マガジンのカバー画像

いくつかのショートストーリー

11
さらりと読めるお話です。 超短編小説/ショートストーリー/ショートショート
運営しているクリエイター

#ショートストーリー

メタフィクションのふたり

 ある診察室にて。
 「どうぞ」
 医師の合図のあとに一人の男が入室する。
 「失礼します」

 医師、男が座るやいなや言葉を投げかける。
 「灰色の猫」
 男は何のことだか分からずキョトンとする。
 数秒の沈黙が続いた。医師はなぜか心が放り出されたような、虚しい表情を浮かべていた。
 医師は気を取り直して男に訊く。
 「本日どうされました?」
 「えーっと、ずっと誰かから見られているような気がす

もっとみる

あったら読みたい架空の本5選

かの名著から、あの随筆まで!
タイトルとあらすじを紹介します。

 反反捕鯨団体 伝統的な捕鯨を守る日本の漁師達。
 そんな日本の捕鯨に反対する「反捕鯨団体」と、更にそれに反対する「反反捕鯨団体」が繰り広げる政治心理戦。
 そんな中、突如台頭した過激派「反反反捕鯨団体」の活動を阻止するべく立ち上がった「反反捕鯨団体」と「反反反反捕鯨団体」の活動をシリアスに描く社会派ドキュメント。
 ちなみに「捕鯨

もっとみる

ネタバレ!ダメゼッタイ

「あの……ですから…そろそろ僕は帰りますので、本を返していただけますか…?」

 僕は尋ねた。はにかんで手を差し出してみるも、寡黙な男は嫌そうに眉を顰めた。胡座をかきながら読書する姿勢には、数ミリも動かないと言わんばかりの気魄がある。寡黙な男の足元に置かれたもう一冊の本はもう既に読み終えた物のようだ。

 なかなか返事がないことに少々苛ついた僕は、男に近寄ってどこまで読み終えているか聞いた。
「日

もっとみる

全自動統治

「国民総不労。
国民は不労を憲法で保証されています。
"向こう側"では未だに市民が働いていますが、この国では多くの作業は人工知能を持った機械に任せています。
こう言うと、人間の手が必要な整備などの仕事は誰がしているのかと疑問に思うでしょうが、そういった労働に当たる行為は受刑者の懲役になります。
新しい設備の開発や製造も機械自身が自立してやっていますからね。

いやはや、"向こう側"は遅れていますよ

もっとみる

快晴日和

––––飛んでいた感覚が急になくなった。墜落したのだと思うが、まだ意識はある。
 状況を確認しようと周りをよく見ると、太いパイプのような通路の上に私の体は乗っていた。墜落した瞬間は、その衝撃で全体が大きくうねって揺れた。動こうとしても、どういうわけかパイプに強い力で引き寄せられていて、体がうまく動かない。

 パイプのような通路は複数あり、私は数本のパイプにまたがって乗っている。目が悪いため全体の

もっとみる