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網はなぜモウと読むのか?~なぜ言語2~

お疲れ様です。ようこそようこそ。

「なぜだか言語を思考する」というクサいタイトルの記事をしれっとシリーズにしていこうという試みです。これは第二回目。さぁいつまでもつかな。

最近仕事でよく文章を書いているのですが、行き詰まった時にじっと画面を見つめているとめちゃくちゃゲシュタルト崩壊が発生して文字が認識できなくなります。

その瞬間の異世界に迷い込んだ感覚というか、その字が現実に存在しない文字に見えてきて、でも検索したらしっかり意味が説明されていて……という、あの奇妙な感覚が実は以外と楽しい私、きすけ(鳥)でございます。

とりわけ漢字については、固まっていた一つの文字がふわふわ~っと部分部分にバラされていくような感じがあって、お~混乱しているな自分となります。

今回はそんな漢字について、学校では教えてくれなかった漢字の構造の秘密や、それを知ったことによって浮かび上がってきた「網」という漢字に隠されたヒストリーについてお話したいと思います。





漢字の構造をおさらいしよう

タイトルにある網の話に入る前に、漢字の構造について今一度おさらいしておきましょう。今回は例として「硬」という字を挙げています。

漢字は、その多くが二つの部分に分解できます。硬であれば、左の「石」と右の「更」といったように。ここまでは部首だの偏だの、学校で教わる内容ですね。「しんにょう」ってカッケェじゃんって思ったあの日を思い出します。

しかし、こうして分けた二つのそれぞれが何を表すかまでは、教えてくれる先生は多くはなかったのではないでしょうか。ここで、改めてこの分解された二つが何なのかを知っておいていただきたいです。

実は、これらは「意味」と「音」を表しています。
「硬」であれば、「石」部分はこの漢字が石に関連した意味であるよということを、「更」部分はこの漢字の音読みが「更」のそれと同じ(コウ)だよということを表しているんですね。

これ学校で習った人いますかね?自分は学校では習ったことなかったので、大人になって初めて知ってなるほど~と思いました。漠然と一部の漢字はそれで読みとか覚えていた気がするけど、ちゃんと法則に則って作られていたんだなぁと感心しました。

さてこれが分かると、途端に色んな漢字の解像度が上がってきます。

指と脂を両方とも(シ)と読むのは「旨」の部分が趣旨とかの(シ)だからかぁ~。ついでに意味の部分もちゃんと「手」とか「月(にくづき:体に関係している部首)」になってるなぁ~。といったように。

漢字の構造についてはすんごく丁寧に掘り下げてくれる記事がありましたのでぜひ以下の記事を読んでみてください。
私の愛する「ゆる言語学ラジオ」が、厳密な考証が少ないという理由で言語学界隈の一部であまり評判が良くなかったころの話も載ってます。(今はどうなんでしょうね)

余談:日本語学校の漢字の教え方

この漢字についての成り立ちを知った後、友人の誘いで都内にある「英会話カフェ」なるところに行く機会がありました。
英語で気楽にお話をすることができる楽し気な雰囲気のカフェで、日本語学校に通っている外国の方たちが話し相手としてアルバイトをしていました。

自分はコーヒーを頼んでしっかり喉を潤しながらぎこちない英語をしゃべっていたわけですが、色々お話をしていると、漢字って難しいよね~どうやって覚えたらいいのかなぁ~て話題を一人の男性スタッフが振ってきました。

ふむ確かに、漢字は相当な壁だという話はよく聞きます。
漢字の難しさをテーマにした海外のMemeもいっぱいありますからね。みんな苦戦するのでしょう。

しかしこの場面こそ、あの知識を披露する最大のチャンス!
へっへっへ。行くしかない、ここでこそ!

私は自信満々に、こういう風に分解できてね~こうすると覚えやすいんだよ~って話をしました。すると彼はうんうんとうなずき……

「それ、日本語学校でやったやった!面白いよね!」

普通ぅ~に教わってました。
周りにいた他の外国人スタッフさんも、私も教わったなぁと口々に……

日本語学校、さすがです。イキった私の完敗でした。


網という漢字

さて漢字の構造についておおざっぱに把握したところでいよいよタイトルの話に入ろうと思います。

先の話を知って以来、様々な漢字に分解を施してきた私。
ぱっと理解できてちょっと気持ちの良いものから、力及ばず分解できなかった漢字まで、様々なものに出会ってきました。

そんな私があるとき出会い、衝撃的な展開を迎えたのが、この漢字です。

あみ/モウ

網。あみ、ですね。音読みはそう、(モウ)で……

モウ、で……

んー?


