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#ショートストーリー
わざと空けたスペースは未来
「食器入れたダンボールってどこだっけ」
「あなた自分で食器!って大きくマジックで書いてたでしょ」
「そうだっけ」
「ほら、あれあれ」
「ああ」
引越しって、体力と気力をべらぼうに使う。夫婦ふたりだけでずうっと、小奇麗にまとまったコンパクトな2LDKの部屋に棲んでいた。例にもれず共働きです。子どもはまだ、いないけれど、いつかは欲しいと、おもっている。なので、それを見越して広い部屋に引っ越してきた、
一人になりたいヘッドフォン
「したんだ、整形」
勉強するときにはいつも使っている近所のファストフード店の2階で、衝撃的な言葉を聞いてしまった。僕はいま大げさなかたちのヘッドフォンを両耳に装着しているけれど、実際、音楽を聴いていたりはしない。耳が圧迫される感覚が妙に落ち着いて、勉強に集中できるから着けている。今年の入試こそは失敗できないから気合の入れ方がちがう。
ちょうど、解けない数学の問題に行き当たってしまい思考が途
「はい、じゃんけん」
チ・ヨ・コ・レ・イ・ト、と一音ずつ呟きながら栞が数段上に登っていく。その軽やかな後ろ姿を見るともなしに見ていると、彼女がまだ幼かった頃を想起する。遥か昔の思い出に浸るとき、一彦はどうしようもなく寂しくなる。
「はい、じゃんけん」
こちらを振り返った彼女の笑顔は、まだ十分にあどけなさを残しているように思えた。まだ子供だ、そうだよ、まだ二十歳になったばかりなのに、と胸中で唱えながら、一彦は掛け