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『向日葵畑の向こう側』②

【第二場】 蓮始開はすはじめてひらく



陽向はすっかり「いつもの」日常へ戻っていた。不登校から3ヶ月弱。高校へ行ったら変わると思っていたが状況はますますひどくなっていた。別にいじめられているわけでも嫌なことがあったわけでもない。ただただ世界が自分を拒絶しているような気がして、怖くなって部屋から出られなくなっていたのだった。

ベッドの頭に置かれたスマホで時間を見る。7月13日日曜の午前8時過ぎ。日曜と言っても陽向にとっては毎日日曜みたいなものなので関係ないかと自嘲する。興味もないのでニュースアプリでニュースでも見てみる。外国では戦争が起こっているようだ。こういうところへ行って「戦士」として死ぬのもいいかなどとそんなありもしないことを思いながらスマホの画面をスクロールする。

すると、突然、鳴るはずのないスマホが鳴りだした。驚いた陽向は『誤って』通話ボタンを押してしまった。

陽向「しまった! 電話でちゃった! どうしよう……」

しかも知らない番号からの着信だ。恐る恐るスマホを耳に当てる。

??「もしもし? もしもーし? あれ? 間違えたかな」

聴いたことあるようなないような女の人の声だった。また、セールスか何かだろうか。
陽向はビクビクしながら言葉を絞り出した。

陽向「ど、どちら様でしょうか?」
??「あ、陽向くん?」
陽向「あ、はい……青井ですけど」
??「私、私よ!」
陽向「はい?」
??「あー、声だけじゃわからないか。雨宮です。雨宮陽菜」
陽向「あ、あまみや……さん? もしかしてあのときの」

陽向の脳裏にあの雨の日の気まずい記憶が蘇る。あの日以来、陽向の心にはずっと陽菜の顔が焼き付いて離れなかった。
その陽菜が何故か自分の携帯に電話してきている。そう思ったら動揺して携帯を持つ手が震え始めた。

陽菜「そうそう、陽菜です」
陽向「え?あ、いや、あの……なんで……というか……こ、このあいだは……」
陽菜「大丈夫? 具合悪いの?」
陽向「え? あ、いや、そ、そんなことない!よ」
陽菜「よかった。じゃあさ、どこかに遊びに行かない?どうせ部屋に引きこもってるんでしょ?」
陽向「……あ、はい……」

緊張しすぎているのか、気がつくと陽向はベッドの上で正座している。

陽菜「あ、じゃあ今から駅前集合ね!」
陽向「い、今から?」
陽菜「じゃあ、待ってるから! バイバーイ」
陽向「いや、ちょっと待って……」

と言ったときには既に通話は切れた状態だった。

陽向「何で俺の番号知ってるんだろう……しかも、一方的に駅で待ってるとか」

少なくとも陽菜はこの前のことを気にしている感じではなかった。
陽向はため息をつきながらも、自然と笑みがこぼれていた。

陽向「いや、単なるいたずらかもしれない。いや、でも、ほんとだったらどうする? あー、もうとりあえず行くだけ行ってみるか」

陽向が駅に着くと本当に陽菜が待っていた。嬉しそうに子供が走っているのを眺めている。白いワンピースに麦わら帽子。胸に飾られた向日葵のコサージュが陽菜の明るさを一段と際立たせる。陽向が思わず目を奪われて立ち尽くしていると、陽菜がこちらを認めて手を振ってきた。

陽菜「こっちこっち!」
陽向「待った? 待ったよね」
陽菜「あー、待つの平気だから気にしないでー。でもほんとに来てくれて嬉しいよ!」
陽向「い、いや、俺が来なかったらどうする気だったのよ」
陽菜「ずっと待っても来なかったらまた電話するつもりだったよ」

その無邪気な笑顔はどこから来るのか、陽向は自分が急に小さい人間に思えて恥ずかしくなった。もっとも恥ずかしいのには別の理由もあったわけだが。

陽向「あ、あのさ、あ、えーと……そもそも何で俺の携帯知ってたの?」
陽菜「そりゃー知ってるよ! ……あ、えーと。陽向くんのクラスの人に教えてもらった」
陽向「誰だ。そもそもクラスのやつで俺の番号知ってるやつなんて……」

