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【ファンタジー小説】優しい午後の歌/第八話「図書室」

「いいなー、ラウザーは」

 ミスティが口を尖らせる。「いいって何が?」僕が聴くと、

 「だってトリアに触れるじゃない」と、また僕を困惑させるようなことを言ってきた。頬が紅潮するのを感じて、思わず、顔を抑えた僕は部屋を出て王宮の司書室へ向かった。

 司書室はこの国の歴史書が集められた場所だ。ここでミスティの謎を解くカギを見つけてみせる。埃っぽい本の間で、ミスティは顔をしかめる。

「トリア、ねぇトリア。こんなところにいるとせっかくの正装が台無しよ」
「知ったことか」

 どんな汚れた本でもミスティの情報が書かれていれば、いいのだが……。探した限りでは見当たりもしない。唯一あの塔は、コテント国創立の際に建てられたものだということしかわからなかった。

 ……どうしよう。もうそろそろ自室に戻らないと、ラウザーに怪しまれる。いっそ「悪霊に憑りつかれている」と告白したい気分だ。

「トリアのお嫁さん候補、沢山お城に入っていくわよ」

 ミスティは吞気に窓の外を見ながらそんなことを言っている。誰のせいでこんな状況になっているのか。ミスティを睨んで、それでもその美しさに見入ってしまう。

 僕は容姿にこだわるタイプだったのか……?そんな疑念すら浮かんでくるが、よく見れば、ミスティより美しさで勝る側室は沢山、王宮内に居た。

 何故、こんなに君ばかりが気になるんだろう。

 恋、という単語が頭に浮かぶ。ミスティはぼんやりと窓の外を眺めている。一体、このお姫様は何を考えているのだろう。
僕が、本当に見つけるべきだったのは、生前の君だったかもしれないのに。そしたら、妃なんてすぐ君に決めていただろうに。どこまでも甘い考えしか浮かばない。

 僕は司書室を諦めて、服についた埃を払うと自室へ向かった。

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