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仏壇屋の憂鬱

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仏壇屋での体験や、仏事に関する情報を書いてます。
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2018年10月の記事一覧

変化が怖すぎる社長

仏壇業界は「伝統を守る」という大義名分のもと、「変化しないこと」が美徳とされてきた。変化する必要がなかったのである。 変化しないと生き残れない時代でも、ずっとあぐらを組んで、なにもしてこなかった。 今まで通りのことを、繰り返し、するだけ。 それではいけない。仏事離れが急速に進んでいる。 仏壇業界の人たちは沈みゆく船に乗っていると言っていい。 しかし、なにもしない。ジャックとローズみたいに足掻いたりしない。 じーっと助けを待っているだけ。 「伝統を守りたいから」と

仏壇屋はどんなテンションで接客したらいいのかサッパリわからん

人と接する仕事というのは、基本的に「元気一杯」「笑顔100点」が良いとされています。 しかし、仏壇屋に関してはそうもいきません。 なんせ身近に「死」を体験した人がお客さんになりますから、常にテンション高く接客すればいいってモンでもないんです。 ずっと前、ソフトバンクにスマホを買いに行ったとき、接客してくれたねーちゃんが超絶ハイテンションでした。 ねーちゃん「4Gの意味ってわかりますぅ?」 私「わかんないです」 ねーちゃん「わかんないんですかぁ? キャハハッ」 私

争ってばかりの宗教って一体なんなの?

妹が結婚するとき、旦那のオカンと妹のオカン(というか私のオカン)が揉めた。 お互いが信じている宗教が原因だ。 旦那側は浄土真宗。こっちは創価学会。 事の発端は、嫁は嫁ぎ先の宗教に入らないといけないのに、オカンが妹に創価学会のご本尊を持たせようとしたこと。 これで敬虔なご門徒さん(浄土真宗の人をそう呼ぶ)である旦那のオカンはブチ切れ。「創価学会を辞めさせないと結婚は許さない」ときた。もう籍を入れて、一緒に暮らしているというのに。 これはウチのオカンが悪い。創価学会の評

仏壇に掃除機のノズルを突っ込んではいけません

Kさんという女性が仏壇を買いにきた。 Kさんの見た目は永作博美を8倍くらいに薄めた感じで、終始フニャフニャしており、可愛らしい人だった。年齢は40台前半くらいだろうか。 このKさんが困ったことにド天然だった。 まず来店するたび、言う宗派が違う。 1回目は「なむだいしへんじょうこんごうって唱える宗派です」 2回目は「なんみょうほうれんげきょうって唱えてます」 3回目は「なむあみだぶつって唱えてた気がする」 こんな感じだった。宗派がわからないと仏壇が決まらない。

他人のふんどしで相撲をとる市会議員

市会議員の家に仏壇を安置し、テーブルに出されたハッピーターンをむさぼり食っていたときのこと。 前に座っていた市会議員がハッピーターンを隅に追いやり、三枚の写真を出した。 「あっ……ハッピーターンが……」と思いつつ、渋々写真に目をやると、その市会議員と奈良県知事が仲良さそうに写っていた。 市会議員は少々鼻を膨らませ、指についたハッピーパウダーをベロベロ舐めている私と、横に座っている店長を交互に見ている。なにかを期待している様子だ。 議員はこの写真を自慢したいのだろう。し

煩悩まみれのお坊さん

寺の住職というと「人間のお手本」「欲がない」みたいなイメージを持たれがち。檀家さんも住職のことを「先生」と呼び、それなりに尊敬をしているようです。中には深刻な悩みを打ち明けたりする人も。 でも、住職というのは「住職の資格を持っている」だけであって、その他は至って普通の人間です。 そりゃ厳しい修行とか必要なのかもしれませんが(浄土真宗は試験のみ)、一定期間だけです。四六時中悲惨な目に合っていて、しかも一生報われることがないサラリーマンの方がよっぽど厳しい修行をしていると言え

仏壇から出てきたイヤなものランキング トップ3

仏壇の中には色んなものが入っています。 仏壇を処分するとなると、それらのものを一度あけて見ないといけません。 何十年にも渡ってご安置された仏壇。何代ものその家の人が「捨てるに捨てられない」ものを入れてきました。 なので、ワケのわからんものが沢山出てきます。 そのなかでも、嫌だったものを元仏壇屋の私がランキングにして紹介します。 3位 へその緒「仏壇の中のものあるある」では「へそくり」と双璧をなすものが「へその緒」です。「捨てるに捨てられないもの」の代表でもあります。

