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カフェの2階のテラスから野外のスケートリンクが見えるのを知らなかったから、それを真正面に見下ろせるような位置に陣取ることにした。人が滑っているのを見たいと思ってたのに、すぐにみんながリンクから離れてしまって、車が入ってきて、傷ついた氷を張り直し始めた。なあんだ。 水を流しながら氷を削っていくとそれがどんどん凍っていく。それで思い出したが、歯医者に行っていない。それで不自由があるわけではないけれど、やっぱり行っておいた方がいいには決まっている。そう思いながら見ていると、とてつ
「あー、今年、「親育て子育て」だった」 「え! 困る! 今年忙しいじゃん」 「そう言ってもこれ義務だし…」 「むしろ、早めに済ませられない? 後半の方がやばいから」 「そうだなあ。休みの時期は避けるとすると…6月?」 「近いなー」 「保健所がいけるかな?」 「それは調整してもらわないと」 「今度、子ども来るんですって?」 「ええ、大変」 「気をつけてね。保健所の子供、親がいる子もいるけど、試験管の子もいるから」 「そうなんですか?」 「お金とかいろいろ隠しておいて、届かない
「うどん一つ」 「はーい」 うちでうどんと言えばきつねうどんで、何しろお揚げが自慢である。満足のいく油揚げを手に入れられないから自分たちで作っている。麺、出汁、油揚げで十分大変だから、後はお稲荷さんを付けるか付けないか、というのでやっている。それでも来てくれる人がいて、ありがたい。 お昼時が済んで、客はまばらになっている。この時間帯に来るお客しかいない。 「お待たせしました」 この客も週に一回は来る。曜日は決まっていないから、気が向いた時に選ぶ店なのだろう。それくらい
パリのフォンテーヌブローの近くには、戦前はまだ自然の木々が残っていて、その中にアパルトマンの屋根を越すくらいのもみの木が生えていた。そして、その木は動物たちのアパルトマンになっていた。パリのありとあらゆる動物たちが棲家にしていて、地下にはモグラたちのアパルトマンまであった。 そのもみの木はシャルル4世下にはもうあったとのことだった。クリスマスには星がそのてっぺんに降りたという。それを電飾で復活させようという計画があって、パリっ子全ての不況を買ったが、結局は星は付けられた
ーーー以上が調査の結果であるが、以下、昨年時の調査と同様、フィールドワーク時に実施したインタビューから抜粋して掲載する。インタビューは12月26日午前7時から午後11時までに街頭で実施した。前記した定型から質問を始め、その答えに基づいて、必要があれば調査員が追加で質問した。 1.この地域でこのクオリティか、と愕然としたと言っても過言ではない。通常ならば、チキン、ケーキなどの大量の食べ残しが出るはずだが、今年はそれが少なく、また出ていても以前ほどの美味しさが感じられない。今日
完全にスタックした。いつもの癖で縁石に座ってしまい尻も濡らしてしまった。チェーンを巻いてもダメな雪がある。冷たくしておかなければいけないものはまあもうこれ以上冷たくならないが、にしても後これだけ回らなければいけないのに気が重い。 「何かお手伝いしましょうか?」 「ピザの宅配だと思ってました」 「同じ格好ですからねえ」 「平柳町はここら辺です。僕は3つ」 「私は8つです」 「あ、福村さんかぶってますね。僕行きます」 「助かります」 「いえいえ、こちらこそ」 「あ、すいません
夜勤明けでスーパーに行ったら買い過ぎた。駐車場に上がるまでに4人前の寿司の平衡を保てなさそうだ。ホールのケーキはなんとか10キロの米袋の上に載せたが、寿司は手持ちしかない。エレベーター人がいませんようにと願っていたが親子が乗っている。朝早くになにをしているのだろう? 「サンタさんは?」 「サンタさんね、茉莉ちゃんがおばあちゃんのお家来るの知ってたら来てくれるかも」 夫が飲みに出たタイミングで逃げ出した。駐車場で仮眠を取り、トイレを済ませてパンを1つだけ買ってここから実家
