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2021年に見た映画ベスト10

年に1回noteに書くシリーズも3年目となりました。
2020年
2019年
今年の母数は305本。

10.『チャンシルさんには福が多いね』 (2019)

PHOTO: IMDb

ベスト10選出、難航するものだといえばそれまでですが、特に今年は『はちどり』(2018)と『野球少女』(2019)と『ミナリ』(2020)と『最悪の一日』(2016)と云々、後味が似た韓国映画に個人的な好みのタイプが集中したせいで、絞るのは大変でした。
そのなかで結局これになったのは、他作品が人生の先の長さを描いているのに比べ、チャンシルさんはもうこんな年齢になっちゃった。って焦燥がテーマなのが異色で、そこが沁みたから。
Filmarksでも書いたんですけど、なんでもないところでつまづくシーンとかね、それ自体は深い意味を持たないんけど、共感しかない。……ってこれ分かる同年配各位、くれぐれも御自愛ください。

9.『金子文子と朴烈』 (2017)

もちろんこれも韓国映画なんで10位のところにマージしても良かったんですが。ただ、作品が私に訴えたのは「日本の政治家が日本の国民に語る義務をいかに放擲してきたか」、そしてそのことへの憤りがいかに大きかったか。その自分の怒りを直視しないようにしてきたか。
それらをまざまざと見つめることになった-という点で、10位で挙げた作品群とは別扱い順当。って結論なのです。

8.『イン・ザ・ハイツ』 (2021)

PHOTO: IMDb

ようやく今年の作品。直前に見た『tick, tick....BOOM! : チック、チック....ブーン!』(2021)もヤバい。と思ったんですが、自分が居た土地の、居たころのむかしばなしは刺さるに決まっているのでちょっとズルい。
『ハミルトン』(2020)も含めてリン=マニュエル・ミランダって過去気にしたこともなかった人名が大きくクローズアップされた1年ではあったな。

7.『ビューティフル・デイ』 (2017)

PHOTO: IMDb

ホアキン・フェニックスの存在感にはヘキエキしているほうなので、好んで彼の出演作を見る気はもともとないんですけど、うっかり見てしまったら目がそらせないのはもうしょうがない、なんかそういうドラッグみたいなものでは。
一方で、むずかしい/アーティスティック評価を得てしまうのは分かるけど、これ同じ役をトム・クルーズが演じたらどうなる。って脳内シミュレーションをやってみてほしいんですよ。明朗会計エンターテイメント大作になるポテンシャルあるよね? と考えると、この邦題、わりと作品の本質に沿ってはいるのかも(適当)。

6.『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』 (2019)

PHOTO: IMDb

それこそ上記でいうホアキン臭を事前に検知した俺、警戒心たっぷりで再生したんです。そしたら冒頭から流れる音楽の何も分からないからいっそどうでもいいか。って感じが良い具合に作品世界に没入する手立てとなりまして、いざ見出したらむしろ分かりやすい。って。

5.『ブラック・ウィドウ』 (2021)

最初ランク10位ぐらいか、って思ったんですがじりじり存在感を増してついにこんな評価に。『ホークアイ』(2021)も込みというか、俺たちはエレーナが出てくるたび漏れなくナターシャ・ロマノフを思い出すカラダに改造されている。
スカーレット・ヨハンソンがエロ抜きで評価される場所へ、ついに辿り着いたことを喜ばずにはいられない、とは上記noteに書いた通りです。

4.『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』 (2018)

PHOTO: IMDb

個人的な環境と近いせいで評価が高騰するパターン。父娘関係って千差万別だし、ここで描かれている関係性に自分が近いわけでもないのですが、子の視点は自分には既視感あるし、親視点はそこに立たされて初めて「自分の親はこんな感じだったのか」って分かる。
とかびっくりするほどアタリマエの感想をわざわざ書いていますが、いやーやっぱりこれをカッコつけて既読スルーは出来ないわ。