カラカラになった山田さん

朝、いつも通り仏壇屋に出勤し、先輩のパワフルジジイ山田さんに「おはようございます」と挨拶をした。山田さんも挨拶をしてくれた。 「お、おひゃようごじゃいまふ……」 ??? 異常を感じて山田さんをよく見てみると、くちびるがプール上がりのように真っ青、顔はおしろいを塗っているかのごとく真っ白だった。 一見、動いていないように見えるが、ナマケモノみたいな「よく見たら少しずつ動いている」状態だった。 朝に話しかけると「ええいっ うるさい!」と怒られるので放っておいたのだが、朝

憧れの先輩、山田さん

仏壇屋に山田さんというヨボヨボのおじいちゃんがいた。私の先輩であった。 以前紹介した、お経と戒名が書かれた板塔婆を使ってガーデニングをし、村の人からめっちゃ怒られた人だ。 この人はイライラするとすぐにブチ切れ、なにをするかわからない。しかし非常に面白い人で、憧れの存在でもあった。 遺体に「邪魔やな!」山田さんと一緒に仏壇配達に行ったときのこと。 仏壇を抱えて和室に入ると、そこにはまだ顔に布がかけられた遺体があった。 このようなケースはたまにあったので、特に驚きもせず

「元引越屋」の静子さん 2

前回までのあらすじアホの社長のせいで、華奢な静子さんと、私とで重たい仏壇配達に行くことになった。 ★★★ 静子さんを助手席に乗せ、配達先に向かうとそこはマンションだった。部屋番号から推測すると、エレベーターなしの三階である。すなわち最悪である。 「わたしで大丈夫でしょうか……?」静子さんは泣きそうな顔で言った。 「だ、大丈夫ですよ……」私は心にもないことを言った。 マンションの下に車を停め、仏壇をひっぱり出す。仏壇は本体と下台で分かれるようになっている。 下台は小

「元引越屋」の静子さん

引越屋で長いこと働いていた、静子さん(仮名)がパートとして仏壇屋に入ってきた。口数が少ない大人しい人で、年はアラフォーくらい。 華奢な体型で、ちょっと大きな段ボールすら持てそうにない人だった。 なので、静子さんは働いていた引越屋で、事務員をやっていたことが容易に想像できる。というか、男でもキツイ引越作業を女性がするのはちょっと考えられない。 そんな当たり前のことが、ひとりだけわかっていない人がいた。若山富三郎そっくりの社長である。 ★★★ ある日、仏壇の配達が同じ時

仏具紹介『高月』

今回紹介するのは『高月』。「たかつき」と読みます。お供えを置く仏具です。『供物台』(くもつだい)と呼ばれることもあります。 この上にお供えを置き仏壇の下の方に配置します。置くところが丸いため、サイズピッタリのリンゴなどの果実を置くと、なんとなく気持ちが良いです。 必ず対で販売しています。ひとつだけ買うことは多分できません。 お客さんの中に「対だからなんとしても二つ置かねば」と思い、果物と、なにを思ったのか、キン肉マン消しゴムをしこたま置いていた人がいましたが、無理して二

とある仏壇屋営業マンの一日

仏壇屋の営業マンだった私の一日を紹介。 8:30 出社 店舗のお掃除 9:00 開店と同時に朝礼(前日の報告と社長のありがたいお話(「昨日食ったお昆布が美味かった」など) 9:30 店の隅で位牌の文字彫りをしつつ、読書(『世界の七不思議』など) 11:00 営業に出発(車内で音楽鑑賞。『トイ・ストーリー』のサントラなど) 11:30 自宅でゆっくりごはん、お昼寝 14:00 営業に出発(車内で音楽鑑賞。『ハリーポッター』のサントラなど) 14:30 一件目の

「引き出しがない!」

仏壇屋のお客さんはお年寄りがほとんど。認知症の人も少なくなかった。 ボケるのはある程度は仕方のないことだが、相手にするのは大変つらいものがあった。 ある日、店長がクレームの電話を受けたそうで、「ちょっと行ってきて」と何故か私に回された。 内容を聞くと「なに言ってるかさっぱりわからんかったけど、めちゃくちゃ怒ってたのは確実」とのこと。こういうのが一番怖い。 一応そのお客さんの購入履歴を調べてみるが、記録にはない。おそらく他の仏壇屋で買って、勘違いしてこちらに電話してきた