るべきだというサインです.

「~とする」「~となる」は明確な動詞に言い換える/表現を変える

「社会現象の背後にあるメカニズムを探ることを中心としながら」の部分に注目しましょう.この文章を「社会学の営みは,」の主語をくっつけて,一つの文として独立させてみましょう.すると,以下のようになります.

社会学の営みは,社会現象の背後にあるメカニズムを探ることを中心とする.

この文末表現「~とする」はよく学生のレポートで見られる表現です.たとえば以下のように,人名の発言や新聞記事を引用するときにこの表現を使うようです.

デュルケムは,社会学の営みを「社会的事実を物のように扱うこと」としている.

この「~とする」という表現はあまりよくありません.なぜなら,「~とする」は汎用性の高い代動詞であり,どんな動詞もそこに代入できてしまうからです.なので,動詞は明確に書かれなければなりません.先ほどの文章は以下のように改善されます.

社会学の営みは,社会現象の背後にあるメカニズムを探ることが中心である

デュルケムは,社会学の営みを「社会的事実を物のように扱うこと」と述べている

同じように「~となる」も同様に注意が必要です.

× 社会学では,実際のデータを集めることが重要となる
○ 社会学では,実際のデータを集めることが重要である

以上のように,動詞をキチンと言い切ることがわかりやすい文章の一歩となります.

受動態を能動態にする

もとの文章の最後に注目しましょう.「社会の謎が実証される.」ですが,受動態で書かれており,主語がわかりません.この文章はもともと入り組んでいましたが,動作主を補えば次のように書き直すことができるでしょう.

社会学者によって,社会の謎が実証される.

受動態は,動作主を省略できるため,読者が理解するのに時間がかかる文体です.また,受動態の文章を理解するためには,文書をあちこち見返す必要がでてきます.受動態はできるだけ能動態にしましょう.つまり,先の文は次のように書き直すことができます.

社会学者は社会の謎を実証する.

非常にすっきりしますね.このように能動態にすることで,文章も短くなり,非常に理解しやすい文になります.

実は,論文においても能動態が用いられるシーンが増えてきました.近年の論文の要旨を見れば,"We conducted the experiment ... "という表現が多くなりました.ひと昔前だと"The experiment have been conducted ..."という受動態で表現される文章のはずです.

能動態が推奨されるのは,誰が何をしたかが明確になるからです.もちろん,使い分けが必要でしょうが,うかつに受動態を使わないようにしましょう.

その他の気をつけるべきこと

他にもさまざまなポイントがあります.以下にいくつかを列挙しておきましょう.

・漢字が多い場合はひらがなにおきかえる
・不必要/不適切な漢字は使わない(分かる→わかる,出来る→できる etc. )
・むだな形容詞を使わない(rf. KISSの原則)
・難しい言葉を避ける.使わなくてはならない場合には必ず説明をつける.
・文末表現を統一する(「~である,~だ」調/「~です,~ます」調)

特に,漢字とひらがなについては,木下是雄がマイルールを挙げています(木下 1981).また,社会学では『社会学評論 スタイルガイド』がとても参考になります(日本社会学会 2018).

読みやすさをさらに追及するのであれば,一般の文章術の本も大変参考になります.たとえば,メディアサイト「ナタリー」の文章術を公開した『新しい文章力の教室』(唐木 2015)がよいでしょう.

改善された文章

では,上記のルールに沿って改善された文章を見てみましょう.

社会学とは,社会のできごとの背後にあるメカニズムを探る学問だ.ここでメカニズムを探るとは「なぜそれが起こったのか」を明らかにすることである.社会学者は人々の行動や意識を調査し,メカニズムを明らかにする.その過程で社会学者は,経済学や心理学の知識を利用することもしばしばだ.

もともとの文章を,少し削りながら,書き直しました.前よりはよくなったのではないでしょうか? このように一文一義の原則に従って,読者のことを意識しながら,わかりやすい文章を書いていけば,自分の言いたいこともきっと伝わりやすくなるでしょう.

参考文献
  唐木元,2015,『新しい文章力の教室――苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング』インプレス.
  木下是雄,1981,『理科系の作文技術』中公新書.
  日本社会学会,2018,「社会学評論スタイルガイド 1.2 わかりやすい文章」,日本社会学会ホームページ,(2020年8月9日取得,https://jss-sociology.org/bulletin/guide/promise/).

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