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【インタビュー】メキシコで自分のビジネスを。藤本裕二さんの「挑戦し続けた10年」

2021年3月、メキシコシティにお好み焼き専門店Buchidoがオープンした。オーナーの藤本さんは大手電気機器メーカー京セラで3年半働いたのち、28歳で単身メキシコへと渡り、10年かけて自ら道を切り拓いてきた異色の経歴の持ち主だ。無鉄砲に見えて、実は常に冷静に自分を見つめ、恐れず挑戦することで前へと進んできた藤本さんの、これまでの道のりを取材した。

お好み焼きがいつも身近にあった幼少期

生まれは広島県。お好み焼きは幼い頃から当たり前のように身近にある食べ物だったという。

「広島の人は週に1回はお好み焼きを食べます。家で焼いたり、店に食べに行ったり、届けてもらったり。僕も中学生や高校生の頃、部活帰りによく友達と食べに行ってました。」

数ある食べ物の中で、一番たくさん食べてきたのは、お好み焼き。家族や友人との思い出の中に一番よく出てくるのもお好み焼き。そんなふうに、ごくごく自然にお好み焼きに親しんで育った。

人生を変えるきっかけになった旅

高校卒業後は、京都の大学へと進学。そして大学3年の夏、その後の人生に大きな影響を与える旅をする。

「中米のグアテマラを旅行したんです。すごく面白い国だった。日本で見てきた世界とは何もかもが違う。でも、スペイン語が全くわからなかったんです。それまで英語さえ喋れれば何とかなる、と思ってたんですけど、そんなことはなくて。結局旅で出会った人たちが何を話しているのか全然分からなくて、それが心残りだった。」

中南米をもっと知りたい。でもそれらの国が経済発展して街中みんなが英語を話せるようになるには、まだ何十年もかかる。それを待つよりも、自分がスペイン語を話せるようになった方が早い。そう考えた藤本さんは、帰国後すぐに言語系学部に所属していた大学の友人に頼み、スペイン語の授業を聴講し始めた。卒業まで1年半、週3回の聴講を続けた。

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大学卒業前にペルー、ボリビア、チリを2か月かけて旅行した。写真はボリビアのウユニ湖にて。(写真提供:藤本裕二)

大企業への就職と抱き続けた夢

大学を卒業した藤本さんは、大手電気機器メーカーの京セラに就職する。初任地は京都、営業の仕事だった。

「半導体部品事業部という部門に配属されました。京セラでは、入社歴の浅い社員にも重要な仕事を担当させる社風があります。もちろんプレッシャーもありますが、社内外との交渉を一貫してやることで、誰といつどんな交渉をすれば目標まで到達できるか、俯瞰で見て論理的に考える習慣が身につきました。

仕事はやりがいがあった。けれど一方で、別の夢も抱き続けていた。

もう一度、スペイン語の勉強がしたい。今度は座ってする勉強ではなくて、生きたスペイン語を身につけたい。そしていつか、それを活かせるビジネスを自分でやりたい。そう思いながら、3年半働いた。

転機が訪れたのは、京都から東京への転勤辞令が出た2010年だ。海外での挑戦するなら、守るべき家庭のない今がいい。藤本さんは東京への転勤から半年後に京セラを退職し、夢への第一歩を踏み出した。

メキシコでの武者修行

数あるスペイン語圏の国の中から、挑戦の舞台に選んだのはメキシコだった。

「カリキュラムの整ったスペイン語学校があって、半年分の生活費と学費を貯金で賄える物価の国。社会人経験が浅くても就ける仕事がある国。その軸で考えて、一番良いと思ったのがメキシコでした。」

2011年8月、当時28歳だった藤本さんは単身メキシコへと渡った。最初の半年は、ラテンアメリカ最大規模の大学であるメキシコ国立自治大学(UNAM)の付属語学学校に通い、スペイン語の習得に励んだ。

さらに翌2012年、「生きたスペイン語を身に付けて、自分でビジネスをする」という目標に近づくため、就職活動を始めた。そのやり方が、実に藤本さんらしい。メキシコシティの宿泊施設を飛び込みで訪れ、その場で自己PRをしたのだ。結果、ユースホステルHostel Suites DFでフロント担当としての仕事を得る。

「ホステルではフロントを1年、マネージャーを4年やりました。マネージャー業には、京セラで培った”俯瞰で見る力”が活かされました。部下が10数名いて、若いメンバーを育成したり、意見を取り纏めて上に伝えたり。会計や外部業者との交渉、お客様のリピート率を上げる取り組み、なんでもやっていましたから。ここで働いた5年間で、生きたスペイン語が自分のものになった。そして同時に、この国でビジネスをやるための基盤ができたんです。

働き始めた当初は従業員への給与もままならないほどの売り上げしかなかったホステルは、藤本さんがマネージャーになり、従業員一丸となって顧客満足度を上げようと取り組んだ結果、1年後にはメキシコシティ内で1,2位を争う人気ホステルへと成長していた。

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ユースホステルHostel Suites DFの仲間と。(写真提供:藤本裕二)

