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011_アルバイト(交通量調査)

交通量調査というアルバイトがある。
通る車両や通行人を数えるアルバイトがある。

月に1回程度、先輩から声をかけられる、
所謂サークル伝統のアルバイトだ。

朝7時から19時までの12時間。
ひたすら座って、通る車を車種ごとにカチカチする。

地方の交通量と車線数はたかが知れており、
難しいことも忙しいことも殆どないので、
学生の身からしたら美味しい収入源だ。

平日に声をかけられることが多く、
講義さえなければ毎回手を挙げたいところだが、
目先の現金に釣られて手を挙げることも多い。


その日の調査場所はM駅から車で10分程進んだ山道だった。
2人1組の現場だったので、相方の後輩Hの車で現地まで移動させてもらい、手早くパイプ椅子2脚とカラーコーンを並べる。

「乗用車」「二輪車」「バス」「小型貨物」「大型貨物」と5種類のラベルが貼られた横長のカウンターを膝の上に置き、「歩行者」「自転車」と2種類のラベルが貼られたカウンターを後輩に手渡し、調査を開始する。


10分に1台通るか通らないかという山道での調査は結構辛い。
だんだんとお互いに口数が減ってくる。
景色は変わらず、動くものは風に揺られる木々の緑だけ。
気を紛らわせようにも紛らわせるものもない。

巡回のスタッフを考えたらスマホを触るのも憚られる。
心象を悪くして伝統ある働き口が途絶えたら顰蹙ものだろう。


……


…………



時間を切り売りしている気持ちになってくる。
実際、そう遠くないことをしているのだ。


……


…………


12時間の業務が終わり、カウンターと集計用紙をスタッフに渡して簡単なチェックを受ける。問題なければ日給を受け取って終了だ。



バスのカウントが1ですけど……

初めてスタッフからの指摘があった。


夕方に路線バスが山道を登ってきたことはよく覚えている。

交通量が少ない地点だったので印象にも残っています、
夕方くらいに通りました、と伝える。

自分も覚えています、Hバスが通りましたよ、と後輩も続けて答える。




あー、やっぱりですか。
たまにそういう話があるんですが、あそこ路線じゃないんですよね。
会社にはバスは通っていないことで報告あげますので、
本日はおつかれさまでした。


#私の作品紹介
#眠れない夜に

ありがとうございます。進行形で記憶を供養しています。