見出し画像

【読書】「死の講義ーー死んだらどうなるか自分で決めなさい」

書店で見かけたときにタイトルがすごく気になったので購入して読んでみた。別に死が近いと感じているわけでもないし、死にたい願望があるわけでもないです。
ただ、今年の初め、コロナが流行り始めた時、「これはいつ死ぬかわからないな」と思い、自分がいつ死んでも周りが困らないようにしておこうと考え、自分の行動と思考に多少の変化がありました。
そういう意味では死について考えることは、どう生きるかを考える上ですごく重要なんだと思います。
(今はコロナにかかっても、高齢者でなければ重症化のリスクは低いと認知されていますが、いつ死んでも誰も困らないようにしよう、という思考は私の中ではあまり変わっていない。)

この本は「死の講義」と言いつつ、内容の6〜7割くらいは宗教と歴史の解説です。

第2章では、一神教(ヒンドゥー教、キリスト教、イスラム教)について。
それぞれの宗教の成り立ちと概要、そして、それぞれの宗教が死についてどう考えているかを解説しています。

3章ではインドの文明について。
インドの哲学・宗教の成り立ちと概要について。
仏教、大乗仏教、小乗仏教、浄土教、密教など。
そして、それぞれの宗派が死についてどう考えているかを解説しています。

4章では中国文明について。
儒教、道教、中国の仏教など。
それぞれの宗教の成り立ちと概要について。
そして、それぞれの宗教が死についてどう考えているかを解説しています。

5章では日本が死についてどう考えていたかについて。
日本は、日本独自の考え方がありつつ、海外から多くの思想を輸入してきた国。それぞれの時代においての宗教の成り立ちと、その時々の死に対する考え方を解説しています。

5章までの内容は、「死」をメインの題材としつつも、各国における宗教の歴史解説がメインで、現代の人が死についてどう考えるべきかについてはあまり触れません。
テーマを限定した歴史解説書といった印象です。
6章のタイトルは「死んだらどうなるか、自分で考える」
本のサブタイトルともリンクしている内容です。
ここから、著者の本当に伝えたかったことが見えてきます。

まず、現代は科学の発展により、合理主義者が増えた。
合理主義者は科学を信じて生きている。
そういう人は、神話を信じていない。
すると宗教に対する信仰があまり意味を持たなくなります。
しかし、死を考える場合には宗教が大きな力を持つ、と言います。

どういうことか。
科学には得意なことと不得意なことがある。
科学がやっていることは、繰り返し起きている事象について法則性を見つけること。
あるいは実験と検証を繰り返して一定の法則を見つけ出すこと。
つまり、科学とは経験に基づいた学問であり、何度も経験できることが必要です。
しかし、死というのは生きている人間が経験することができない。
できないというより、一度しか経験することができず、経験した瞬間には生きていない状態になってしまう。
だから、科学によって死後どうなるかを知ることはできない。

もう一つ、「自分がなぜ存在しているのか」という根源的な問いに対しても、科学は答えを出さない。
「偶然」としか答えられない。
合理主義者が理屈で説明することができない「偶然」という穴、そして科学で説明することができない死んだあとの世界。
この隙間を埋めてくれるのに、宗教が大きな意味を持つのだと言います。

科学だけを信仰し、宗教に対する信仰がなければ、死は偶然訪れ、死んだ後には何も残らないと考えるのが最も自然です。
しかし、死を偶然と捉えるなら、不慮の事故や病気で身近な人が死んでしまった時、あるいは自分が死を感じる場面になった時、心を強く保つのは難しい。
一方、何かしらの信仰を持っていて、生まれたこと、死ぬことに意味があると考えるなら、周りの誰かが死んだとき、あるいは自分が死に直面しそうになったときでも、強く生きることができる。
そのために何かしらの宗教を選んで信仰しよう、というのがこの本の最終的な主張です。

本で紹介されている宗教は一神教(その中でもキリスト教やイスラム教など)、仏教(その中でも色々な宗派がある)、中国思想(儒教、道教など)などがあります。
この本ではそれらの思想は全て横並びにあります。
それぞれ、死に対する考えは異なるものの、死んだあとに対する信仰を持つことで、生き方にプラスの影響を与えることは変わりない。
だから、どれでもいいから1つを選んで信仰しなさい、というのがこの本のまとめです。

宗教や歴史に対する教養を深めつつ、自分の生き方、死に対する考え方を見つめ直すきっかけになる本です。

最後に、本の内容とはあまり関係ありませんが、文章のリズムに独特な印象を持ちました。
おそらくは句読点をつけるタイミングな気がするのですが、個人的に今まであまり感じたことのないリズム感の文章で、読んでいて心地良かったです。
こういうリズム感の文章もあるのか、と、文章の書き方としても1つ参考になる本でした。


この記事が参加している募集

推薦図書

サポートいただくとめちゃくちゃ喜びます。素敵なコンテンツを発信できるように使わせていただきます。