明らかに今思いついたことを言っているようだが、他に番号を知る方法が思いつかない。陽向が不思議そうにしていると、陽菜が慌てて口を開く。

陽菜「い、いいじゃない。何でも!さぁてどこ行きますかね!」
陽向「え? 行きたいところあったんじゃないの?」
陽菜「ないよ。とりあえず陽向くんを部屋から引っ張り出そうかと思っただけだから。あははは」

陽菜があまりにも明るく言い飛ばすので、陽向は呆れながらも何だか口角が上がってくる。この笑顔に何故か救われるのだ。

陽菜「とりあえず、そこでお茶しましょ?」

二人は駅前のコーヒーショップに入った。ここは書店と一体になっていて、コーヒーを飲みながら試し読みまでできる。

休日の暇つぶしには持ってこいの場所とあって、子供連れの家族やカップル、熱心に勉強をしている学生や仕事をしている人まで多種多様な人々でごった返している。店内は一面がガラスで覆われており、穏やかな光が店内に差し込んでいる。
所々に置かれた大きめの観葉植物の葉が、その艶やかな緑を輝かせている。

陽菜「混んでるねー。私、注文してくるから席取っておいてくれない?」
陽向「え? ちょっと待って。そもそもまだ何頼むか言ってないし……」

と口にしたときには既に陽菜の姿はなかった。陽向はため息をつくと辺りを見回す。

陽向「こんな混みまくりの状態で席なんて空いてるわけ……あった!」

窓際にちょうど二席の空席があった。他の席からも離れていいていかにもカップルにもってこいという感じだ。

陽向「おお! あんなところにちょうどいい場所が!」

と陽向が足を向けた瞬間、どこぞのカップルがその空席に滑り込んだ。

カップル「はぁ! ギリギリセーフ。しかも雰囲気いいじゃない! 最高!」
陽向「けっ! リア充め。こ、こっちだってカップルだし!」

背伸びしてみた自分が何だか余計に小物に思えて恥ずかしくなる。気を取り直して、再度、空席を探し始めるもやはり空席なんてものはない。さっきのは奇跡だったのだと思うと余計に腹が立ってくる。

陽向「何だよ。あの子が戻ってきちゃうじゃないか」

陽向が右往左往してうなだれていると、後ろから肩をトントンと叩かれた。
驚いて振り返ると、初老の女性が立っている。品の良いベージュを基調とした装い。それに見合うだけの落ち着いた雰囲気は、明らかにお金持ちという感じがした。手首に数種類の天然石で組んだブレスレットをしている。
おそらく実年齢は行ってそうだが、相当若く見えるのはその出で立ちと菩薩のような笑顔のせいか。

初老の女性「席探してらっしゃるんでしょう? ここ空けますから。ごめんなさいね一人で使ってしまって。ついつい本に夢中になってしまって」
陽向「あ……いえ……でもいいんですか?ここ使ってしまって」
初老の女性「いいのいいの。この本ね。気に入ったから買って家でゆっくり読むことにするわ」
陽向「そうでしたか。では使わせてもらいます。ありがとうございます!」

陽向は深々と一礼した。その途端、陸上時代を思い出していた。先輩や先生方に挨拶している時、まさにこんな感じで挨拶していたものだ。

初老の女性「いいのよ、そんな。顔を上げて。若い子はいいわね。キラキラしてて。見てるだけで元気もらっちゃったわ」
陽向「え? キラキラ、ですか」

キラキラと言われて陽向は驚いた。さっきまで引きこもっていた人間がそんなふうに見えるだなんて。

初老の女性「あ、ごめんなさい。どうぞ」

初老の女性は「よいしょ」と言って、持っていた本を持って、本屋のレジに向かっていった。
陽向が席を確保すると、ちょうど陽菜が戻ってきた。両手にはLサイズのカップが2つある。
陽菜からカップを渡されて陽向は驚いた。