網のどこに(モウ)がいる?

漢字の構造について知った今だからこそ、この漢字の読み、ちょっと違和感ありますね。

一体ここのどこにモウがいるというのでしょうか?

「糸」は糸へんですから、多分まずそこは読み部分ではないハズです。
でも、残ったあの部分、アレ、モウとは読まなくないか??
え?じゃあどうなんだこの漢字は、どうなるんだこの漢字は。

この漢字はどこから来たのか、この漢字は何者か、この漢字はどこへ行くのか、という状態に私はなってしまいました。(?)

しかしすぐに投げ出すのは良くない。少しよく見てみれば、モウが見つかるかもしれない。よ~く目を凝らして、怖がらないで、見つめてみましょう。
そうすればきっと……。


きっと……。


きっ……。



…………。



あっ!!!!!!!!!!!!!



さて、じっくり目を凝らして見つめていたらご覧のように、(モウ)を見つけてしまいました。「網」の中に「亡(モウ)」は、確かに存在した。

いやいやしかし、読みを表す亡はどうしてこんなところにひょこっと隠れてしまったのでしょうか?気になって調べてみたところ、面白い事実が発覚しました。

これは、網という漢字が生まれるまでの、数奇な運命のお話……


網には何が起こったのか

元々、漁や虫捕りに用いるような皆さんのイメージする「あみ」を表す漢字は「网」だったそうです。この書き方で、読み方は(モウ)。
この時から、読み自体はしっかり今と同じです。

その後、発音部分をしっかり付けようと言う流れになったのか、この网という字に「亡」をつけて、「罔」という漢字が出来ました。
网の字は少し形を変えていますが、ここはいったん置いておいて。

これで意味としての「网」、読みとしての「亡」を持った理想の漢字「罔」が誕生した……はずでした。

赤色部分が「网」の変形。
「あみがしら」とも呼ばれているそうです。

しかしここで、ある問題が発生しました。
罔の字に、「あみ」だけでなく「ない」という意味も生まれてきてしまったのです。
「ない」というのはつまり「亡」の方の意味も拾ってきてしまったと。

確かにもともとは「网」部分(上の画像の赤色部分)で(モウ)と呼んでいたわけですし、読み部分と意味部分の見方を入れ替えてしまえば、この字の意味は「あみ」にも「なくなる」にもできてしまいます。これは盲点でした。

一つの漢字に全く異なる二つの意味があるこの状況は、日本人の漢字ユーザーを非常に混乱させたことでしょう。そんなわけで、時代が流れる中でとうとうこの問題にもメスが入ることになりました。

意味はあくまで「あみ」であるという意思を込めて、「罔」に「いとへん」をつける運びとなったわけです。

これにより生まれた「網」という漢字は、「いとへん」によって糸に関する意味をもち、「罔」が(モウ)という読みを表しているという形で現在は安定して用いられています。

以上が「網」という漢字が辿った数奇な運命でした。
今は落ち着いてよかったね。


まとめ

今回は、漢字の構造についての考え方と「網」がたどった変化の歴史のお話をしました。

漢字の形の変化を通して、言葉が時代の流れの中で移ろうことを
改めて感じ、自分としてはこの「網」という漢字にすごく感情を揺さぶられました。エモいなぁ。

皆さんもぜひ漢字を分解してみて、自分のお気に入り漢字分解(?)を見つけてみてください。


そうだ、今回は最後に漢字分解の問題を残して終わるとしましょう。
幕府とかの「幕」の字は、いかにして分解することが出来るでしょうか?
これを知った時もかなり面白味を感じたので、ぜひ考えてみてください。読みが(バク)なのがヒントです。頑張って崩せ!

それでは!



参考

網の中に「亡」を見つけた自分が、即刻調べて駆け込んだサイト。ほとんどこれを参考に書いたので、これを読めばもう今回の記事は読まなくてもいいかもです。ならなんで最後に挙げたんだ。

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