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「髪結いの亭主」 変態はつらいよ

この映画、もう30年前の映画になるのか。学生時代に見て強い印象を残し、それからルコントの映画は欠かさず見るようになった。「ハリウッド以外の映画」の原体験を構成する、僕にとっては主要な作品の一つだ。映写も何回もした。

前回の「幸福」に続いて、似たようなラストを迎える作品が続いたけど狙ってチョイスしたわけではない。シネフィル WOWOW プラスが無料体験期間中なので、ここぞとばかりに映画を見ている。

久しぶりに見て改めてルコント作品は親しみやすいということを感じた。難しいことを考えずにすむし、絵面も綺麗だし、とっつきやすい世界ではある。自然光に照らされるアンナ・ガリエナ。ほんとうに綺麗だ。当時36歳。まさに女盛りですな。

この映画を見た男性側の感想としてよく聞くのは「マチルドの行動が理解できない」というもので、僕自身も初めて観たときは「???」だったけど、今見直してみると意外とその理由は明白だったように思える。

常連客の背中が日に日に曲がっていく。それを悲しげに見つめるマチルド。彼女は何より「老い」を恐れていた。老いた肉体を、今のように溺愛してもらえるとは思えない。「優しさだけが残っても、それでは満足できない」という遺言はつまりそういうことなのだろう。きっとあなたは変わらず優しくしてくれる。でも今のように愛してもらえなくなる日がいつかきっとやってくる。それは10年後かもしれないし、明日かもしれない。

このあたりの心情の機微というものを男が無理矢理解き明かそうとして、ああだこうだ言っても核心にはたどり着けないような気がする。

ただ、この映画に限って言えば、男性側の視点が性愛に偏り過ぎている印象は否めない。雰囲気のある映像に誤魔化されがちだけど、髪を切ってる最中ににじり寄ってきてパンティおろして身体をまさぐり倒すなんて、盛りのついた犬じゃないんだからさ。身も蓋もない言い方だけど「いい歳こいたおっさんが何やってんだ」という話だ。

そして何よりマチルドの「人間像」のようなものが全く見えてこない。何を考えているのかさっぱり分からない。それは「女とは男にとって理解不能な生き物だから」ではなく、そもそも男の方が人間的なコミュニケーションを最初から放棄しているだけのようにも見える。

だからこの結末は、男がそのような求め方をしたがゆえの必然と解釈することもできなくはないよね。

要するに、変態は優しいだけじゃ駄目なのである。死ぬまで変態を貫き通さなければならないのである。

・・・なんか落としどころを間違えた気がするけど、この記事はこの辺りで切り上げましょう。ちなみにヘッダー画像は僕の行きつけの美容院。

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