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【創作大賞2023】 向日葵畑の向こう側 全⑥巻

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創作大賞2023 応募作品です。 完成致しました。全⑥巻 全10場(プロローグ、エピローグ含む)構成です。 総文字数:約50000字 純粋で綺麗な世界が描けたと思っております。…
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『向日葵畑の向こう側』①

『向日葵畑の向こう側』①


あらすじ

ーー あの白い太陽を見ると思い出す。あの夏を、そして君を。

高校に入った青井陽向は、中学3年の陸上大会で夢やぶれた傷が癒えぬまま不登校となり、全てを拒絶するようになる。ある日、驟雨の中で雨宮陽菜と名乗る少女と出会う。初対面のはずだが、何故か陽向の名前を知っており、「ずっと君を見てきた」と言う。

ーー自分の心には嘘はつけないよ。キミの心がまだ夢を諦めきれないってそう叫んでるんだ

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『向日葵畑の向こう側』②

『向日葵畑の向こう側』②

【第二場】 蓮始開

陽向はすっかり「いつもの」日常へ戻っていた。不登校から3ヶ月弱。高校へ行ったら変わると思っていたが状況はますますひどくなっていた。別にいじめられているわけでも嫌なことがあったわけでもない。ただただ世界が自分を拒絶しているような気がして、怖くなって部屋から出られなくなっていたのだった。

ベッドの頭に置かれたスマホで時間を見る。7月13日日曜の午前8時過ぎ。日曜と言っても陽向に

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『向日葵畑の向こう側』③

『向日葵畑の向こう側』③

【第三場】 鷹乃学習

まるで何かの力に導かれるように、頭のスイッチに電源が入る。
カーテンを引いて窓を開ける。爽やかな風と共にまだ熱しきらない、心地いい空気が部屋に流れ込んでくる。朝日は柔らかく、陽向を祝福している。

蝉の声がするが、不思議と耳障りではない。まだ寝ぼけているのか、途切れ途切れに力なく鳴いている。

陽向「夢を諦めていない、まだ……」

あの時のゴール手前、目標だった全国大会が潰

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『向日葵畑の向こう側』④

『向日葵畑の向こう側』④

【第五場】 大雨時行
午前中の補習が終わり、グラウンドに立ち寄る。早朝から練習していた陸上部はもう片付け始めていた。
エアコンの効いた教室とは違い、炎天下のグラウンドは灼熱地獄だ。先ほどまで平静だったのに早くも額か汗が滲み出している。

それでも陽向はグラウンドに引かれた白線を眺めていた。

陽向「もう一年か……」
学「あれ? 青井くん?」

いつの間にか、学がコース用のコーンを両手に、陽向の後ろ

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『向日葵畑の向こう側』⑤

『向日葵畑の向こう側』⑤

【第七場】 寒蝉鳴
日が落ち始め、夕闇が迫るとひぐらしの鳴き声がしてきた。
陽向にとって蝉の声はすっかりトラウマとなったが、この音だけは癒やされる気がしていた。
同時に夏の終わりが訪れていることに一抹の寂しさも感じる。

由利「あんまり遅くなるんじゃないよ」
陽向「はいはい。子供じゃないんだから大丈夫だよ」

玄関で身支度を整えていると、奥から慌てて父の春樹が玄関まで駆け寄ってきた。

春樹「あれ

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『向日葵畑の向こう側』⑥

『向日葵畑の向こう側』⑥

【最終場】 向日葵畑の向こう側

8月16日。この日も陽向は学校で補習を受けていた。
暦の上では秋となるが、まだまだ夏真っ盛りである。

松永「はい、今日の補習終わり! お盆も今日で終わりだなー。そろそろいいかげん涼しくなるかな」

陽向は帰り支度を整え、スマートフォンを取り出す。陽菜から着信履歴があった。
折り返してみるものの、陽菜は電話に出ない。

陽向「おかしいな。まぁでもそういう日もあるか

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