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きし とうか (小説&写真)
2018年2月4日 23:32
立春がくるといつも思う。「こんなに寒いのに春だなんて」 私はそう呟きながらマフラーを口元に引き上げた。立春も立秋も、一番寒いときと一番暑いときにやってくる。そのたびに私は悪態をつきたい気分になる。期待させておいて、裏切られるのが本当に嫌い。 吹く風はとても冷たく、顔に吹き付けてくる。時折、雪がちらついていっそう顔を冷やした。 玄関の鍵を開け、ドアを乱暴に開けると、ドアベルがちりんちり
2016年9月25日 00:21
4月アンケート、少女二人 2016年版です。---------------------------「ねえ、これからどうするの?」 疲れた顔で晶が聞いてきた。「……帰りたいなら帰れば」 私はつい、そんな悪態をついてしまう。「穂花が帰るまで帰んないけどさ」 そう言う晶を振り返って、私は小さくため息をついた。 晶はそばにあった塀にもたれていた。朝まで降っていた雨は上がって、気温はすで
2016年8月23日 10:47
4月アンケート 少女と男のスペースファンタジー篇大変お待たせいたしました…。------------------------------ その銀色の大きな筒は、いつもと同じように床の暗い空に向かって伸びていた。ひと抱え以上もある太い筒は、鉄の鈍い輝きを放っている。 カナメはその筒にそっと手のひらを当てた。黙ったまま冷たい筒を撫でる。「……すまないけど、今日はそれに触れないでくれる
2015年8月15日 19:43
暑い夜だった。 じっとりと首筋に汗がまとわりつき、ちくちくした刺激を放っている。俺は誰にもぶつけられないイライラを飲み込み、昨晩壊れたエアコンを恨めしげに眺めながら、うちわで必死に生ぬるい風をかき混ぜようとしていた。 窓を開けていても外の空気は微動だにせず、かえって湿度の高いムッとした夏のにおいが押し寄せてくる。 ああもうどうしてこんなに日本の夏は蒸し暑いんだ。 やけに腹が立
2015年7月7日 20:37
一人で飲みたくて店を探していた。 適当な居酒屋に入り、適当なつまみと生ビールを頼んだ。それは普段男に混じって当然のように仕事をしている私にとって、あまり珍しくもない行為だったのだけれど、案内されたカウンターの席の、たまたま隣に座っていたあなたは違ったようだ。「この店に一人、女性なんて珍しいね。どこから?」 と、あなたは気楽に私に問いかけた。 枝豆とビールが届いて数分が経っていた私は、乾
2015年2月13日 21:04
あれは。 香田は買い物客でごった返す祝日の大型ショッピングモールに来ていた。姉がバレンタインガールズパーティをやるとかで、その材料を買い込むのに荷物持ち要員として召喚されたのだ。どうせなんのおすそ分けも感謝もしないくせに、つくづく姉というのは弟を小間使いか何かだと思っているらしい。 赤や金のハートが踊り、製菓材料やキットがところ狭しと並べられたコーナーは、女性客で埋め尽くされていた。姉
2014年12月24日 12:04
「今日はまた一段と冷え込むな」 スコップを持った初老の男が、雪かきの手を止めて呟いた。犬を連れて散歩していた親子が男性の顔を見ながら頷く。 空を見上げると、青い空に鈍く歪む太陽が光っていた。「ちったあ、あったかくなって溶けてくれりゃいいんだが」「この街の雪が溶けたことなんて、これまで一度もないですからねえ」 そう女性が呟いたあと、一陣の風が吹いた。折から積もっていた雪が高く空まで舞い上が