陽向「え? これ……」
陽菜「あれ? 嫌だった?」
陽向「いや、何でわかったの?」
陽菜「あ、あー。コーヒー好きそうな顔してたから」
陽向「か、顔? しかもブラックがいいって何でわかったの?」
陽菜「えーと、甘いもの苦手そうな顔してた……から?」
陽向「エスパーか……」

一方で陽菜は生クリームとキャラメルソースたっぷりのコーヒーを目の前に、目を輝かせていた。

陽向「よくそんな甘いもの飲めるなぁ」
陽菜「え? そう? いいじゃない。好きなんだから」
陽向「で、でもさ」
陽菜「食べたいものを食べたいときに食べる。飲みたいものを飲みたい時に飲む。だからこそ人生幸せなんじゃないかー」
陽向「だからって」
陽菜「まぁまぁ、今日は特別だよ。と・く・べ・つ」

あまりにも幸せそうに飲んでいるので、ここでもまた陽向は何か気が晴れるような気がしていた。

陽向「あ、ごめん。ここは全部払うよ!」
陽菜「あ、いいの? はい、じゃあこれ」

陽向は渡されたレシートの金額を見て「うっ!」と思ったが引くに引けず、しぶしぶお金を陽菜に渡す。

陽菜「助かっちゃった! 実はちょろっとお財布が軽くて困ってたのよね……あははは」
陽向「ったく! だったらこんな高いの頼むなよ……」
陽菜「しょうがないじゃない、これがよかったんだから」

陽菜はキャラメルコーヒーの生クリームを嬉しそうにほうばっている。

陽向「……あのさ、雨宮さん」
陽菜「『ひな』、だよ」

真面目に話そうとしたのに、生クリームを口につけたまま明るく言う陽菜に面食らってしまう。

陽向「あ、えーと。陽菜さん、さ。この前のことなんだけど……」
陽菜「なんだっけ?」
陽向「雨の日の……」
陽菜「あー。あれか。あ!あの時はごめんね。叩いちゃって」

陽菜は顔の前で手のひらを合わせている。本気で悪かったと思っているらしい。

陽向「あ、いや、いいんだ。でも何であんなこと言ったの?」
陽菜「何て言ったっけ」
陽向「いや、何で自分を傷つけるのか、って」
陽菜「あー、あれかー」

陽菜は話をはぐらかそうとして目を他の席のカップルに移した。
陽向はさらに畳み掛ける。

陽向「それにいつも見てきた、とか。俺は陽菜さんに会ったことないと思うんだ」
陽菜「あー、ええと……その……何だ。ああ!友達に頼まれちゃって。陽向くんのことが気になってるって子に」
陽向「あ、そんなこと言ってったっけか。そもそも誰なの?その、俺のこと気になってるって子。それも心当たりないんだけど」
陽菜「ま、まぁいいじゃない。まぁそれで私は陽向くんをずっと見てきたわけだけど」
陽向「ストーカー規制法に抵触……と」
陽菜「ちょ、ちょっと待って!何でそうなるのよ」
陽向「冗談だよ」

陽菜は本気で安心した様子だったが、すぐにブスッとして生クリームをやけ食いし始めた。

陽向「まぁいいや。それでこれまでずっと見てきたと、それで?」
陽菜「それ、まだ聞く? それで終わり。陽向くん引きこもっちゃったものだから、それっきり。どうしたのかなって気になってたんだ」
陽向「まぁ……いろいろ……あったんだ」
陽菜「そっか。でも今はこうやってお話できるようになったからよかったよ。ゲリラ豪雨に感謝だね!」
陽向「ゲリラ豪雨に感謝って」

ふと、陽向はこうして女の子と話していることが不思議になった。今までひたすら練習に打ち込んできたせいで、こうして友人やまして女子とお茶するなんてことはしたことがないなと思った途端に急に不安になってきた。

陽向「……あのさ、俺なんかといて楽しい?」
陽菜「あ、またそれ。俺なんか、とか言わない方がいいよ。私は本当に楽しいんだからいいの!」
陽向「そうなの?」
陽菜「そもそも私から誘ったんだし」