番外 デンゼル・ワシントン旧作再訪の旅

"The Siege" PHOTO: IMDb

デンゼル新作(『リトル・シングス』2021)を見ることができたのが実に3年ぶりで盛り上がるなか、ラミ・マレックが生意気なことを言いやがったので(この一文いろいろ間違い)旧作を20本超、見続けたんですよ。
そしたら個人的にはあまり評価していなかった『アメリカン・ギャングスター』(2007)も初監督作『アントワン・フィッシャー きみの帰る場所』(2002)も、自分の記憶以上に良いじゃねえか。ってなって、ってここまではわりとそういうこともあるよね話だと思うのですが、デンゼルがスターになって以降、つまり『フィラデルフィア』『ペリカン文書』の1993年以降では最下位を争うダメ映画、とみなしてきた『マーシャル・ロー』(1998)がびっくりするほど、以前と異なる評価になりまして。
当該作品の評価として用いられるロジックは「9.11より前に9.11の後のUS社会を描いていた」ですが、それだけなら肥大したUS国内の自意識の問題でしかない。ところが、今回見たらローカル映画じゃなかったんですよ。えっっ、そんな話でしたっけ。

3.『大坂なおみ』(2020)

2021年の大坂なおみの起伏は彼女のファンは十分承知しているので、もうそこに足すことばなんて要らんやろ、と言いたいのですが、このドキュメンタリーで最も胸が痛くなるのは、彼女がアメリカ国籍を捨てて日本国籍を選ぶ(正確には「選んだことが分かる」)シーン。どこにも帰属してこれなかったのが、晴れて日本に。って文脈と、その後のバッシングを知っているだけにね。
ドキュメンタリー作品としてふつうに傑作だと思っていますが、彼女の名前だけで湧いて出るアンチコメントのボリュームを考えるだけで、filmarksに作品が登録されないのは理解しないでもない。
……って監督のほかの作品の感想にわざわざ書いたりしました。

2.『犬ヶ島』(2018)

PHOTO features Yoko Ono: IMDb

ものすごく差し障りのある見方を紹介すると、ここで描かれている犬を日本における外国人に一回置き換えるといいんですよ。
「不法滞在のケシカラン奴らは1ヵ所に集めて死滅するのを待てばいい」
って世論優勢のなか、そういう考え方に賛成できません、ってあくまでも自分の飼い犬とのキズナの話として救出に向かう主人公……うん、いや、差し障りあるって言ったよね、俺。
もちろんそういう投影が正しいとは思っておらず、どちらかというと作品鑑賞としては誤りだと思う派ですが、フィクションの器の大きさはいろんな解釈を容れてなお、まだ余裕ある。ってところにあらわされるとも信じているので、これを「そういうふう」に見ないでいられるひとのほうに、驚嘆の目が向くんです。2021年の日本が陥っている・または自ら招いたゼノフォビア社会を御存知ないですか。

1.『ザ・ビートルズ:Get Back』 (2021)

PHOTO of Ringo & Heather from IMDb

7月に『犬ヶ島』(2018)を見て、これ以上のインパクトある作品、年内むりじゃない? つまり今年は繰り上がりでウェス・アンダーソンが1位? ってなってた12月の救世主、結局これでした。

ポールのドキュメンタリー『マッカートニー 3,2,1』(2021)もたいそう素晴らしい出来でしたが(リック・ルービンがハグリットに見える件を早く書き残しておきたい)、あっちはポールにとっては終活なわけですよ。いくら現役ミュージシャンとして最新作品を発表し続けている、って言ったって。

-自分で書いてダメージを受ける-

対照的にこれは若い才能と稚気がまぶしいやつで、ファンとしては溜息しか出ない。しかも喜びのあまり言語化できない系の溜息。
そもそも各アルバムのコンプリート・エディションとか出た時点で思うわけじゃないですか、なるほどファイナル版しか知らなかった俺たちはファイナル版だけを知っておけば良かったんだな、って。
時の流れは不可逆だから、昔なら海賊版に高いカネを払って聴いていたような一部のひとだけが知っていた「楽曲完成までの経緯」がSpotifyなどのサブスクリプション経由でいともたやすく流通するようになって、私自身はビートルズといえば213曲がオフィシャル。って価値観で生きてきたので痛痒を感じませんが、海賊版渉猟派各位はいまどういう気持ちでお過ごしなのか、ちょっとだけ聞いてみたくはある。

何の話だか分からなくなりそうですが、スタジオで鼻歌まじりに歌われる各楽曲の断片から「あ、これはずいぶん後のソロアルバムで完成形が披露されるギミ・サム・トゥルース」とかいうレベルの俺たちですら、満足できる映像が公開される未来があったなんて、20年前はおろか10年前でも想像していなかった。何この明るい未来体験。

2021年のマイベスト1断定に疑念なし、と申し上げる次第は以上です。

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