一月ぶりの出勤

 月が欠けてまた満ちるまで家の中に引きこもっていた。はやり病にかかってしまったのだ。月に一度、必ず家の中に閉じこもらなければいけない日はあるが、それ以外でこんなにじっとしているのは初めてだった。長患いをする病気ではない、ただ、他の人にうつしてはいけないから外に出なかった。

 今は在宅であっても仕事も買い物もできるから困ることはなかったし、強いて外に出たいかと言われればそうでもない方の性格だと思っていたけれど、いざ、外に出られる日が来るとなるとソワソワする。しかし、それが職場に行くのだと思うとゲンナリもする。家でしてはいたけれど、現場はまた違うだろう。

「おはようございます」
「おはよう、お帰り!」
「ありがとうございます。お騒がせしました」
「全然大丈夫よ」
 みんなが優しく迎えてくれたからまあ安心した。
「とりあえず、特別休暇の再申請からしてください」
「わかりました」
 まだ気持ちが浮ついている。誰彼構わず話しかけたい。でも、もう始業だ。

「今日って早く帰る日でしたよね?」
「そうなんですよ。出勤して早々、申し訳ないんですけど…」
「いえいえ」
「なんか、後遺症とかはありませんか?」
「おかげさまで」
「…? 何か、おかしいですか?」
「いや、何しろ、ミイラ男さんに、後遺症とかって聞かれると思わなかったので…」
「そりゃそうですね」

「まあ、とにかく、今日はあんまり無理しないでください」
 パソコンに向かっては見るものの、やはり一月のブランクはあるのだな、という感じで、ファイルがどこにあるのかを判断するのに一瞬ラグがある。バタバタしている内に外が暗くなってきたから、慌てて帰宅してまた引きこもった。

lunar/月の

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