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バーチャルYouTuber研究7:      キズナアイさんにみる仮想世界の拡大

 調査研究を紹介している途中ですが、今回は箸休めで「キズナアイ」さんにみる仮想世界の拡大について、支援企業が考えるプランを私自身が取材した結果を中心に紹介してみます。

1. バーチャルタレントの活動領域

 2019年夏、キズナアイさんの分裂騒動が話題になっていた時期に、当時彼女が所属していたマネジメント会社、Activ8株式会社の執行役員に取材して、所属する学会で報告していただいた内容です。1年半ほど前の話ですが、最近の展開にもつながる路線が当時から計画されていたようです。最近の話題は1月22日に2nd LIVEを配信し(以下動画)、前回の記事で触れた「複合現実:Mixed reality」を体現するかのような素晴らしいパフォーマンスをファンユーザーへ披露してくれました。

 さて、キズナアイさんの活動は2020年5月からKizuna AI株式会社としてActiv8社から分社化する形で新しい再スタートになりましたが、Activ8社がプロデューサーの立場から計画していた方向を2019年10月に学会講演会として当時、同社の執行役員の方が報告してくれた内容から紹介します。この講演では次の図のようなバーチャルタレントの活躍領域が示されていました。

        図1 バーチャルタレントの活躍領域

調査7 キズナアイ事業領域

(2019年10月 日本マーケティング学会講演より)

 バーチャルタレントの活動は、①インフルエンサー領域、②キャラクターIP(知的財産)領域、の2つに分かれています。インフルエンサー領域は、活動を展開する「場」であり、各種SNSでの発信やメディア(テレビや雑誌ほか)、広告、eSports、そして音楽の場が示されています。冒頭で挙げたライブは、音楽活動です。eスポーツは興味深い分野であり、キズナアイさんがどのように関わっていくのかに注目したいところです。

 一方のキャラクターIP(Intellectual Property:知的財産権)領域は、知的財産コンテンツとしてのビジネス活動です。バーチャルタレントのキャラクターとしての権利は現行の著作権法で直接保護されるものではなく、「キャラクター化の権利」として侵害された場合に不正競争防止法などで周辺的に保護されます。(記憶に新しい事例では任天堂が保有するスーパーマリオとそのゲーム「マリオカート」を模倣した小型自動車とドライバーの仮装が公道を走るビジネスの事例があり、不正競争行為として裁判で認められるまで時間がかかりました) このキャラクターコンテンツはキズナアイさんの大きなマネタイズ(収益化)の源泉であり、ゲーム、商品化、アニメーション、ライセンス付与などのビジネス分野が示されています。キズナアイさんのキャラクターは、「スーパーマリオ」「ポケモン」のように厳格な版権ビジネスと同じように括られると考えていましたが、彼女の公式サイトには非営利活動に対して二次利用を認める3次元キャラクターを無償公開しており、「初音ミク」のクリプトン社が開拓してきたインターネット時代のキャラクター権利の運用方法を踏襲するような動きも見られます。

(「初音ミク」の二次創作については以下の雑誌記事で少し紹介しました)

2.コミュニティと経済圏


 次に、バーチャルYouTuberのキーワードとして、「コミュニティと経済圏」が提案されています。

(1)シェアリングエコノミー

(2)巨大VRプラットフォーム

(3)ブロックチェーン技術の連携

シェアリングエコノミー:これはコミュニティの中で、個人のリソースを分散して共有、共用する経済活動です。民間住宅宿泊(民泊)サービス、マイカー配車サービス、個人駐車場サービス、など、インターネットとスマホの技術進歩により位置情報や決済サービスが普及することで私たちの生活に浸透しつつあります。それには分散する個人の需要と供給できるリソースをマッチングさせるプラットフォームが必要です。キズナアイさんが独自のプラットフォームを作り、どのようなサービスを提供していくのか、楽しみです。

巨大VRプラットフォーム:これはバーチャルタレントにとって生存領域です。上で見た「インフルエンサー領域」を拡大していく上で、YouTubeという巨大プラットフォームから離れ、これに依存しない新たなVR専用のプラットフォームを構築することは長期的にみて必要な取り組みでしょう。

ブロックチェーン技術の連携:一般社団法人日本ブロックチェーン協会によれば、ブロックチェーンとは「電子署名とハッシュポインタを使用し改竄検出が容易なデータ構造を持ち、且つ、当該データをネットワーク上に分散する多数のノードに保持させることで、高可用性及びデータ同一性等を実現する技術」と定義されています(同協会HPから)。始まりは、暗号通貨「ビットコイン」の取引データを管理する技術として開発、普及したものとされており、決済システムの一つです。革新的な点は、不特定で世界に分散する多数のユーザー間で独自の気密性の高い取引システムを構築できるところであり、シェアリングエコノミーにおける安全な決済手段としても期待できます。キズナアイさんがシェアリングエコノミーのビジネスに進出する際に、このブロックチェーン技術を活用することが考えられます。

 以上、キズナアイさんの今後の活動について、プロデュースする企業が提案する方向を取材と学会講演の内容から引用して紹介しました。この中で、すでに実現している取り組みもあれば、これから進出する可能性もある分野もあり、かつて彼女が「自分の存在理由を見つけたい」と言ったことが少しずつ具体化されています。

 最後に、今回の紹介が1年半前の当時所属していた企業からの発信内容であること、また筆者が多少蛇足を加えた点をお断りしたいと思います。







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