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ミュージカル「マタ・ハリ」を観た

初演と再演をみて

マタ・ハリときいて、「あぁ、フランスの女スパイね」って分かる人ってどのくらいいるんでしょう。
わたしはなぜか知っていて。なぜ知っていたかは全く覚えていないんですけど、映画か本かなにかでしょうね。


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新しいっぽい綺麗な劇場。
外から見える真っ赤な大階段が目立つ。



まあそれは置いといて、元月組トップ娘役 愛希れいかさんがあのマタ・ハリを演じると聞いて、いてもたってもいられずチケットを取ったわたし。

実は初演も観ていまして、柚希礼音さんのたくましいマタ・ハリが印象深かったのを覚えています。
たくましいってのは、まあ演技もそうなんですけど、体格が良すぎてちょっと庇護欲はかきたてられないというか。
暴漢に襲われそうになるシーンでも、ちえさん(柚希礼音さん)マタならワンパンで楽々倒せるんじゃないかって思っちゃったりして、ちょっとね.....。

その点、鍛え抜かれたボディを駆使してのダンスシーンのクオリティはとても高かったです。
アジアを思わせるきらびやかで布面積の少ない衣装と、しなやかかつ力強い舞いは、ちえさんの真骨頂だなあとか思っていた気がします。

なので、ヅカ在団中からダンスがうまいダンサージェンヌと言われていたちゃぴちゃん(愛希れいかさん)なら、踊りで男性を惑わす魅惑的なマタハリを演じられるに違いないと、とっても期待していました。

ちえさんより華奢だし庇護欲の部分でもいい感じかも、とか思ったりしつつ...。(ちえさんファンの方すみません)

その期待を超えてくるちゃぴのマタハリ。
美しく、妖艶で、可憐で、気高く、魅力あふれるマタハリでした。


マタハリの人生の鍵を握る男性二人は、初演と同じで、ラドゥーが加藤和樹さん、アルマンが東啓介さんの布陣。

初演もこの組み合わせを観ていたのですが、初演から二人ともはまり役で。
色気たっぷりの苦悩する加藤和樹、若さと甘さが絶妙なとんちゃん(東啓介さん)という印象でした。

ただ、まあなんとなく歌唱はまだまだ伸びしろあるぜって感じで、トレーニングを重ねたら声量ももっと大きくなるだろうし、響きもさらに良くなりそうという感じでした。


それが、この再演2021。二人とも2018年の初演から何もかも進化していてすばらしかった!
とくに歌唱が断然上手くなっていて感動しました。加藤和樹もとんちゃんも今や人気ミュージカル俳優ですものね。そりゃあ努力して歌唱力アップに努めたのでしょう。
歌唱力がアップされたことにより、ワイルドホーン氏の曲がさらに素晴らしいものに感じられ、再演とはこうあるべきだなあと感心しました。
やっぱりミュージカルなんだから、歌が良くないとね。。。


ということで、ここから先はわたしが個人的に良い!と思ったポイントをざっとまとめます。


1)ちゃぴのマタハリはまりっぷり

可憐な役もキュートな役も演じきるちゃぴですが、意思の強い役も最高ですよね…!
まさお(龍真咲さん)の退団公演の帰蝶も良かったし。まさおとダブルトップのような存在感でね。
もちろんエリザベートも。

ということでマタハリもね、意志を持って行動する自立した女性ですからちゃぴにぴったりでしたね〜。

たたずまいなのか、表情なのか、圧倒的なダンスなのか、、
全体的に凛とした雰囲気が、壮絶な過去を持ちながらも自分の力で生き抜き、国をまたいで人々を虜にするまでになった踊り子という設定に説得力を持たせていました。

「今までやってきたことを恥じてはいません」というセリフも良かった。目に力があって。

どんな仕事でも、生きるためとはいえプライドをもってこなしてきた、という感じで。


でも、ただ強い女なだけじゃなくて、アルマンと恋をしたときの少女のような笑顔とか、野戦病院まで駆けつけると決めたときの、「1人の女性として今を生きる」ことに輝きを見つけたときとか、アルマンを見つめるときの母性あふれる様子とか……。

