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アウトプットに向けて知識を整理する:掛け算を促す仕組み

このnoteでは,より良い文章を書くためのポイントを話していきます.レポートや論文,報告書や企画書を書く上でのヒントにしてください.

今回は「書くべきことが思いつかない」という方へ,「アウトプットを生み出すアイディアの出し方」を考えます.

アイディアは掛け算で生まれる

広告業界で名をはせたジェームズ・ヤングは『アイディアのつくり方』という本のなかで,まずアイディアを以下のように定義します.

アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもないということである.(Young 1975=1988: 28)[引用者注:太字は原文中では圏点強調]

ヤングは,アイディアとは組み合わせである,と述べています.これまでの考え方や概念の組み合わせ(掛け算)の中に,新しいアイディアが生じる,ということです.

またヤングはアイディアは以下の5段階を経る,と述べています(Young 1975=1988: 54-55).

第1:資料集め
第2:心の中で資料に手を加える
第3:孵化段階
第4:アイディアの実際上の誕生
第5:具体化,展開

第1の「資料集め」は,インプットの段階を指します.さまざまな資料をインプットすることで掛け算の土台を増やし,アイディアの創出を促します.インプットの仕方については,すでに別のnoteにまとめています.

情報を心の中で咀嚼する

ここでは,後半の部分,特に第2・第3段階について注目しましょう.第2段階では,ヤングの言葉を借りれば「資料を咀嚼する」段階です.ヤングが想定している資料の咀嚼は,集めた資料たちを様々な観点から見返し,資料に注釈をつけていき,資料間の関係性から思いついたことをメモしていく段階になります.

たとえば,あなたがなにか新しい研究をしようと考えているとします.研究なので「資料」は公的統計データや先行研究である論文・書籍群です.ヤングの言葉に従えば,先行研究を様々な観点から見つめなおし,新たな掛け算の可能性を探ることが第2段階にすべきことです.

研究論文では,見るべき部分はたとえば以下のようになります.
 ・リサーチクエスチョンは?
 ・分析方法は?
 ・研究の意義は?
 ・どんな研究の流れに位置付けられている?
 ・使用するデータは?
 ・この論文から自分が何を得たのか?

関係性を見出すためには,論文を読んだときに上記のような情報のメモを取っておくとよいでしょう.これらの情報をメモっておくことで,後で見返すときにも便利です.書籍も同様です.

『薔薇の名前』で有名な記号学者のウンベルト・エコは,『論文作法』という本の中で,この読書メモを記すことの重要性について述べています.

あらゆる種類のカードのうちで,もっとも習慣的な,しかも所詮,もっとも不可欠なものは,読書カードである.つまり,書物なり論文なりに関する書誌的言及をことごとく正確に記入するためのカードのことであって,そこでは,テーマを総合したり,ある鍵的引用を選び出したり,ある判断を練り上げたり,一連の考察を付加したりすることになる.(Eco 1977=1991: 153)[引用者注:太字は原文中では圏点強調]

エコ自身も彼が書いた「読書カード」をいくつか例示しており,「ご覧のとおり,私のやり方は,今しがた,君に助言してきたほど精密ではなかったのである」(Eco 1977=1991: 155)と自己評価しています.いずれにせよ,何かを読んだらその内容と,そこから自分が何を得たのか,書き留めていくことは,アイディアを生み出す上では重要な作業になります.

エコやヤングの時代では,パソコンもネットもなかったので,読書カードというものを用いていますが,現代ではみなパソコンやスマートフォンを持っています.このような論文・書籍の読書メモは,電子的に取るのもありでしょう.ちなみに私は,Google KeepやEvernoteを使っています.

メモを電子化することで得られる利点の一つは,頭の中で浮かんだアイディアをすぐにとらえることができる点です.思いついたアイディアはすぐに書き留めないと忘れてしまいます(シャワーを浴びていて何か思いついても,浴室を出たら忘れることはよくあることでしょう).スマホであればすぐに取り出し,記入できるのでこのようなことはありません.これは,のちに掛け算を創造する際にも役に立つでしょう.

無意識の掛け算を意識的に行う仕組み

アイディアが生まれる第3段階をヤングは「孵化段階」と名付けています.ヤングはこの第3段階は「無意識下」で行われるのだ,と述べています.

ここですべきことは,問題を無意識の心に移し諸君が眠っている間にそれが勝手にはたらくのにまかせておくということのようである.(Young 1975=1988: 47)

おそらくヤングが想定したのは,いったん問題から離れてお風呂に入っているときや,別の本を読んでいるときに,ふと新しいアイディアが沸いてくる,そんなプロセスであろうと思われます.

しかし,現代においてこの無意識に行われる掛け算の創造を意識的に促す方法がいくつかあります.このnoteでは,そのいくつかを紹介していきます.

1. ブレインストーミング
最も基本的な方法はブレインストーミングです.ブレインストーミングとは,時間を決めてとにかく思いつくことを書きまくることを指します.このとき,書いたことを「そんなバカげたことはだめだ」などと言って否定することはしてはいけません.書かれたアイディアを吟味するのは後の段階で行うことです.

2. マインドマップ
マインドマップは,テーマに沿った発想・思考の整理をするために用いるツールです.大きな紙の中央にテーマを書き,そこから関連する概念を線と点でつないでいく方法です.作り方はたとえば,以下のサイトが参考になるでしょう.

3. KJ法
KJ法とは,文化人類学者の川喜田二郎が考案した発想法です(川喜田 1967).KJ法はブレインストーミングと組み合わせて真価を発揮します.ブレインストーミングのアイディア一つ一つをカードに書き直したのちに,それらを見直し,グルーピングをし,見出しを与え,その関係性を記述することで,全体を俯瞰し新たなアイディアを生み出すことができます.詳細は以下のサイトが参考になるでしょう.

4. 人に話す
上記の方法よりも,最も簡単で手っ取り早いのは自分が今,頭の中で考えていることを他の人に話すことです.他人に話すことで自然と思考が整理されるとともに,新たなアイディアが得られるかもしれません.

掛け算を促す仕組みは日々の取り組みから

どのような仕組みを採用するにせよ,アイディア(=掛け算)を生み出すためには,インプットがなければできません.アイディア発想法は,周到な資料収集の後に輝くものです.日頃からインプットの質を上げて,何かを書く際のアイディアを創造していきましょう.

参考文献
  Eco, Umberto, 1977, Come si fa una tesi di laurea <strumenti Bompiani>, Milano: Gruppo Editoriale Fabbri.(=谷口勇訳,1991,『論文作法――調査・研究・執筆の技術と手順』而立出版.)
  川喜田二郎,1967,『発想法――創造性開発のために』中公新書.
  Young, James W., 1975, A Technique for Producing Ideas, NTC Business Book.(=今井茂雄訳,1988,『アイデアのつくり方』 CCCメディアハウス.)