見出し画像

グローバル化で日本的経営が廃れる中、労働者保護・権利は守られていくのか否か

数多ある労働裁判・事件。最高裁判例で有名なものはそれこそ数多あるのだが、「日立製作所武蔵工場事件」を知っているだろうか?
日立武蔵工場に勤務していた田中(原告)さんが残業命令を受けそれを拒否して懲戒解雇され解雇無効を訴えた事件である。懲戒解雇に至る前に何度か懲戒処分を受けていたとの会社側(被告)主張もありここら辺は原告との主張が食い違ったりするので触れてしまうと長くなるのでここでは触れない。最高裁は三六協定が締結されていることを根拠に会社側の主張を認め原告側の訴えを退けた。
なおこの判決が出されたとき日立労組、その上部組織の電機連合(当時は電機労連だったか?)は妥当な判決と声明を出し、連合は確か懸念を表明していたと思うが極めて冷淡な態度であったはず。なぜなら田中さんは共産党系の活動家であったからだ(共産党と連合の対立については色々話がありすぎるのでここでは触れない。ちなみに今回の拙文では「( )」に「触れない」といった鍵括弧記号と語彙というか文字がこれからも沢山出てきます)。

その後の田中さんだが粘り強く戦い続けたのであろう、最高裁判決が確定していたにも関わらず2000年に日立側が責任を認め和解することになる。確か1億3000万円の和解金が田中さんに支払われたはず。
ちなみに最高裁判決が出た時、各マスコミは大々的に取り上げ社説で取り上げた新聞社もあったのにこの和解の結末を報じたマスコミは私の知る限り月刊誌の『財界展望』(現ZAITEN)だけであった。当時まだ家電を手掛けていた日立に主要マスコミはスポンサーに忖度していたのであろう。
その『財界展望』にて和解の背景が報じられていた。内容的にはバブル経済崩壊による日本市場の縮小、それに伴う日立の海外進出・海外からの資金調達・外国人株主といったグローバル化があった。特に欧州での事業や資金調達の際、上記の事件が問題とされた。たかが残業拒否で解雇するなど欧米では考えられないことであり深刻な人権侵害でもあるからだ。
そしてさらに言うなら欧米の株式市場におけるカトリックをはじめとするキリスト教界隈、労働者の公的年金の資金も重要な問題。彼らは資金運用の投資先に厳格な人権意識・コンプライアンスを求める。
日立と田中さんの和解以降、大手重工メーカー、電力などで共産党員従業員に対する差別的待遇を巡っての問題が企業側が責任を認める形で和解が成立していく。

共産党ではないがJRにおいては国労との和解も特筆されるべき事項であろう。これも上場したJR三社(東日本・東海・西日本)に外国人・外国投資機関が大株主としてその存在感が出てきたことと無縁ではなかった(この話はすごく厄介で団塊世代の大量退職問題やJR総連との絡みもある。これも触れると話は長くなる。JRの労使・労労問題は投資においても重要なので後日記事にしたいと思う)。

以上の出来事にSDGsやコンプライアンスやダイバシティに働き方改革。そして否応なしにグローバル化が進む以上、少なくとも上場企業に関して特に現場系の仕事(ただし日本の場合現場と事務の仕事の境目があいまいであったりするのだが)で労働者の権利は守られていく傾向にあると考える。というか日本企業の場合、上場企業ですら労働基本法・労働安全衛生法が往々にして守られていなかった。人が働くうえで当たり前のことを定義づけた法律すら守ってこなかったがゆえに「働き方改革」などでてんてこ舞いしている様は欧米からみれば滑稽に映るだろう。

問題は未上場や中小零細企業。なにしろ日本で働く労働者の大半の人々がそこに属して生活の糧を得ている。ワンマン経営の中小企業で働いた経験でいうと労働組合(それにかわる社員会等)があっても会長・社長におべっかを使い、ひどい時には経営者側の親衛隊として社内の不満分子を摘発してゆく。
私も含めここで働く労働者にとって労働者保護・権利などはまだまだ時間がかかると考える。

最後に労働者保護・権利の最たるもの解雇の問題であるが、グローバル化でアメリカ様の手先自民党政権がこれから続いても判例等の解雇要件は維持されると考える。ただし注意しなければいけないのは経営不振で民事再生を申請しての労働者の解雇(JALの判決)や、新会社移行に伴う労働者の解雇(国鉄→JRへの移行過程)は出てくるであろう。あとは解雇にしたい労働者へ実質辞めさせるべき状況をつくるなど過去も現在も日本の経営者は手練手管駆使して実質的な首切りをやってきた経緯がある。

解雇・退職にまつわる某外資系メーカーの余談を1つ。
高度成長期に集団就職で入社した中卒・高卒の労働者が工場現場に20人ほどいた。勤続年数は皆30年以上を超えていた。汎用旋盤をはじめとする機械加工の腕のいい職人、工場内のあらゆる仕事に精通していた人達。しかし悲しいかな海外とのコスト競争で日本の工場を縮小する時代がやってきた。中高年層、特に現場の労働者の扱いが問題になったがその外資系メーカーは日本的慣行を守り労働者たちを整理解雇しなかった。労働組合との合意の上、会社内グループ内での異動・出向で雇用を維持しようとしてくれた。
30年以上旋盤をはじめとする機械加工に従事していた人には中国現地法人工場、検査係の人は海外営業担当、設計の人はドイツ法人その他etc...。
国内営業に異動した2人と海外メンテナンス部門に異動した1人を除いて割増退職金をもらって皆希望退職してしまった。
日本の解雇要件は厳しいと言われているがそのやり方に感心すらおぼえたつい十数年前の出来事。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?