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「知」図づくり×コケで授業づくりにチャレンジ~苔の声に耳をすませて~

君は,いったい,いつまで分かった気でいるんだい?
たかだか30年ちょっとの人生で,自分以外のものに何かを教えられる気になっているんだもんな。

先日,学校に出勤すると,玄関に何かあることに気が付いた。
近づいてみると,ガラスの容器に,数種類の苔が生けられている。
その小さな世界に,思わず見入ってしまった。
じっとのぞき込んでいると,苔たちが僕に語りかけてくる。
あぁ,これはもう…後戻りはできない。
腹をくくって,職員室へ向かった。
「あの,玄関の苔のやつって…」
「あ,あれ,私です。」
事務の先生の声が,コピー機の向こうから聞こえた。
あの…う,うちのクラスで授業してくれませんか?
こうして,僕達のコケストーリーは始まった。

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授業は,図工科と国語科の合科で行うことにした。
春の俳句づくりの単元が,休校とぶつかってしまい,行うことができなかったので,その代わりとしてちょうど良かった。
まずは,子ども達に,「苔」について知っていることを聞いてみた。
「は?苔?あんまり見たことない…。
苔って,一種類じゃないの?
「家のペットのお墓のところに生えてきて,邪魔だから,よくむしってます。」
「なんか,ジメジメしてる。」
子ども達からの率直な言葉に,うんうん,僕もそうだったと思いながらメモを取る。

ここで,事務の先生に登場してもらう。
手には,何やらチャコールグレーの箱を持っている。
ふたを開けると,子ども達は自然と中を覗き込む。
そして…
「すごい!苔,いっぱい!」
「いろんな種類がある!」

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次第に,苔に心を惹かれていく…

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そして,テラリウム登場。
きれい!
かわいい!
もう,このころには,子ども達はうっとりした表情に
コケティッシュな苔の魔力に魅了されている。
そう。子ども達もまた,僕と同じく,オチてしまったんだと思う。
そして,始まる。彼らのコケストーリー。
もう,誰にも止められない。

まずは,学校の敷地内を歩きながら,苔を集める。
もちろん,ただ苔を集めるんじゃない。
苔の声に耳を澄まして,苔との触れ合いを楽しむ。
そのために欠かせない,芸術家のメガネ
探索に出発する前に,これをみんなで,「カチャッ」と装着する。
今回は,たくさんの同僚も僕の授業に参加してくれた。
もちろん,大人にも,芸術家のメガネを「カチャッ」と装着してもらった。
探索が始まると,もう苔に熱中。

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「なんか,ここの苔だけ,色が違ってる。」
「この苔,周りの苔と種類が違うのに,一緒にいる。」
「てか,足元にも苔いっぱいあるじゃん。」
「めっちゃ苔ある!今まで,何で気づかなかったんだろ?
「ほんと,うちの学校,苔だらけだ!」

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苔を探しながら,気付きをどんどん口にする子ども達。
もう,苔の声が聴こえ始めているころかな。
トレーいっぱいの苔を集めて,みんな満足そう。笑
苔を水で洗いながら,「苔って根っこ無いのかな?」「すげぇ!洗うと透き通る!」なんて声も聞こえる。

教室に戻って,「気付き」と「思いつき」を共有して,知図にしていく。
子ども達は,気づきをどんどん付箋に書いていく。

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「これまで真剣に見たことなかったけど,苔にはいろいろな種類があって,個性ががあるってことが分かった。」
かげが薄くても,一つ一つ面白いよね。」
いろんな人で見ると,良さもいろいろ分かるよね。」

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「じゃまもの扱いしていたけど,『ぼくにも魅力が有るよ!』って言ってるみたい。」
「てか,『じゃまでも,別にいいじゃん。君も迷惑かけたり,じゃまになる時あるじゃん。』って言いたいんじゃないかな?」

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「苔って,根っこが無いから,根に持たないタイプなのかな?」
「なんか,苔って,『親友』って感じがする。」
「どういうこと!?」
「なんか,それぞれ個性があって,一つ一つ魅力があるじゃん?だけど,お互いに認め合いながら,同じ場所で静かに生きてる。
「確かに。ずっとくっついていても,ケンカしなさそうだし,ケンカしても"根に持たない"もんね。」
「ちょっと,いいイメージが持てなくても,よく付き合うと,良さが分かってくるっていうのもそういうことかもね。」

一人一人のの気づきが結びつき合って,もう勝手に考えが生まれちゃう。
様々な物語が,生まれる。
そして僕も。
「今の話を聞いていて思ったのは,苔って,君たちみたいだね。
そう言われた彼らは,ニコニコして,とても嬉しそうだった。
「こけにされる」という言葉は,僕と彼らにとって,ネガティブな言葉ではなくなってしまったようだった。

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そんな思いを,五・七・五や詩にする。
発見が詰まった,素晴らしい作品がたくさんができた。

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そして,その川柳や詩に合わせたテラリウムを作る。
表現したい思いをしっかりと込めた作品ができあがった。

僕達はきっと,苔を通して,自分自身と向き合ったんじゃないかと思う。
少なくとも,僕はそうだ。
ザワザワとするような知らせ,新しい日常,意見の相違,見解の断絶。
人と向き合う難しさや苦しさを,痛感する日々。
でも,自然に丁寧な目を向ければ,自ずと自分が映し出される。
どこに向かうべきか,どう向かえばいいのか分からなくなった時,自然が思い出させてくれる。
そんなことを,身をもって学んだ経験だった。
さて,僕はまだまだ分からないことが山ほどあるようだ。
明日も,また一歩,踏み出そうかと思う。
僕のストーリーは,僕にも止められないのだから。

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