家の前に西京区の大動脈が通っている。車からバスから自転車からランナーから園児を入れたワゴンからなんでも通るが、車一台分の幅しかないから、すぐに滞ってしまう。家の壁はすぐに擦られるし、家から出ようにも出られないし。石を置こうがコーンを置こうが何をしても全然効き目がない。 今日も大騒ぎなので出てみたら橇の横にサンタクロースが立って呆然としている。 「空から降りて来たら引っかかっちゃって」 「なんでここ通るんですか」 「いやー、反省反省」 二人で押してもびくともしない。後ろ
「パソコンは使えますか?」 「一通りできます。ワード、エクセル、あと、イラレもいけます」 「それはいいですね。しかし…」 社長は眼鏡を取った。 「イラレはあんまり使わないと思います。うちは卸なので、おもちゃのリストは作るんですけど、販促はそこまでしなくていいんです。でも、デザインができる人は大歓迎です」 そういうわけで、私は玩具の卸問屋に契約社員で入った。在庫管理が主な仕事だが、業者とのやり取りもそこに入ってくる。 「ただ、ハイシーズンは運搬に入ってもらってもいいですか
月が欠けてまた満ちるまで家の中に引きこもっていた。はやり病にかかってしまったのだ。月に一度、必ず家の中に閉じこもらなければいけない日はあるが、それ以外でこんなにじっとしているのは初めてだった。長患いをする病気ではない、ただ、他の人にうつしてはいけないから外に出なかった。 今は在宅であっても仕事も買い物もできるから困ることはなかったし、強いて外に出たいかと言われればそうでもない方の性格だと思っていたけれど、いざ、外に出られる日が来るとなるとソワソワする。しかし、それが職場
鳥と動物との戦争があった。 「おい、蝙蝠」 「なんでしょう」 「お前、鳥の大将の鳳凰と一緒にいたな。鳳凰の居場所を言え。言わないとどうなるか、わかってるな」 「鳳凰の居場所? 知りません」 「噓を吐くな」 「嘘じゃありません、第一、私は鳥じゃなくて動物です。こんなに毛が生えてるんですから」 「おい、蝙蝠」 「なんでしょう」 「お前、動物の大将の獅子と一緒にいたな。獅子の居場所を言え。言わないとどうなるか、わかってるな」 「獅子の居場所? 知りません」 「嘘を吐くな」 「嘘
「よくこんなとこに寝てられんな。屋根が落ちてきやしないか心配になんねえか?」 「石で葺いた屋根を見たことのねえ田舎もんだな? そんなやつへえってくんなよ」 「へえるかへえらねえかは俺の決めるこっちゃねえんだよ。俺はあの2人に着いてくだけなんだから」 「誰だよあいつら」 「身重なんだよ」 「んなこたどうでもいいんだよ」 「どうでもいいこたねえだろ、身重なんだから労わってやれよ」 「勝手に入って来やがってさ」 「るせえな、おめえんとこの飼い主は自分の家を使わせねえでここに入れっ
文学フリマ京都7への参加について いつも「昨日の世界」をお読みくださりありがとうございます。 11月15日の投稿で「昨日の世界」が100篇となりました。現在も毎日投稿をしていますが、100篇集まったものを形にしてみたい、そしてそれを手に取っていただきたいと思い、文学フリマ京都7に参加することにしました。 今回、収録するのは8月8日の第1篇から11月16日の第101篇までです。(「11月16日朝国境の街で」が、いつものルールと違う(解けた回数×140字ではない)ので
民はヘロデを呪い、ヘロデは民を呪ったが、それによって常に虐げられるのは民であり、ヘロデではなかった。いくら怨嗟の声が地に満ちようとも、それが王まで届くことはまずなかったのである。何もかもがヘロデからは隔てられていた。王宮がこの世の全てであるならば、この世は楽園であった。 ある日、東から三人の賢人がやってきた。楽園に迎え入れるのに賢人ほどふさわしいものはない。彼らの持つ知恵は王宮の彩となり、彼らの箴言は適度な刺激となるのである。 しかし、迎え入れてみると、いつもとは様子