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【読書記録】『放浪世界 水上悟志短編集』水上悟志

新人の頃、短編集を沢山出せる作家になろうと思ってました。

作者コメントより

『惑星のさみだれ』『戦国妖狐』『スピリットサークル』等で知られる水上悟志みずかみさとし先生の4冊目の短編集。

収録作は『竹屋敷姉妹、みやぶられる』『まつりコネクション』『今更ファンタジー』『エニグマバイキング』『虚無をゆく』の5作品。

『竹屋敷姉妹、みやぶられる』
冬花と雪花の姉妹は双子である。クラスを入れ替わってもバレないくらいに似ている二人を、何故かクラスの男子の梅松くんだけは見分けられていて……。

見分けのつかない双子、しかも当人たちが積極的にお互いを似せようと努力している。そっくりの姉妹というモチーフというかネタは別記事のコメントでも書きましたが拙作『椛と楓』に反映されています。喋り方も似ているかも。自作のキャラクター造形がどうにも画一的になりがちなので、色んなキャラクターを取り入れていきたいですね。

『まつりコネクション』
人間の頭の上にいる「ちいさな宇宙人ドワーフ」が見えるまつりは、自分の頭の上にいるドワーフの「味噌田楽」(見た目は抹茶プリン)にせがまれて町へと繰り出す。そこら中にいるドワーフたちは人間の頭の上で勝手気ままな様子。そこで一人、惑星に樹木が絡みついた形のドワーフ?を載せた老人を見かけ、その後をついていくと……。

作中に出て来る特定の人間にしか見えない空に浮かぶ巨大な何か、というモチーフは『惑星のさみだれ』のビスケットハンマーにも共通のイメージですね。異常な何かとそれに気がついていない様子の人々、というビジュアルはインパクトがあります。ドワーフは奥様がデザインされているという事ですが水上作品のこまいキャラ、好きなんですよね。

『今更ファンタジー』
中年男性に今更降りかかるラノベファンタジー出来事(作者解説より)

登場キャラの有無を言わせない勢いとそれに戸惑いがちな主人公、という水上作品あるある。呪文一つで世界が元通り、という軽さに怯える主人公がリアルでした。

『エニグマバイキング』
バケモノを食う「闇喰い」という商売を営む陣道とみやこ。顧客である太田屋の旦那にその日仕留めたバケモノの肉を納品するが……。

『戦国妖狐』で設定はあったものの登場の機会のなかった「闇喰い」という設定を引っ張り出してきたという作品。これはこれで色々話が作れそうな魅力的な設定です。元アシスタントの石坂ケンタ先生と飲んだ時の雑談がきっかけとのこと。ちなみに石坂ケンタ先生の『ざつ旅』もおススメです。

『虚無をゆく』
74Pの中編。虚無より来るモノ「怪魚」。それと戦うのは頭部に都市級団地型居住区を擁する超大型宇宙船(ロボ)「盤古」。そこに住む少年、天田ユウはある日「団地妖怪 サロ」に攫われてしまう。全てがひっくり返ってしまった彼の世界。その行く末とは。

確かいきなりネットに発表されてびっくりした覚えがある。そして中編ながらも描かれる物語世界のスケールに感銘を受けた記憶がある。水上SFは大概人類規模、宇宙規模の危機まで辿り着くから楽しいです。
広大であるはずなのに閉ざされた世界。平和であるはずなのに不穏な世界。線のタッチも重めで、一本の映画を見たような感覚になれる作品です。

ちなみに「盤古」は中国神話で天地開闢の創世神。「パンゲア大陸」を中国では音も合わせて「盤古大陸」と呼ぶらしいんですが、むちゃくちゃセンスありますよね。


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