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「キャリアと家庭」問題~ゴールディン教授の著書を読んで

2023年ノーベル経済学賞を受賞したゴールディン教授の著書「なぜ男女の賃金に格差があるのか」を、この年末年始でやっと読めました。原題に「Career and Family:Women’s Century-Long Journey toward Equity」とあるように、過去100年分のデータをもとに、働き続けたい女性が「キャリア」と「家庭」をどう選択、または両立させてきたのかをひも解いています。本書の内容については、大阪大学・安田教授の書評をぜひお読みください。

また、本書でいうところの第3グループ、50~60年代アメリカのキャリア女性の生活については、ルース・ギンズバーグ元最高裁判事を主人公にした映画「ビリーブ 未来への大逆転」でよく描かれていますので、イメージするのにこちらもおススメです。

思い返せば、キャリアと家庭に「折り合い」をつけてきた

さて、このテーマ、企業で長く働き、「キャリア」と「家庭」に折り合いをつけながらやってきた身としては、ずっとつきまとってきた問題であり、関心が高い課題です。今、いわゆる管理職についていることを鑑みると、結果的にうまくやってきたと言えるかもしれませんが、思い返せば、10年前くらいだとまだ、”キャリアも家庭も、というのは欲張りである”と、同じ女性からの厳しい視線を感じることがありました。そして何より、自分自身が、仕事も家庭も中途半端な状態にあるのではないかと、不安に感じることが多かったです。

当時は、専業主婦を経て40歳になってから国連に入った緒方貞子さんや、”女性のキャリアは、はしごではなくジャングルジムだ”というシェリル・サンドバーグさんの生き方や考え方に勇気をもらい、こうあるべきと画一的に考えなくていいんだな、と自分自身に言い聞かせたものです。

「あなたのせいではない、システムのせいである」

ざっくり言うと、本書を通してゴールディン教授は、女性側が働き方を調整することを選択してしまうのは、労働社会の仕組みやカルチャー、仕事の構造の方に問題があると一蹴してくれています。出産だけはどうしても女性性でなければできないものですが、それが「チャイルド・ペナルティ」、つまり、出産がキャリアの中断や労働時間の短縮、所得格差といったペナルティとして後年に渡り影響を及ぼしていると、データから証明し、“女性が悪いのではなく、システムが悪いのだ“というメッセージを出してくれています。

このメッセージは、決して驚くような内容ではなく、どちらかというと「やっぱりそうだよね」と、肌感覚として分かっていたことが改めて出された感じがして、ホッとしたような気持ちになりました。

そして、カギは「時間のコントロール」であると書かれています。使える時間に限りがある中で、仕事の時間と家族の時間をどう配分するか、誰と分担するか、常に悩ましい問題ですが、これを女性や家庭だけの問題ではなく、社会システムとして変えていくことの必要性が提言されています。

コロナ禍を経て変わる労働環境

このコロナ禍を経て、リモートワークが随分と浸透しました。従業員を転勤させるのに金銭的なインセンティブをつける会社もでてきています。また、子育て世代が入れ替わり、男性の育児休職も増えてきました。さらに、日本でもジョブ型の人材マネジメントへ移行が進み、これからは、そもそも企業に雇用されない労働人口も増えそうです。

これらの変化は、男女の格差にどう影響するでしょうか。ゴールディン教授は、リモートワークの長期的な影響はまだ分からないとしています。私は、「時間のコントロール」については、ポジティブに作用することが多いのではと見ています。リモートワークで家にいる時間が増えたことにより、実感として、かなり時間の融通をつけやすくなったというのがありますが、同時に男性の家庭参加も後押ししたのではないかと思います。また、いわゆる職場の”飲みにケーション”が減り、オールドボーイズ文化がやや劣勢になっていることも良い傾向です。このまま撲滅されてほしい、笑。

そして、ジョブ型については、より専門性が明確になり、ポジションごとの役割が明文化されてくることで、本書にあった薬剤師の例のように、難易度が高い業務においても代替可能な体制を組むことができるかもしれません(専門性と属人性は異なることはよく理解しないといけませんが)。企業に属さない働き方は、言うまでもなく、働き方の裁量が自分にありますよね。

新しい課題になるかも?男性に対するアンコンシャス・バイアス

このように考えていくと、結構、未来は明るいのではないかと思っちゃいますが、障壁として新たに意識しないといけなくなるのは、男性に対するアンコンシャス・バイアスかもしれません。子供がいる男性(という表現がおかしく感じてしまう)が家庭での役割を多く持つようになると、そこでまた、社会の風潮や仕事上の期待とのギャップがでてくることが考えられます。

実際に、身近に育児休職や短時間勤務をする男性がいますが、なんとなく、仕事のアサインをセーブしたり、休職期間をブランクとして評価したり、といったことをしそうになります。それだと、構造が何も変わっていないことになるので、とても注意が必要だなと感じています。指は自分に向けておきたい。

これからは、個々人が人生のフェーズごとに希望する働き方を選択し、キャリアを実現することと、社会全体での労働生産性向上の両立、といったことに議論が移っていくのかもしれない、そんなことをつらつら考えさせられた一冊でした!

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