見出し画像

2023年に見た映画ベスト10

5年目の更新ともなると前書きに書くようなこともなくなりますが、今年は年末近くに「映画を見ない週」が久しぶりに出て、いや、正確にはたとえばインディジョーンズの旧作を久しぶりに見るか。と再生して寝落ちしますね。じゃあっていきなり最新作を試しても寝落ち。みたいな(結果0本鑑賞)日があり、ああいうバカ映画は好きなはずなのに「加齢によるお好み変化」が起きており、すなわち年間視聴タイトルは4年ぶりに200を割り込んで173本でした。そういうお年頃。
cf. 2022年2021年 / 2020年 / 2019年


10.『最後まで行く』(2014)

PHOTO: IMDb

『キングメーカー 大統領を作った男』(2021)とどっちを選ぶか、ちょっとだけ考えましたが、俳優としての円熟に近づいてきた昨今より、道を模索していた時期の作品を、たまたま今年見ていたので。(ちなみに邦画リメイク企画を知ったのは見終わってから)

捜査対象云々、報道初期はユ・アインのおかげもあって衝撃は薄かったんです。てな言い方がはからずも示唆する通り、その後の推移を知るにつれ、彼を追い詰めていったのは「俺たち」でもあることが分かり、いやいや、俺はむしろ推してた方だよ。だから……免罪されるか? というと、そんなことはなく。「世間」の構成員という意味では有罪なんですよね、俺自身も。

ものすごく苦い思いが残った、イ・ソンギュンとの別れ、という意味で1本を選ぶしかない。

ホン・サンスにハマる線の細さと、図々しさ抜群な『最後まで行く』(2014)、『チョ・ピロ怒りの逆襲』(2019)あたりの表裏がきれいに合ってきて、これからもっとずっと良い仕事が出来たに決まってるんだよ。

12.27に書いたこと

9.『モンスター』(2003)

PHOTO: IMDb

これはfilmarksに書いた以上のことは無いかなー。

公開当時、ものすごく評判良かったことをはっきり覚えてますけど、そのときに見ていれば、たとえばクリスティーナ・リッチへの評価は自分もニューヨーク・タイムズ並に終わっていたろうし、シャーリーズ・セロンの特殊メイクに目を奪われるあまり、これがものすごく普遍的なヒトの物語であることにも気付かずじまいだった可能性もある。
そう考えたら、出会うべき作品なら、いつかは出会う(かもしれない)なぜなら出会いは必然だから。って進次郎構文のようなことを思います。

8.『さよなら、私のロンリー』(2020) 

PHOTO: IMDb

キービジュアルがシャレオツ系で、ネトフリによくある「よくて佳作」だろ。という先入観からずいぶん長らく積んでいたんですが(だって邦題もそんな雰囲気プンプンじゃないですか)配信やめるから、って言われてあわてて再生したらよかったっていう、危うく出会えないままになるところだったパターン。

7.『グロリア』(1970)

PHOTO: IMDb

2023年の社会に生きる者として思うことがある。みたいな引き合いに出したお詫び込みでこの順位なんですが、ラストシーンの意味がぜんぜん伝わっていないひとの方が多そうなところにちょっと戦慄してもいて。
……ものすごくはっきり描かなければ伝わらないのなら、そりゃ上っ面だけ勇ましい奴らが跋扈することになるわな。大丈夫なんですか、われわれ。

6.『ベイビーわるきゅーれ』(2021)

PHOTO: IMDb

アクションはどうでもいいです班なので、何がいいって主人公ふたりガールズが貧乏なところ。
上の写真も鶯谷駅前のきわめて治安悪いところで、別にそこで撮らなくてもよさそうじゃん。って思うものの、そして2023年は一周まわって歌舞伎町のほうが地獄なのが日本社会の現実なわけですけれど、歌舞伎町にはまだいろんな意味でムラが残ってるけど、主人公たちに似合うのはあっちの殺伐よりはこっちの殺伐で、そこがいい。
2作目も早くU-NEXT以外のプラットフォームに来てくれ。

5.『バービー』(2022)

