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情報を「読んで」仕入れる:本と論文をどう選び,どう読むか?

このnoteでは,より良い文章を書くためのポイントを話していきます.レポートや論文,報告書や企画書を書く上でのヒントにしてください.

今回は「書くべきことが思いつかない」という方へ,「アウトプットの量・質を高める情報の仕入れ方」を考えます.

書くことがない?

レポートや卒論,あるいは就活のESといった文章は,設定された,あるいは自分が設定したお題に対して書くものです.その文章には「書くべきこと」がモレなく書かれていなければなりません

では,「書くべきこと」とはどのように見出すべきでしょうか? 「書くべきこと」がわかっていれば,収集すべき資料や文献,なすべき分析の見通しもよくなります.そこで「書くべきこと」を見出す方法について少し考えてみましょう.特に,このnoteでは「情報の仕入れ方」に焦点を当ててみましょう.(なお,このnoteでは「学術的な文章のためのインプット」を念頭に置いています)

インプットを増やす/質を向上する

文章を書く上での大前提として,書く分量以上の質・量のインプットが必要です.インプットなしでは,良質な文章を書くことはできません.よく「自分の頭で考えれば十分だ」と言ってなにも情報を仕入れずに書こうとする人がいますが,これは壊滅的な結果に結びつきます.基本的に,自分が書くことができる文章の質・量はこれまで自分がどれだけインプットしてきたかに大きく依存します.少なくとも,仕入れたもの以上の文章を書くのはまず無理でしょう.

インプットの最も基本的な方法は「読む」でしょう.具体的には,2つの「読む」が重要です.
 ・論文を読む
 ・本を読む
これらは,最もベーシックで最も重要なインプットです.

本の選び方:用途に注意を向けながら

本にはさまざまな種類がありますが,ここでは新書・教科書・専門書という3つの分類を取り上げます.この3つはどれも違う用途で用いることが肝要です(もちろん,例外もありますが……).

新書とは,特定の分野・トピックに対して,手軽に読めるように比較的やさしく書かれたコンパクトな本を指します.新書は新しい分野・トピックに触れる第1歩として,最適なインプットを提供します.新書は非常にやさしく書かれているので,自分が何も知らない状態であっても,情報が頭に入ってきます.ただし,新書はあくまで入門です.より広い幅と深さを得るためには,別の種類の本を読む必要があります.

教科書とは当該学問分野をある程度カバーするように書かれた本です.よく『○○学入門』と書かれている本が教科書です.少し大きい書店であれば,分野の棚には必ず一冊はその分野の教科書があります.たとえば社会学だと以下のような教科書があります.

教科書はその分野を(ある程度)網羅的に取り上げているので,分野の見取り図を得るのに最適な本です.新書を読んでなんとなくその分野の雰囲気はわかったけれど,ほかにどんなトピックがあるのかわからない,トピック間の関連が見えない,といった悩みに対して教科書は非常に有効です.

また,教科書は(よほど変な著者でない限り)分野の研究者たちが「重要だ」と考える内容を扱っています.その意味でも,教科書は分野の信頼のおける地図を提供してくれます.

研究書は研究者が自らの論文を中心にまとめ上げた本です.たとえば,以下のような本が研究書にあたります.

研究書(あるいは専門書)は信頼性が高く,専門的な知を吸収するのに最適です.多くの研究書が自身の査読付き論文(後述)をベースに書かれているので,手堅さと深さを兼ね備えています(もちろん,そうでない場合もあります).卒論,論文等の執筆の際には,参照すべき書籍群でしょう.

最後に,どの書籍も(研究書を除き)裏付け・他の人の審査はありません.読んでいて「これ,なんか怪しいなぁ」と思ったら必ず裏を取ることをお勧めします.実際の公的統計にあたる,参照している論文・書籍を読んでみるなど手軽にできることから始めてみましょう.

論文の選び方:査読付き論文を中心に据える

特に論文は,専門的な知を得るためには欠かせない情報源です.以下の検索サイトやプラットフォームを用いて探してみてください.あるいは,所属大学・機関によってはWeb of Science等のサービスも利用可能である場合がありますので,利活用してみてください.

Google Scholar(国内外,多種多様な論文が見つかる)

J-STAGE(国内の査読付き論文をメインに)

CiNii (国内の図書・記事・論文・一般雑誌)

論文は,査読の有無によって大きく2種類に分かれます.そして,査読がある論文のほうがより信頼のおける情報源となります.

査読とは,雑誌に論文を掲載する際に,複数の査読者によって「論文が掲載に値するか」判断することを指します.「査読付き論文」は掲載に至るまで少なくとも査読者の目が入った論文です.つまり,めちゃくちゃな論文は査読の時点で(おおむね)はじかれるので,質の高い内容の論文が「査読付き論文」のカテゴリーに集まってきます.論文は査読付き論文を中心的に当たるようにしましょう.学会が発行している雑誌に掲載されている論文は,基本的に査読付きです.

逆に論文が『○○大学××学部紀要』に掲載されていると,それは査読がついていないことがほとんどです.査読がついていないということは,極端な話をすれば,その論文はでたらめを書いても掲載されてしまう,ということを指します.実際,紀要に掲載された論文の中にはとんでもないものも少なくありません.このあたりは自己責任で読みましょう.紀要に手を出すことは,選球眼が必要なので,個人的には上級者向けだと考えています.

また,論文の内容にも様々な種別があります.問いにアプローチする研究論文のほかに,分野の論文をまとめて見取り図を提示するレビュー論文があります.レビュー論文もまた,教科書と同様に分野の見取り図を提供してくれますが,教科書にはない2点の良さがあります.1点目は,研究論文をまとめているので,一定の深さ・専門性があることです.2点目は,分野の研究動向を知れるということです.研究動向を知ることは自分の論文の位置づけを探るためにも重要な役割を果たします.

インプットでセンスを磨く

今回はインプットとして「読む」ことを取り上げました.知識や情報を仕入れることは,自らのセンスを磨くことにもつながります.くまモンのデザイナーである水野学さんは著書『センスは知識からはじまる』の中で「センスのよさ」を「数値化できない事象のよし悪しを判断し,最適化する能力」(水野 2014: 18)と定義しています.研究で「数値化できない事象」といえば「リサーチクエスチョンがインパクトがあるか」といったものが思い浮かびます.

そして,水野さんは知識を仕入れることで「普通」を知り,表現の幅を広げることで,「センスのよい」ものを生み出すことができる,と述べています(水野 2014).

情報を仕入れる,という作業は文章を磨くだけでなく,自分のものの見方をも磨く作業になります.今回のnoteをヒントに様々な情報を吸収してください.

参考文献
  水野学,2014,『センスは知識からはじまる』朝日新聞出版.