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【小説】六月柿

母がトマトを干していた。鴨居の溝に幅の広いハンガーを掛け、それに干し柿の要領でビニール紐を用いてトマトを吊るしていた。

「トマトって六月柿っていうんだってテレビで見てね。ドライトマトになると思って」

確かに形は柿に似てる、大きなトマト。だけど、作り方はこれで合っていないと思う。

「出来たら佐雪、ピザとパスタ作って」

私は聞き流した。

母は調べない。暮らしていくなかでぽんと入って来た情報と戯れる。このように。

「六月柿」と口ずさむ。私にもまだ母のような習慣がある。私は三月生まれで、妹は六月生まれだ。成人するまで自分を冬生まれ、妹を春生まれだと思ってた。それは私が暮らす街が三月まで雪が降り、六月にはまだ暑くならないからだ。三月が春だと知ったのはネットの誕生季節占いだった。

「佐雪ー。トマトとアボカドでパスタ作ってー」

荒い返事をした。

三月が春だ、ということが当然であるところで長く暮らしてみたい。こんなテカテカした鴨居の和室じゃない、しんとした古民家のゲストハウスがいい。庭にある鉢植えのマリーゴールドやブルーベリーの木ではなく、住民が作った藤棚や菜の花を眺めながら、と思い描きながらアボカドの種を包丁で刺してくり抜いた。

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