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恋愛することは素敵であるという広告による刷り込み(恋愛・インダストリアル・コンプレックス)|デミロマンティックの私に見える世界

TwitterやYouTubeを見ていると、脱毛マッチングアプリのCMにかなり頻繁に遭遇する。Twitterはある程度読み飛ばせるし、ひたすら「広告内容に興味がない」を選択したり広告配信元のアカウントをブロックしたりすることで、だんだん目にする機会が減ってきた。でもYouTubeは問答無用で一定の秒数目に入ってしまう。しかも音声付きで。

「脱毛」の話題に対する嫌悪感

広告に限らず、脱毛に関する話題には昔から漠然とした嫌悪感があった。

高校の修学旅行の大部屋で、「1組の〇〇ちゃんは色白で目立っちゃうから脱毛サロン行ってるらしいよ」という女子トークが繰り広げられていて、なんでそんな話するんだよ、と思った。

大学のとき、先輩カップルの彼女が「この間脱毛サロンに行ったときに〜」と普通に彼氏に話していて、そんな話していいの?と驚いたこともあった。

なんで脱毛の話に嫌悪感があるのか自分でもわからなかったけど、みんなはっきり言わないだけで、裸になったときのために処理しているのだと考えると気持ちが悪かった。女性は脱毛処理して当然みたいな押し付けも不快だった。もちろん、自分をきれいに見せるため、衛生面のためなど、脱毛にはいろいろなメリットがあるのは知っているが、私の頭の中では、自動的に下ネタのジャンルに振り分けられていた。

恐怖マーケティング・コンプレックス広告の闇

テレビCMは多少オブラートに包んだ表現をしているけれど、YouTubeなどでは、ムダ毛の処理をしていなかったから彼氏に嫌われただのというエピソードを漫画形式で見せられたりする。

広告を見る度に、今後恋愛をする上で脱毛をしていないと幻滅されてしまう可能性があるのかと思うと自分に自信がなくなった。自分がただのヘテロセクシュアルだと思い込んでいた頃は、自分がそもそもそういうシチュエーションを経験していないことに劣等感を覚えたし、脱毛していないせいで“モテない”のだろうかとか、脱毛しないと恋愛する資格がないのかなとさえ思った。

何より、「脱毛をしていない=経験がない」という方程式が成立してしまいそうで、脱毛していないという事実が意味を帯びるようになるとますます嫌悪感が増した。

自分がデミロマンティック/デミセクシュアルを自認するようになって、自分はモテないという以前に、無意識のうちに恋愛を避けていたなと客観視できるようになった。この手の広告は、「恐怖マーケティング」「コンプレックス広告」といった手法であることも知って、広告に感情移入することも少なくなった(恋愛する可能性がゼロではないので、完全に無視し難いのが辛いところ)。

※デミロマンティック/デミセクシュアル:感情的なつながり(信頼関係)のある人にのみ惹かれる恋愛・性的指向(自分は、時間をかけて相手のことを深く知ってからでないと人を好きになることはありません)。

蔓延する「恋愛するべき」というメッセージ

今やコンプレックス広告の問題点を言及する人は多いし、不快感を抱いている人も多いと思う。でもそれだけではなく、セクシュアリティの多様性を無視したり、「であるべき」を世間に撒き散らしているという問題も忘れてはならない。「脱毛をしない」ことが悪というだけでなく、「男性にモテない女性」も悪として表現されてしまっている。恋愛を意識ながら生きることを強要されている窮屈さを感じる。

毎日こういった広告に晒されながら自分の精神衛生を保つには、相当な自己肯定感と確固たるセクシュアルアイデンティティが必要だと思う。この記事を読んでいる方に伝えたい。あなたが広告に傷つくのは当然で、それはあなたのせいでは決してありません。

マッチングアプリ・出会い系アプリの広告も、悪質な内容ではないものの、ここまで頻繁に広告を打たれてしまっては、セクシュアルマイノリティから見れば、「男女カップル=幸せ」という価値観を押し付けられているようにしか感じられない。車の広告を見ても、「車を持つべき」という価値観を押し付けられているとは思わないけれど。車とは違って、「人類は皆、恋愛をする」という固定概念が広告の背景に感じられるからだと思う。

もし、脱毛やマッチングアプリ広告による恋愛至上主義の押し付けにかなりストレスを感じるようであれば、自分のセクシュアリティを見直してみるのも良い機会だと思う。アセクシュアルやデミロマンティックなどに該当するとわかれば、少しだけプレッシャーから解放されるかもしれない。

広告はあくまで商品を売る手段であって、広告で描かれる人物像が決して理想の姿ではないので、程よく距離を置いて生きていきましょう。

※『恋愛・インダストリアル・コンプレックス』というフレーズは小沢健二さんからの引用↓
※YouTubeの広告は「広告設定」によってある程度ジャンルをカスタマイズできるらしい。性別を設定せず、美容などのチェックを外せば脱毛の広告は出てこなくなるのだろうか?只今実験中なので、何か分かれば追記します。


恋愛しない人が浮かない世の中に変える活動をするために使います。エッセイ以外にも小説を書いたり、歌も作っています。