PHOTO: IMDb

個人的にはウィル・フェレルの"I am the son of a mother, and the nephew of a female aunt."って台詞がツボで、カシコそうなことを言って墓穴を掘るぐらいならあれぐらいの善性表出がいま求められている「正しい」ビジネスセンスですよねえ。
あそこに寄せられる揶揄、「最悪よりはちょっとだけ悪くない悪」ニュアンス、マチズモもいろんな形になってるからねって喚起、など、油断して生きてる各位には金輪際伝わらないやつじゃないですか。
たとえば弊社、一応キラキラ企業っぽい見てくれになっていて、勤めている老若男女にも悪いひとは少ないし、一定以上の学力ある面々なんですけど、たとえばこの作品をテキストに、社として掲げているダイバーシティの意味を問い詰めて行ったら何も分かってない奴ばかりが可視化されること必至で。
若手と会話していると、おっさんたちの考える正義をトレースせよ、なぜならこれが正義だから。みたいな強要をされていると分かるわけ。
いろんな人にいろんな正義がある、なんなら今日の正義が明日の不正かもしれないし、それは日本だけの正義かもしれないよ? みたいなことも普通にあるとか古今東西スパンの視野があれば、そもそもそんな自信満々に語れなくない?
--と自らの置かれた理不尽を表現する術が無いのが若いってことなので、そんな彼らを見るにつけ、本作におけるバービーにはなり得ないまでも、アランではあり得るよな、俺。って思ったりはしました。

4.『女は二度決断する』(2017)

PHOTO: IMDb

理屈や事実では伝えられないエモーションをお届けする、それがフィクションの力だと信じて久しい者にとって、ものすごくポジティブな後味を与えてくれる作品でした。

ってfilmarksレビューには書いたんですが、移民国家としての日本、を毎週毎週見て4年半が経っている者として、この作品が描くドイツの分断はぜんぜん他人事じゃないんだけど、同時に「はっきり言わなければ伝わらない」社会じゃ、反対の受け止められ方すらありえる、とも思って、言葉を失うんですよ。

3.『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022)

PHOTO: IMDb

映画の見方を知らないひとが増えすぎでは。だってアカデミー賞○部門受賞って看板を信じて「思てたんとちがーう」って言うなんて、初級も初級じゃないですか。
路線バスに乗るのが難しいのは分かるけど、乗り方を調べもしなかったオノレを恥じるぐらいの心はエチケットの一種だよ、ぐらいのオリエンテーションは、まわりがしてあげないと駄目だと思うの。
その意味でこれ、むしろ分かってないひとのほうがマジョリティかも、ぐらいの勢いでしたけど、まあそれもこれも、オスカー獲り過ぎ系作品にはついてまわることではあり。個人的には上掲写真のシーンがいちばん感動的でした。

2.『別れる決心』(2022)

PHOTO: IMDb

入管やゼノフォビア、職業としての訪問介護など本邦映画評で本来触れられていいはずのトピックに目配せできるひとが稀な件について、なんか言いたくはなる(のでもうちょっと落ち着いたら言語化したい)

ってfilmarksレビューに書きっぱなしにしているのですが、とりあえずそこではなく

マルティン・ベックってスウェーデンの刑事もの小説シリーズ(1965-1975)にインスパイアされていることは監督も認めているのですが、いやおことばですがこれはむしろ藤原審爾の新宿警察(1960-1984)です。1作だけ挙げるなら「ズベ公おかつ」(1969)。タイトルが凄くてスマンとか詳細省くが要するに俺のいちばん好きなやつ

こっちについて、ちょっとだけ補足しておきたい。
韓国のひとたちが日本の俺たちと極めて近い心性を持つことは韓国映画を何本か見れば分かることだと思うのですが、とにかく「はっきり言わないと分かりません」ムーブの対極のような作品でさあ。
藤原審爾の「ズベ公おかつ」って短編との類似性なんて誰も言ってるはずがないことだから、早急に言語化しておくべきなんでしょうけど、作者が言わないでおくことに美学を見出しているところを下品にほじくり返さなければならないなんて、そんな不本意なことがあります?
……とりあえず宿題として越年するか。

1.『ハンナ・ギャズビーのナネット』(2018)

PHOTO: IMDb

今は昔のこと、ツイッターというサービスがあってのう(おじいちゃんまたその話!)

上記ツイートが回ってきた結果、5月12日にふらっと見て、殴られるような衝撃を受けたんですよね。
フェミニズム文脈で世に思うところはたくさんあるが、それを言うほど信頼できる相手は居ない。って弊社若手とようやくそういうレベルの話が出来るぐらいには信頼を勝ち得たので(=うれしい)今年いちばん良かったのはこれだった。
ってつい先日お伝えしたところなのですが、作品単体でいうと、これほど激烈なメッセージ性を持ちながらもエンターテインメントたり得ているところがスタンダップという表現形式の面白さだな、という感想。実は去年見た2位作品にも思ったことですが。
本邦の落語が「笑い」を入口に人間を洞察する芸術であるのと同じで、やっぱり入口って大事ね。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?