陽菜はキャラメルコーヒーを飲み干すと満面の笑顔を見せた。窓から差し込む太陽に照らされて神々しさすらあった。

陽向「でさ、あの日のことだけど……」
陽菜「ええとー。あ、そうだ! 次、どこ行こうか! 他に面白いところない?」
陽向「あ、え? い、面白いところって言われても久しぶりに外出したからな。ベタだけど映画でも観る?」
陽菜「映画! いいね! 私観たいのあったのよ」

駅前は1年前に再開発が済んだばかりだ。かつての景色は見る影もなくなり、近代的な建物の中に、ここぞとばかりに色々な店舗が集められていた。
ここに来れば大抵のものは揃っているので、娯楽スポットとして多くの人達で賑わっている。コーヒーショップも映画館も同じ区画にあった。

映画館に入るなり、陽菜は早速チケットを二人分買ってきた。
ついでにポップコーンとコーラも買ってきて満面の笑みを浮かべている。

陽向「またベタなもの買ってきたね」
陽菜「あら?映画館ってそういうものでしょ?」
陽向「シアター2って書いてあるね」

映画まではまだ20分くらいあったが、特にやることもないので、二人は入ってしまうことにした。

陽菜「あ、こっちだこっち」

裏で人気のSF映画がかかっているらしく大行列をなしていたが、こちらは人がまばらだ。

陽菜「空いててよかったー。もうど真ん中とっちゃうよー」

陽菜は嬉しそうにドリンクホルダーにコーラを差し込むと、早速ポップコーンを食べ始めた。

陽向「楽しそうだね。映画は重そうだけど」

陽向はチラシのあらすじに目を通してみる。余命3ヶ月を宣告された主人公が最期の最期まで生きる希望を失わず、死ぬ間際に、長く叶わなかった家族旅行を叶えるという実話を元にした映画と書いてある。

陽菜「そう? こういうのがいいんじゃない。当たり前だと思っていることは当たり前じゃないの。そういうことを確認するって大事なことだよ」
陽向「そういうもの?」
陽菜「そういうものなの。で、感謝する。生きてるだけで幸せなんだよ?」
陽向「そんな風に考えたことなかったかも」
陽菜「じゃあ、是非今日からそうしてみて。人生変わるかもよー」

映画が始まると、陽菜はポップコーンをすっかり陽向に預けて、それはもう真剣に涙を流しながら見入っていた。
陽向にとっては、『夢を叶える』というテーマが胸に重くのしかかってきたような気がして、何だか居心地の悪さを感じてしまった。

陽菜「最期に叶えられたね、夢。本当にいい映画だった」
陽向「ずっと泣いてたもんね」
陽菜「あれで泣かない人はいないよ」
陽向「そう、だよね」
陽菜「え?」
陽向「いや、ああいうの今の俺には眩しすぎるっていうか、ほら、何か……調子が悪くてさ」
陽菜「え?大丈夫?」

目を閉じるとまたあの時の、ゴールテープ間際の映像が浮かんでくる。

陽向「……あ、ごめん! 今のなし! じゃ、じゃあ俺はこれで……」

陽向が慌てて行こうとすると、陽菜が陽向の手をつかんだ。

陽菜「あのさ、そういうのよくないよ! だいたい女の子置いて先帰る?」
陽向「いや、でも」
陽菜「あー、もう! 私が道道聴いてあげるから全部思ったことぶちまけちゃいなよ!」
陽向「そんな、おもしろくもないし、他人に話すことじゃ」
陽菜「ほら、行くよ!」
陽向「続き聞くの?」
陽菜「おもしろいかおもしろくないかは私が決める」
陽向「……わかったよ」

大事な試合で大怪我をして夢やぶれ、あえて遠くの進学校を選んだこと。
それでも精神的に立ち直れなくて不登校で引きこもりになってしまったこと。

陽菜が正面ではなく、横にいたことが今の陽向にとって吐露するのには却って良かったのかもしれない。
陽向はゆっくり歩きながら、まるで独り言のように話し始めた。
ひとつひとつ自分で自身を確認するように。

