パリ、もみの木

 パリのフォンテーヌブローの近くには、戦前はまだ自然の木々が残っていて、その中にアパルトマンの屋根を越すくらいのもみの木が生えていた。そして、その木は動物たちのアパルトマンになっていた。パリのありとあらゆる動物たちが棲家にしていて、地下にはモグラたちのアパルトマンまであった。

 そのもみの木はシャルル4世下にはもうあったとのことだった。クリスマスには星がそのてっぺんに降りたという。それを電飾で復活させようという計画があって、パリっ子全ての不況を買ったが、結局は星は付けられた。エッフェル塔に通ったモーパッサンに倣い、もみの木に住むと息巻いたパリっ子もいた。

 実際、住んでいると眩しいばかりで星は見えないのである。動物たちは辟易した。しかし、その星を見たいと思ったものがいた。モグラである。なんとかして、と意気込んだモグラがクリスマスの日に地面に出て、木に登り始めた。狐や猫や烏の妨害を避けながらなんとか登り切ったが、見えないのである。

 さめざめと泣くモグラを見て哀れに思った動物たちは、協力して、隣のアパルトマンの屋上にモグラを上げてやった。そこからははっきりと星が見える。モグラは感涙にむせばんだ。もっと近くで見ようと思った途端に滑って空中に浮いた。ところが、天使が現れてうまくモグラを受け止めてやったのである。

condo/集合住宅

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