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小説

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記事一覧

死ぬまでに何度もこの夜をなぞる。|短編小説

ちぎれる光もしたたる翳も逃したくない。簡単に通り過ぎる今ここに、きちんと眼を凝らしたかっ…

52

ドライブインなみま|小説 カレーライス編

夜をひっかく雨の群れは春雷が連れて来た。ゴロゴロ言うてるわ、と思ったら盛大に降り始めて暗…

43

夕凪のひと|短編小説

やさしい獣のような声を上げて、男は果てた。なんの肥やしにもならないセックスだったけれど、…

103

ドライブインなみま|小説 かつ丼編

紙風船みたいな男だと思っていたら、本当に紙風船だった。それを膨らませて地面へ着地させない…

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雨、恍惚として。|掌編小説

大雨が降る。世界をざーっと白く染めながら。私は、朝早く起きて窓からそれを見ていたら、子ど…

天文薄明は肉眼で6等星が見えないくらいの明るさのことだよ。|掌編小説

私は何かを待っている。 いつもそうだ。何かを待ちわびている。その何かとは人なのか物なのか…

ドライブインなみま|小説 焼きめし編

夜が漣にゆれる。月光が照らす海面は、てらてらとたゆたい、そのほかは波音しか聞こえない柔らかい空間へ、ぽつりと落とされた言葉に、意識がハッとした。 「わたし、河野さんに結婚しようって言われてん。蘭は、どう思う?」 ザザーッと波音が寄せては引いてを繰り返している。私は、聞こえていたのに「なんて?」と、訊き返してしまった。すると、お母ちゃんは「だ、か、ら──」と、先ほどと同じ言葉を繰り返した。私は 「え!?えっと──おめでとう。」 と、咄嗟に応えた。その瞬間に波音は聞こえな

Quarter Life Crisis|短編小説

 孤独が優しく滲んだ。 あゝ、今日からひとりなんだ。 そう思うと、孤独を不幸にしてはいけ…

Feel Blue|短編小説

 ひどく静かな夜だった。それは、しじまとはすこし違い、ナーバスな聴覚と視覚が生み出す静か…

ドライブインなみま|小説 プリン編

だいたい甘くてやわらかいものは、すぐに口の中から溶けてなくなるから信用ならない。アイスク…

斬る|短編小説

ちぎったところが酸化して黒くなるような気がした。あの頑丈なじいちゃんがシぬなんて。文武両…

Lost Autumn|短編小説

黄色が舞う、くるくると。そして、私の体を通り過ぎていく。銀杏の黄色はほとんどが地面に伏し…

こんにちは、たまご|短編小説

ガラス戸に映った自分の顔を見た。額、眉毛、目、鼻、頬、口。なんの変哲もない毎日見慣れた顔…

かなしいは透明|掌編小説

かなしいは透明だ。もしかしたら猛毒ほど、やさしいふりをした無色透明なのかもしれない。僕はかなしいに汚染されて冷えた体を温めるために炬燵へ入った。足を入れるといつもより広く感じるのは、クロがいないからだ。つい先週まで僕が炬燵へ足を入れると温かい毛の塊に当たったあとに鋭い牙で足を噛まれた。 「イタ!噛むことないだろ。」 僕は炬燵の中を覗くとクロは何食わぬ顔をして舌で毛並みを整えている。その横へ足を移動して僕はテレビを観はじめた。なのに今日は炬燵の中へ潜れそうなほど足は自由で。