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Vol.16「大人は作り込んだ方が面白いと思うかもしれないけど、こどもはそうとは限らない」ムービー制作裏話

画面に直接書き込むことができる仕組み「メモれるムービー」を通じて、不思議に感じたことや見つけたこと、考えたことを発信することができる「キヅキランド」には、10本以上のムービーが用意されています。それぞれ見たことあるような風景だったり、知っている現象だったりしますが、なんだか見ているといつもと違うような、発見ができそうなラインナップです。
今回は、これらのムービー制作を担当するおふたりにお話をうかがってきました。キヅキセンパイとしても登場している映像作家でグラフィックデザイナーの石川将也さんと、キヅキランド全体の企画制作にも携わっているプロデューサーの永倉政信さんです。

何も誘導しなくてもこどもたちが能動的に視聴できるのは「メモれるムービー」だからこそ

——キヅキランドの各種ムービーはお二人が中心になって制作しているんですよね。

石川:そうですね。でももともと僕も永倉さんもプロジェクトの全体に携わっていて、その中で映像もやっているというところです。

——今回は、そのムービーの内容についてお話を伺おうと思っているのですが、キヅキランドのムービーは、どういう狙いや視点で作られているのですか?

石川:キヅキランドのムービーの作り方には2軸あるんです。まずは、一般的な科学動画。「伝えたいことが決まっていてそれに気づかせる」ように作っているものです。キヅキランドでは「クリームソーダ|成功と失敗」がそれですよね。ふたつを比較して違いを見つけてもらおうというもの。

クリームソーダ|成功と失敗

——これはワークショップでも取り上げたりしてますし、書きこみも多いムービーです。比べるという「見方」を提示してあげているから、キヅキを見つけやすいんですよね。

永倉:そうですね。まだキヅキの見つけ方がよくわからないという人や、初めてキヅキランドをやる人にまずこれをやってもらえるといいな、という「入口」みたいなムービーですね。

石川:そして、もうひとつが現象をそのまま見せるもの。たとえば町を人が行き交う風景や、プールに人が飛び込む様子など。こちらから「これを見つけてほしい」という誘導はあまり意識しないで、現象をなるべくそのまま見せるように作っているムービーです。

——先日のワークショップではプールに人が飛び込む様子を水中から捉えた「プールの底から」がかなり盛り上がりました。大人としては「一体ここにどんなことを見つければいいの……?」と若干の戸惑いがありましたが、こどもたちからは本当にいろいろなキヅキが書きこまれて、驚きました。

「プールの底そこから」に書き込まれたこどもたちのキヅキ

石川:動画の画面に直接書きこむという仕組みがあるからこそ、こういう何も誘導のない映像でもこどもたちが能動的に視聴できて、キヅキを見つけられるんだと思います。だから、現象をそのまま見せるようなムービーがキヅキランドの動画の理想形なのかなと思いますね。

——そういった作り方の2軸とは別に、映像のジャンルとしてはどういうものがありますか?

永倉:「とても広いシーンを見せて画面のあちこちでいろいろなことが起きているのを観察できるもの」「さまざまな角度から観察できるもの」「比較して観察できるもの」それから「早送りにしたりスローモーションにしたり時間の流れを変えて観察できるもの」といったジャンルがあります。1本のムービーでも「広く見せて」「早送り」とかジャンルを組み合わせているものもあります。

——ムービーには、撮り下ろしたものもストックムービー(素材動画)を組み合わせて構成しているものもありますが、そのどちらもキヅキランドらしい仕上がりになっているように思います。ムービーを作る際に気をつけていることはなんですか?

石川:どちらも編集する際にこだわっているのは「時間をどう動かすか」ということです。なにか「発見したくなるスピード」ってあると思うんですよね。だから、そのままのスピードのものもありますが、ゆっくりにしたり早回しにしたり、それぞれの映像が一番「発見したくなるスピード」になるようにしています。

——音についてはいかがですか? どの映像にもオリジナルの音楽が付けられていますよね。

石川:ウェブサイトのいろいろなサウンドといっしょに音楽家のイトケンさん*に作ってもらった曲が4曲あって、編集しながら映像のテンポや雰囲気に合うものをつけています。音楽はムービーの中に入り込む、興味をひく、きっかけのようなものだと思っています。

——映像の内容や狙いについては、企画をしている段階で、みんなで「どういう動画でどういう発見をしてもらいたいか」というアイデアを出し合いました。

永倉:はい、あのアイデアを種として、具体的にどんな映像にするかということを検討しています。あとは、ベータ版*の時のワークショップでのこどもたちの反応なんかも考慮していますね。

——書きこみなど、こどもたちの反応を見ていかがですか? 期待通りだったもの、意外と人気だったもの……など。

石川:思った以上にマヌルネコのムービーが人気ですよね。やっぱり猫にはかなわないんだなと思いました(笑)。

マヌルネコこっちくる[提供元:那須どうぶつ王国

永倉:いやー、かなわないですね(笑)。あと、「とある花壇」も地味めの花壇の様子で何も動かないし、何かを見つけるのは難しいだろうな……と思っていたら、案外いろいろなキヅキが書きこまれているのでびっくりしました。

「とある花壇」に書き込まれたこどものキヅキ。
葉の表面につぶつぶがあるのを発見している。

石川:もっと虫とかいる花壇の方がよかったかな……と僕も思ってたんですけどね。大人は作り込んだものの方が「面白い」と思うのかもしれないけど、こどもはそうとは限らないんですよね。テレビ番組や商業的な映像と違って、キヅキランドのムービーは何気なさというか、ある雑さがあったほうがいい。そのほうが、それぞれの見方でそれぞれの不思議を見つけられるんだと思うんです。

——今後はそういうムービーが増えてくるんでしょうか?

永倉:そうですね。たとえば、鉄棒の逆上がりの動画を検討しているんですけど、これは元々は「クリームソーダ|成功と失敗」の第二弾として、逆上がりの成功と失敗を比較して見せようかと考えていたんです。

石川:でもなんか、キヅキランドでのこどもたちのムービーへの反応を見ていて、さっき言ったような狙いすぎないほうがいいのかもという考えに至って、あんまり「キヅキを誘導する」ような作りにしなくてもいいのかもな、と思っているところです。

——単にいろんなひとが逆上がりをする様子を集めた動画とか。

永倉:そうそう。それくらいの内容で。

石川:それを見て、自由にいろんなことを見つけてくれたらいいのかもしれないですね。

Illustration: Haruka Aramaki


*イトケンさん:音楽家。イトケンwith SPEAKERSなどの自身のバンドを率いる他、様々なユニットにサポート、メンバーとして参加。その他に玩具、電子楽器を用いたソロ活動も展開。NHK Eテレ「いないいないばぁ」への楽曲提供、ゲーム音楽、CM音楽、webアニメーション用の音楽などの制作も行っている。http://www.itoken-web.com/

*ベータ版:昨年ワークショップ用に公開したベータ版キヅキランド。メモれるムービーをさまざまなこどもたちに体験してもらったフィードバックは、この春オープンしたキヅキランドの映像や設計に反映されている。


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