陽菜は真剣な顔をして陽向を見ていたようだが、陽向はその目を合わせることができない。

陽向「忘れようとしてもだめなんだ。どうしてあの時怪我したんだって。もう一人の自分が責めてくるんだよ」

陽菜は「うん」とだけ言い静かにうなずく。

陽向「もう、何のために生きているのか、それすらわからなくなっちゃって。そのうちに何もかもが怖くなったんだ」
陽菜「夢が目の前で消えていったなんて、それは誰にとっても辛いことだよ」
陽向「そうかな……そう言ってもらえると少しは楽になるかな。ははは」
陽菜「一生懸命やってきたのにそれが報われないなんて悲しいもの」

陽菜が真剣に自分のことを悲しんでくれている、そう思った瞬間に、陽向の中に押し込められた何かかが一気に心の奥底から流れ出して、外へ飛び出そうとする。
陽向は慌ててそれを抑えようとしたが、その感情はやがて頬を伝って地面に落ちた。

陽向「あれ? 何で? 俺……」

混乱している様子の陽向の手を陽菜がそっと握った。

陽菜「……辛かったね。でももう大丈夫だよ」

その瞬間、陽向は嗚咽を堪えきれなくなっていた。
あの日、二人が出会った時の、豪雨のような激しい感情が堰を切ったように流れ出す。夢に背を向けると決めたあの日以来だろうか。
陽菜に支えられ、陽向は近くの公園のベンチに腰掛けた。

陽菜「陽向くん、見て見て、あっちに蓮の花が咲いてるね」

陽菜が遠くの蓮池を指さす。見ると泥水に無数の蓮が浮かんでいる。多くはまだ蕾だが、いくつかは既に花が開いていた。
夕日に照らされた清らかな花弁が、陽向の心を落ち着かせてくれた。

陽菜「知ってる? 蓮って泥で濁ってるところでしか咲かないんだよ」
陽向「……泥水じゃないと咲かないの?」
陽菜「そう。泥があるからこそ根が張れて、栄養もとれるんだって」
陽向「泥があるからこそ……」
陽菜「でも、花はこんなにきれいに咲いてる。不思議だよね」
陽向「陽菜」
陽菜「泥水の味を知ってる人はね、必ずこんな風にきれいに咲けるんだよ。それに……」

陽菜が陽向の胸をドンと叩く。あの時と同じだ。あの強い衝撃。そしてその後に何故か胸が熱くなるこの感覚。

陽菜「自分の心には嘘はつけないよ。キミの心がまだ夢を諦めきれないってそう叫んでるんだ」
陽向「まだ諦めていない? 俺の心が……」
陽菜「まだここにある灯は燃え尽きてないんだよ」

陽向は心に熱いものが込み上げてくる気がした。

陽向「俺……明日から学校行ってみるよ!」
陽菜「え? ほんとに?」
陽向「ああ、もう一度がんばってみるよ」
陽菜「そっか! よかった! 全力で応援するからね」
陽向「陽菜、ありがとう」
陽菜「いいってことよ!」

先ほど蕾だった蓮の花のひとつがゆっくりと開く。
気がつけば夕日が落ち始めていた。

陽向「……あ、ごめん。もう遅くなっちゃったね」
陽菜「あ、ほんとだ。いけない。もう帰らなくっちゃ。じゃあ、またね! 今日は付き合ってくれてありがとう」

落ちる夕日を背に小さな影が手を振っているのが見えた。

陽向「……うん。また……」

陽向は手を振っている自分自身に驚いていた。あんなに暗く落ち込んでいたのに、今は少し笑顔でいられる自分がいる。
陽向の心に新しい何かが生まれているようだった。



【前】
① 向日葵畑の向こう側 【プロローグ】 蝉しぐれ 
            【 第一場 】 驟雨


【次】
③ 向日葵畑の向こう側 【 第三場 】 鷹乃学習 
            【 第四場 】 土潤溽暑


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