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Web3が労務管理に与える影響を、社労士として考えてみた

社会保険労務士の荻生です。

先日、こちらのイベントに、足を運んでおりました。

熊本でこのような動きが起こっていることを、興味深く聞いておりました。

このWeb3というもの、進んでいけば、労務管理にいくらかの影響はあるでしょう。どう向き合うかを、思考実験として考えてみました。

なお、Web3の定義については、ここでは取り上げません。専門家に譲ります。

Web3は概念。それ自体に良いも悪いも無い

前提として、このWeb3をどう考えるか。

Web3は、火のようなものと思っています。あくまでツールであり概念。
使い方によって、便利にも危険なものにもなります。それ自体には、良いも悪いも無いです。火事を起こすのは、人の不注意または悪意。

というわけで、過度の期待も恐れも、持たないようにしています。
Web3の使い道が、人の生活を良くするものであれば採り入れていくし、取扱に注意を要する面があれば、リスクを減らす対策を入ていく。

ただ、コントロールの勘どころは、できるだけ早く見つけたいですね。

この言葉が出たら、労務管理者としては身構える

Web3を特色づけるものとして、3つの要素を挙げておきます。
概念とツールが混在してますが、あくまで私見に基づく分類として、代表的なものをそのまま挙げることにします。

それぞれの細かい定義、解説は他に譲ります。
要素は他にもあるはずですが、ひとまず本稿に関連するものに絞ります。

・Trustless
・NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)
・DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)

私の場合、クライアントからこれらの言葉や興味関心が出たところで、頭のスイッチを切り替えてます。

なぜか。
Web3は、働き方の自由度が高くなることが見込まれますが、「自由度の高い働き方」を実現するための労務管理の手法は、高い技術を要します。
事前準備も必要になりますので、このキーワードが出たところで、スイッチを切り替えるわけです。

ビジネスにおいては、NFTを活用した価値提供がメイン

「熊本とWeb3」では、Web3の実践的活動例が示されました。
大まかにまとめると、NFTの技術を応用した、地域の問題解決型ビジネスモデルであったとみています。

ただ、他の地域では、アートやエンターテインメント領域での実践があるようです。熊本では、この分野はまだまだこれからみたいですね。

アート・エンターテインメントでのWeb3の実践は、NHKラーニング「令和ネット論」で紹介されています。

NFTは、単純に言えば「それが唯一のもの」というデジタルの証明書。
「複製・改ざんが不可能で、取引が可能な証明書」を、デジタルデータに付与するものです。データの価値を保ったまま、取引ができるようになる。

デジタルデータそれ自体に、価値を付与できる基幹技術は、なるほど便利だと思いました。

Web3時代の労務管理とは

申し遅れました。
私は社会保険労務士(社労士)として、企業の労務管理、人事制度などについての伴走型支援を、行っています。

Web3の構成員は、その成り立ち上、インターネットで非中央集権的につながっています。必然的に、勤務・あるいは活動の場所、時間の自由度が高くなります。

労務管理においては、この自由度をいかに活かすか、少なくとも損なわせないかが重要と考えています。

例えば、勤務時間や勤務地の自由度、フレキシビリティ(柔軟さ・変化のしやすさ)をいかに確保するか。
具体的には、コアタイムの無いフレックスタイム制が、まず挙がってきます。業務内容と責任の度合いによっては、裁量労働制も視野に入ってくるかもしれません。
あるいは、そもそも非雇用型になってくるか。雇用型と非雇用型のハイブリッドになるかもしれません。
妊娠・出産や育児、介護など、人生のステージに合わせた変化に対応できることは、必須でしょう。

テレワークや在宅勤務を、制度上確保することも、必須になるでしょう。

こうなると、労働時間の管理も人事評価も、今までのものとは根本的に変わるでしょう。会社の人事部門はもちろん、社労士にとっても、かなりの技術を要するものです。
(一般的に、従業員にとっての自由度が高まるほど、労務管理の難度は急激に上がります)

Web3における就業規則とは

非中央主権型のWeb3においては、「社長の考えに従わせる」「ルールで縛る」ような就業規則は、社員の支持を得られなくなるかもしれません。

となると、就業規則をはじめワークルールの作り方が、180度ひっくり返ります。

社長の上意下達でなく、ルールの作成段階から従業員が関わり、会社と従業員が協力してワークルールを組み立てていく。

これは会社と従業員だけではなかなか難しく、ファシリテーターが求められます。このファシリテーターとして、社労士が求められるかもしれません。

会社が決める就業規則から、従業員参加型就業規則への転換は、拙著で「就業規則の3段階」として解説しております。より詳しく知りたいときは、ご参照ください。


Web3における人事制度とは

Web3においては、少なくとも、これまでよく行われた「かけた時間の長さで」貢献度を評価するやり方は、通用しなくなります。そうなると、結果や成果物で評価することになりますが、これは非常に難しい人事評価です。私たち社労士でも、常に試行錯誤を繰り返しています。

そして、技術者と営業・管理部門の両方を、適正に評価できる人事制度も求められます。よくあるパターンとして、現場での経験を積んだ人が、課長・部長など管理部門の役職を務めることが、行われています。

これだと、技術者を続ける人は会社の主流を外れてしまい、適切に評価されない懸念があります。

Web3においては、最先端の技術を追求し続ける技術部門と、その技術を市場に提示する営業部門、そして管理を担う管理部門とを、対等に・適切に評価できる人事制度が、求められるでしょう。

まとめ:Web3への、現時点での向き合い方

Web3が労務管理に、具体的にどう影響してくるかは、実際にその会社に・案件に接してみないと、わからないことが、多々あります。
ただ少なくとも、その事業の良さを損なわず、かつ人々の生活を良くする方向に、関わっていきたいと思っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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