変化が怖すぎる社長
仏壇業界は「伝統を守る」という大義名分のもと、「変化しないこと」が美徳とされてきた。変化する必要がなかったのである。
変化しないと生き残れない時代でも、ずっとあぐらを組んで、なにもしてこなかった。
今まで通りのことを、繰り返し、するだけ。
それではいけない。仏事離れが急速に進んでいる。
仏壇業界の人たちは沈みゆく船に乗っていると言っていい。
しかし、なにもしない。ジャックとローズみたいに足掻いたりしない。
じーっと助けを待っているだけ。
「伝統を守りたいから」というか「伝統を守る以外できないから」
変化をすることに慣れていない。変わるのが恐ろしい。新しいものを受け付けない。
「どれだけ変化が恐いのか?」
これを私が働いていた仏壇屋の社長を例に取り、解説したいと思う。
以下は「変化の恐い社長」に何の理由もなく跳ねられた、悲しき提案たちである。
展示仏壇のレイアウト
仏壇は唐木仏壇、金仏壇、モダン仏壇と大きく分けて3種類あるが、なぜか配置がバラバラ。
なので、「種類別に固めましょう」と皆で提案した。
すると社長、こう言った。
「アカン」
もちろん、理由を問うてみた。
「とにかくアカン」
とにかくアカンらしい。
ただ単に、なんとなく配置を変えるのが恐かっただけだろう。この程度の変化すら恐いのである。この社長は。
休日数
週休1日。年間休日数約50日。
これだけ労働環境がうるさく言われているのに、ウチの店はまだこんなことをしていた。旅行にすら行けない。やる気も出ない。
もちろん残業代も休日手当も出ない。労基が来たら間違いなくアウトだ。
「なんで新入社員入って来けえへんのやろか……」
社長は呟いてたけど、誰が来んねん、こんな職場。
あまりにも来ないので、求人には「年間休日80日」とウソの記載をしていた。
あのね、社長、今の時代「80日」でも少ないですから。
でもその甲斐あって、挨拶もできん変なヤツが入ってきた。
一日で辞めた。
クレジットカードの導入
店ではクレジットカードが使えない。
「あら、カード使えないの? じゃあ、やめとくわ」
と、何も買わず帰って行った人多数。
なので、クレジットカードを使えるようにしようと、社長に提案した。
すると社長は考える素振りも見せず、言った。
「アカン」
もちろん、理由を問うてみた。
「とにかくアカン」
とにかくアカンらしい。
手数料の問題で、あえてカードを導入しない店はたくさんあるが、社長の場合そういう問題じゃない。
「カードって何や? なんでカードで仏壇買えんねん?」みたいな感じだろう。
チラシのデザイン
お盆前にはチラシを出す。
しかし、このチラシのデザイン、とにかくセンスがない。
なんか、古いのだ。全体的に。
そして、なぜか仏壇や位牌をところ狭しと記載するのだが、そんなもん「あら、仏壇が20%オフだって。ちょっと買いにいきましょう」とはならんだろう。きゅうり買いに行くんとちゃうんやから。
誰かが亡くならん限り売れないものを、いくら安くして記載したって売れんもんは売れん。
店の存在感を示すだけでいい。もっと涼しげでシンプルなチラシを。
ということでデザイナーと店長で何日もかけて検討し、デザインが決まった。今までとは違う爽やかなデザインで、皆も「いいね」と絶賛だった。
最終確認のため社長にチラシのデザインを見てもらうことに。社長はそれを一瞬だけ見て、言った。
「アカン」
もちろん、理由を問うてみた。
「とにかくアカン」
とにかくアカンらしい。
結局、仏壇と位牌をところ狭しと載せまくるゴチャゴチャしたチラシのままで行くことになった。
「あら、位牌が安いわね。旦那の分も買っておこうかしら」
とは、ならんぞ、社長よ。
★★★
些細な変化も見逃さない。それが仏壇屋の社長。
口癖は「ワシのやり方は絶対に変えへん!」だった。
今の時代、一番言っちゃいけないセリフだ。
あの社長がいる限り、あの仏壇屋は時代と共に沈んでいくんだろう。
来るはずもない助けを待ちながら。アーメン。
働きたくないんです。