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6/29 ザンスカール珍道中

本日は、ラダックの最深部ザンスカールの中でも、最奥に位置するプクタル・ゴンパ(Phuktal Gompa)へ行く。
…はずだったのだが、思い通りに行かないのが秘境旅である。

プクタル・ゴンパ
切り立った断崖にポッカリと開いた巨大な洞窟の周辺にきわどい形で僧坊が立ち並ぶ姿は、ラダックやザンスカールの他のゴンパと比べても、かなり異質なものだ。(中略)現時点では、数km離れた近郊の村までしか車道が通じていないため、プクタルに行くには車道の終点から歩いて往復するしかない。

『地球の歩き方 インド 2020〜21』P218

プクタル・ゴンパに行きたい旨を、前日のうちにゲストハウスのオーナーに伝えていた。
すると、自分も用事があってその近くまで行くから、一緒にシェアジープで行こう、ということになった。
「昼の12時には戻ってくるように」ということで、午前中はパドゥムの周辺を散歩して時間を潰す。

ラダックの中心地レーでも美しい風景を望むことはできたが、ザンスカールのそれは段違いである。
素朴な造りの民家と緑が映える田畑、そして灰色の岩肌が剥き出しになった急峻な山々とのコントラストが最高に美しい。

12時少し前にゲストハウスをチェックアウトし、ジープを待つのだが、なかなか車はやって来ない。
シェアジープの詳細は全く分からないので、オーナーが頼みの綱なのだが、肝心の彼は忙しそうでどこかへ行ってしまった。
13時過ぎになってようやく、「車の準備が整った」と大きなリュックを背負ったオーナーが現れる。

ゲストハウス前に停まっていた車まで行くと、乗客は全員、地元民だった。
それぞれ、用事があって別の村へと移動するようだ。

荷物を積み込んだり、他の乗客を待ったりして、13時半に出発。
と思ったら、パドゥム村内で所用があるようで、進んでは停まるを繰り返す。
結局、パドゥムを抜けたのは14時を回ってからであった。

プクタル・ゴンパ観光の拠点となるのはプルニ(Purne)という名前の村なのだが、17時にはプルニに着いていたかった。
ゴンパまで歩いて2〜3時間はかかるらしく、日が暮れる前にゴンパに行きたかったからだ。
ゴンパにはゲストハウスが併設されており、そのままゴンパで1泊する予定だった。

さて、ローカルシェアジープは乗客を目的地まで乗せるだけではなくて、途中の集落で荷物をおろしたり、何らかの用件を済ませたりと、いろいろなミッションがあるようだった。
ミッションの度に、車内で20分くらい待つということがザラにあった。
そのため、ジープは遅々として先に進まないのだ。

暖炉の燃料にするため、牛糞を固めて干涸びさせる。

ある集落に差し掛かった時は、訳のわからないままに全員が降車させられ(状況が理解できていないのはぼくだけだが)、普通の民家でチャイとインド風パンをいただくという謎の展開が起きたりした。

もうこの時点で、「17時にプルニに着く」ということは諦めて、「暗くなる前にプルニに着く」に目標を変えた。

いくつかの集落を抜けると、道は完全にオフロードになった。

今までのラダック旅の中でも、トップクラスの悪路なのだった。
断崖絶壁の細い一本道を激しく揺られながら、ジョギングくらいのペースで慎重に進む。

16時半頃、なぜか何もない一本道で車が停車した。
すると、どこからかおばさんが現れ、車に積んでいた大量の空のペットボトルを乗客から受け取った。
そして、車内の乗客たちに何事かを伝えると、全員が騒ぎながら車から飛び降りるのだった。
ぼくが呆気にとられていると、隣に座っていたオーナーが「チャーンの時間だ」と満面の笑みで言った。
「チャーン?」とぼくが聞き返すと、「アルコールだ」と彼はニヤリと笑った。

突然始まる酒宴

おばさんがカゴからMountain Dew のペットボトルを出す。
ペットボトルの中には、濁った液体が満杯に入っていた。
これがチャーンという酒で、おそらくラダック地方に古くから伝わる自家醸造酒なのだろう。

小麦粉から作られたきな粉のような粉末と混ぜて飲む。

味は軽い酸味があってマッコリに似ている。
アルコール度数は決して高くはなく、せいぜい3%ほどだろう。
とはいえ、アルコールであることに変わりはない。
何だか陽気な気分になって、体が火照ってくるのだった。

言うまでもない事だが、当然のように運転手もチャーンを飲んでいた。

酒宴の後、車は少しだけスピードを上げた。
運転手がこのままのペースでは間に合わないと判断したのか、あるいはアルコールのせいなのかは分からない。
道路は相変わらずの悪路だ。
ぼくは「暗くなる前にプルニに着く」から、「生きてプルニに着く」に目標を変更した。

目的地のプルニまであと数kmというところで事件は起きた。
いかにも乾燥した高原といった感じの、砂漠のように細かい砂が降り積もっている上り坂だった。

いくらアクセルを踏み込んでも、細かい砂の上をタイヤが空回りしてしまって坂を登れなくなってしまったのだ。
オーナーによると、この峠を越えるとプルニの集落があるとのこと。
最後の関門なのだった。

全員が途方に暮れていると、ドライバーが降車してボンネットを開けた。
どうやら、エンジン系統に不具合が生じているらしい。
エンジンが不調だから坂道を登れないのか、砂塵の舞う丘でアクセルを踏みこんだことでエンジンが機嫌を損ねてしまったのかは分からない。
しょうがないので、乗客は全員降りて、足が沈むような砂の坂道を歩いて登る。

30分くらい経っただろうか。
修理が完了したらしく、ジープは砂嵐を巻き上げながら、力強く坂道を登ってくる。

とはいえ完全には直りきっていないのか、一旦ジープだけで峠を越えるというような展開になり、乗客は歩いて丘を登り切ることになった。
蛇行する車道ではなく、まだらに草のしげる急坂をショートカットしていく。

おじいさんおばあさんも、きつそうな顔をしながらもペースを崩さず淡々と登っていく。
さすがは山の民である。

峠を登り切ると絶景であった。

そして、この峠を下ると、プルニの村がある。

最後の関門を乗り越えてから約30分。
プルニに到着したのは、日も暮れかけた19時過ぎだった。

プルニに着いたとはいえ、村らしいものは何もなかった。
一つの敷地に粗末な建物が建ち並んでいるところでジープは停車した。
オーナーによると、ここがプルニの宿泊施設であるとのことだった。
ぼくはここで夜を明かすことになった。

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