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煌めいて消えてった

もうしばらくは誰のことも好きになれないのだろうなと思った矢先、出会った人との話をします。人生はタイミングだと言うけれど本当にそうだと思う。もしあのとき当時付き合っていた人と別れていなかったら私は彼に見向きもしなかったと思うし、もしまだ元彼のことが好きだったら彼と関係を結ぶこともなかったのだと思う。

このことが良かったか悪かったかは今後私が感じていくことであって、現時点ではどちらと断言することはできない。だけど私は、彼と出会えて、交わることができたことに後悔はしていない。



初めて出会ったとき、彼の笑顔に私はもう惹かれていた。初めて名前を呼んでくれた日、すれ違うたびに声をかけてくれたこと、連絡先を交換した日、初めて二人で食事をした日、彼の部屋で朝まで二人で過ごしたこと、いってらっしゃいと送り出した朝。



二人で過ごす時間に終わりがあることも最初から分かっていた。私も彼も、最初から付き合う気はなかったし、だから、一緒にいる間互いに好きだと伝え合うことは一度も無かった。


数ヶ月の間、彼がここにいる少しの間だけ、暇つぶし程度に仲良くするつもりだった。だからSNSも交換しなかった。毎日少しお喋りして、たまには真面目に仕事の話もして、たまに一緒にご飯を食べて、たまに一緒に映画でも観て。だけどそれ以前に私たちは大人の男女だったから、それだけじゃ済まないときもやっぱりあった。


誰にも内緒の関係だった。二人だけの秘密だったから仲のいい友人にすら話さなかった。恋人同士じゃなかったけれど、少なくとも、わたしはこれまで付き合った誰と過ごした時間よりも心が満たされていた気がしていた。何度も抱き合って寝たのも、愛は無くとも彼のことが好きだったからだった。一緒にいる間、彼は本当に私だけを見てくれていた。だからわたしも彼だけを見ていた。二人の間にあるのは愛じゃないことも分かっていたし、だったら何だと言われたら分からないけれど、友情でも、愛情でも、多分恋愛感情でもなかった。だけど、ただ一緒に居たかった。



東京タワーが好きなんだと話した私に、
「東京タワー、部屋から見えるところに住んでるよ」と彼は少し自慢げに言っていた。


今度東京に遊びに来た時にはうちにおいで、だけどきっと居心地が良くて帰れなくなるよ、と言う彼の言葉には信憑性があった。酔っ払いながら、misakiを東京に連れて帰るわと話す彼を私は笑いながら見ていた。



もうこの先彼に会うことは無いかもしれない。綺麗な思い出のまま、私の記憶の中だけに残しておくことにするね。好きだった。本当に、いちばん好きだった。幸せだったよ。



彼の好きな歌も、好きな映画も、好きな場所も好きな本も誕生日も何も知らない。そして彼も私のことを何も知らない。行った旅行も思い出になるけど行かなかった旅行も思い出になるように、私にとっては彼との先のない一瞬の関係も、忘れられない大切な思い出になってゆくのだと思う。



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