白い表面を磨く

カフェの2階のテラスから野外のスケートリンクが見えるのを知らなかったから、それを真正面に見下ろせるような位置に陣取ることにした。人が滑っているのを見たいと思ってたのに、すぐにみんながリンクから離れてしまって、車が入ってきて、傷ついた氷を張り直し始めた。なあんだ。

水を流しながら氷を削っていくとそれがどんどん凍っていく。それで思い出したが、歯医者に行っていない。それで不自由があるわけではないけれど、やっぱり行っておいた方がいいには決まっている。そう思いながら見ていると、とてつもなく大きな歯を削っているように見えてきた。怪獣の奥歯よりもまだ大きいだろう。

それがどんどん綺麗になっていく。気持ちがいい。もっとツルツルにしてほしい。そう思っていたら終わってしまった。
「リンクの準備ができました」
ワッとまた人が入ってきた。もう見ていても楽しくない。小さい頃から嫌と言うほど見せられた歯の健康絵本に出てくる三叉の槍を持った虫歯菌に見える。

大勢の人がガリガリと歯を削っていく。中には回転したりジャンプをしたりする奴までいる。怪獣の歯のはずなのにまるで自分の歯が削られているような気がして気が気ではない。間の悪いことに、お腹が空いていないのに甘いものが食べたくてスコーンを頼んでいるからそれも気にかかる。全然楽しく無くなってしまった。

いよいよスコーンが来た。丸いものを想像していたら四角く焼き上がっているし、少し天辺が落ち窪んでいる。まさしくこれは奥歯だ。これを今からクリームとジャムを付けて食べるとなるとおかしくなってしまいそうになる。と言うわけで、テラスから店の中の席に移動して温かくなったら大丈夫になった。

molar/大臼歯の


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?