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あと5分


テストの残り時間はあと5分だった。

最後の問題が少し厄介だった。
これを解くのには残り5分では足りそうにない。
せめてもう5分だけあれば、なんとか解けるのに……!

そう思った瞬間、僕の視界は暗転した。



ふっ、と気がついて顔を上げる。

(しまった、寝てしまってたのか!?)

慌てて時計を見ると、終了5分前だった。

(……おや?確かさっきも残り5分だったような……)

不思議がっているうちに時間は刻々と過ぎていく。
もう1分経ってしまった。

(まずい、早くこの問題を解かないと)

そう思うほど焦ってしまい、考えがまとまらない。
ああ、あと5分あればいいのに……。
そう思った瞬間、僕の視界は暗転した。



ふっ、と気がついて顔を上げる。

(また寝てしまってたのか!?)

もう流石に間に合わないと思って時計を見ると、
残り時間はあと5分だった。

(おかしいぞ?さっきも残り時間が5分だった気がする)

周りを見てもみんな特に変わった様子もなく、黙々と問題を解いている。

(どういうことなんだ?)

しかし不思議がっているヒマはない。
考えているうちに時間はどんどん過ぎていく。

(まずいまずい、しまった、変なことを考える前に問題を解くべきだった)

ああ、あと5分あればいいのに……。
そう思った瞬間、僕の視界は暗転した。



ふっ、と気がついて顔を上げる。

(今度こそやってしまった)

そう思って時計を見ると、残り時間はあと5分。

(まただ。一度意識が遠のいて、視界が暗くなってから、顔を上げるといつも残り時間があと5分だ)

周りを見ても、さきほどと同じように変わった様子は見られない。
今度こそ、まともに問題を解こう。残り時間はどっちにせよ少ないのだ。
しかしこれが意外と手ごわい。
焦っているうちにまたも時計の針は進んでいく。

ああ、あと5分あればいいのに……。
そう思った瞬間、僕の視界は暗転した。



ふっ、と気がついて顔を上げる。
今度は迷わず時計を見る。
やはり残り時間はあと5分。

再び問題に取り組もうとするが、どう考えても残り5分では解ききれない。

そもそも5分という時間設定が良くないのだ。
自分の見込みの甘さに腹が立ってくる。

せめてあと10分くらいあればいいのに……。
そう思った瞬間、僕の視界は暗転した。



ふっ、と気がついて顔を上げる。
そのまま迷わず時計を見る。残り時間はあと5分だった。

(10分じゃないのかよ!)

ちょっと期待していたのだが、今度も残り時間は5分だった。
期待していた分、余計に焦りが生じてくる。
問題を解く手が一向に進まない。

ああ、あと30分あればいいのに……。
そう思った瞬間、僕の視界は暗転した。



ふっ、と気がついて顔を上げる。
再び迷わず時計を見る。残り時間はあと5分だった。

(やっぱりね。分かってたよ、うん)

今度は焦らずに問題に取り掛かろうとする。
しかしちょっと気になってきた。
あと5分あれば、と思わなかったらこの現象は終わるのだろうか?

さっきから視界が暗転するのをコントロールできている気がしない。
あと5分と思ったら自動的にこの現象は繰り返されるのだろうか。

いやいや余計なことを考えるな。
そんなことを考えているうちにとっくに2分経ったぞ。
これじゃ間に合わない!

ああ、あと5分あればいいのに……。
そう思った瞬間、僕の視界は暗転した。



ふっ、と気がついて顔を上げる。残り時間はやっぱり5分。

しかし本当に不安になってきた。
次もあと5分の世界に行く保証はないけれど、それよりもこの現象はいつかきちんと終わるのだろうか。

もしこのままずっと残り5分の世界をループし続けるとしたら、僕はこの問題を終わりなく解き続けることになる。
さすがにあと何回かループすれば問題は解けるような気もするけど、それでもあと5分の世界に飛ばされたら意味がない。

なにか法則性でもあるのだろうか。
あと5分と思わなければいいのだろうか。

思わずこの現象について考え込んでしまった僕の耳に、テスト時間終了のチャイムが聞こえてきた。
しまった!あと5分現象を考えているうちに、5分が過ぎてしまったのか!


無情にもテスト用紙は回収され、僕が取り組んでいた問題の解答欄は白紙のままで僕の手元から去っていった。

あ~あ、あと5分あったら解けたのにな。


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