「自分のビジネス」への道を切り拓く

一方藤本さんは、ホステルでの仕事を続けながら、夢だった「自分のビジネス」に繋がる糸口を見つけ出す。

「2012年頃に、ホンダとマツダがメキシコへ工場を建てる、という話が出てきたんです。もちろん彼らのサプライヤーも一緒に進出してくる。当時メキシコ人と一緒に働いていた僕はその話を聞いて、日本からいきなりこっちへ来ても人材面で上手くいかないだろう、と感じました。その一方で、語学学校時代、メキシコで働きたいと望む優秀な日本人留学生をたくさん見てきた。需要と供給はマッチしているのに、彼らを繋ぐ存在がいなかった。だから、自分がそれをやればいいんじゃないか、と思ったんです。

この考えを確信に変えるため、日系企業向けのセミナーへと飛び込みでヒアリングに行った。ずらりと座ったホンダをはじめとする大手日系企業の幹部相手に、片っ端から自分の考えをプレゼンした。

当時を振り返り、「何も掴まずに帰る気は1ミリもなかった」と話す通り、名だたる企業の副社長や役職者に、セミナーが始まるギリギリの時間まで熱弁をふるい、結果10社中6,7社から興味を示してもらえた。

こうして2014年に、日系企業への人材紹介会社Isla Santuarioをスタートさせ、その3年後ホステルでの仕事を辞めた。

もう一つのビジネス、お好み焼き屋への想い

そして2020年1月、藤本さんはもう一つの新たなビジネス実現へと動き出す。

「人材紹介会社が軌道に乗って、このままこれだけを続けたいか、と考えた時、僕はもっと挑戦をしたいと思ったんです。

新たな挑戦の背景には家族の存在もあった。2017年にメキシコ出身のカロリーナさんと結婚し、息子さんが生まれていた。

「日本人とメキシコ人を親に持って生まれて、息子はこれから嫌な思いをすることもあると思うんです。そんなとき、メキシコで働く僕の姿を見て、自分の人生を自由に選択してほしい。だから、息子にも理解しやすい"お店”をやりたかったんです。」

店をやるなら、自分に出来るのはお好み焼きだ、と思った。そこで、日本の知人を頼り、ビジネスパートナーとして働ける料理人を見つけ出した。

「ラーメンが浸透したおかげで、箸を使えるメキシコの若者は多い。タコスという屋台文化もある。ここには、お好み焼きが根付くための土壌がすでに整っているんです。あとは、本物の味を作るだけ。

幼い頃からお好み焼きに親しんできた。メキシコから日本へと足を運び、直接試食をした藤本さんは、その舌で「これなら自信を持って本物だと言える」と確信し、いよいよ本格的に店舗オープンへと動き出した。

「全部がいまに活きている。」

店舗を決め、調理器具を揃え、スタッフを採用し、育成する。海外でゼロからビジネスを始めるには、想像するよりずっと様々な障壁を乗り越えなくてはならない。

「メキシコに初めて来たのが2011年の8月。それから10年の間に色んなことを経験してきました。その全部が自分の糧となっていまに活きてます。」と藤本さんは語る。

スタッフの育成にも、確固とした考えがある。「料理長がスタッフに調理を教えます。僕は教わらない。スタッフが1人で出来るようになったら、今度は彼から僕が教わるんです。彼らのモチベーションをどうやって上げるか、僕がいなくてもちゃんと出来るようにどう育てるか、今までのすべての仕事から学びました。」

そのために1ヶ月で50枚近くのお好み焼きを試食した。さすがにもう嫌ってなりかけましたけどね、と当時を振り返って笑う。

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お好み焼き屋Buchidoのお好み焼き。ふわふわの生地と香ばしいソースの組み合わせは1度食べたらやみつきになる。

次の夢は、出張お好み焼きショー

これからやりたいことはなんですか?と藤本さんに尋ねると、表情がより一段と輝いた。

「まずはコロナが収束したら、出張サービスをやりたいと思っています。人材紹介の仕事を通じて、日系メーカーには人脈があります。メーカーの工場には数千人ものメキシコ人スタッフがいて、期末毎にいわゆる”お疲れ様会”が開かれるんです。そこに駆けつけて、みんなの前で鉄板で焼く”お好み焼きショー”をやったら、絶対に盛り上がる。店の知名度も上がって、工場のスタッフたちのモチベーションも上がります。実現させるのが楽しみです。」

自分に足りないものをしっかりと見つめ、恐れず挑戦することで前へ前へと突き進んできた、藤本さん。

28歳で1人日本を飛び出し、メキシコで挑戦し続けた10年は、彼にゆるぎない自信と、大切な家族、そして新たな夢を与えてくれた。

そんな藤本さんのこの先の10年からも、目が離せない。

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カロリーナさん、息子さんと。(写真提供:藤本裕二)

【お好み焼き屋 Buchido】

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電話番号+52-55-2127-8852(日、英、スペイン語可)

【人材紹介 Isla Santuario】 

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お問い合わせはyuji_no23@hotmail.com             

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