可憐な演技もばっちりなんですよね。ちゃぴ、なんて素敵なんだ。

もちろん、裁判からラストまでの妖艶で青い炎みたいな静かな強さのある様子(?)も最高でした。

獄中で、衣装係のアンナと
「客席はどう?」
「大入り満員です」
と本番前のお決まりのセリフを交わすシーン。

もう客がいるはずも無く、2度と舞台に立つことができないマタハリの境遇を考えるととっても切ないけど、死の間際まで“マタハリ”としての尊厳を失わない姿が表れていました。
女性としてのいろんな表情を演じきっていて、ちゃぴの魅力に改めて撃ち抜かれましたね。


あと、宝塚出身女優あるあるですけど、指先まで所作がとっっっても美しいんです。スカートのさばき方とか、ふと振り返るときの顔の角度とか、手の差し出し方とか......。

あらゆるシーンで所作の美しさが出ていましたが、特にカーテンコールのお辞儀が最高に美しかったです。本物のマタハリでしたね。



2)苦悩する和樹の色気

個人的な統計ですが、加藤和樹のファンは、「(演技において)苦しんでいる加藤和樹」が好きな人が多い気がします。

なんですかね、あの美しい顔が苦しみで歪む様子がいいのか、苦しんだときに漏れ出る色気がいいのか…。
まあ、綺麗な男が苦しんでいる姿っていいですよね。(変態)

たぶん他のファンの方も同じでしょう。
加藤和樹は不憫な役こそ至高。

まあそんな加藤和樹ですが、今回は片思いに苦悩する男でした。とても歪んだ愛情表現ですが。
マタハリをスパイに抜擢したはいいけど、彼女の魅力に捕われて心がかき乱される。
でも、大佐という重要な立場であり、自分の決定に何万という兵士の命がかかっている。そりゃあおかしくもなるでしょうよ......。という苦悩っぷりを和樹は完璧に表現していました。


まず、ビジュアルが優勝。
襟元までぴっちり着込まれた軍服。100点。
舞踏会でのスリーピース。100点。
オフの日のガウン。100億点。
色気って加藤和樹のためにあるんか?ってくらいセクシーでした。


幸せそうなシーンが皆無で、ずっと何かに苦しんでいるラドゥー大佐ですが、マタハリとアルマンの恋を邪魔するシーンはちょっと嬉しそうなんですよ。「邪魔する」ってそんなお子様じみた言葉はちょっと不釣り合いかもしれませんが....。恋敵を目の前から消し去り、マタハリとの仲を引き裂く優越感か。マタハリを独り占めできることに対する満足感か。

特に、マタハリが自宅に訪れたシーン。
それまではマタハリに直接胸の内を明かすことは無かったラドゥーが、感情を爆発させる場面は見物。狂気の表情がとってもセクシーでした....。

それまでまじめに、祖国のために生きてきたラドゥーが、マタハリに出会ったことで自分の欲に目覚めてしまう。そんな気持ちは叶うはずもなく、どんどん歪み、破滅へと突き進んでいく。
まあ彼もかわいそうな人ですよね。
マタハリへの思いを断ち切り、彼女を二重スパイに仕立て上げ、罪を着せると決めたシーンの迫力もすごかった。

加藤和樹、良い俳優です。(誰)


3)力強くハイレベルなアンサンブル

どうしても主役どころに目が行きがちなんですけど、再演マタハリはアンサンブルの方々の声の厚さも半端ではなく、コーラスがめっっちゃうまかった

怪しいシーンとか不穏な空気が漂うシーンでよく登場する、スパイのことを歌ってる曲があるのですが、歌詞がなんとも言えない怪しさを醸し出していてとても良いのです。

真実は嘘と裏腹
ただ信じるな
疑うことは生きること
自分で選べ

嘘と生きれば人は死に
スパイに変わる
真実は変わり身が早い
惑わされるな

これをアンサンブルの皆さんが歌うんですけど、クレッシェンドとデクレッシェンドがすごく効いていて。
ひっそり歌ったり、ぐわっと力強く歌ったり。
マタハリや周囲の疑心の種が大きく膨らんでいく様子とシンクロして、みんなの心情がわかりやすいというか。
とにかく、音の厚さと広がりがすごかったです。
やっぱり、脇を固める人たちがすごいと、主役も輝きが増しますよね。

とくに、ピエール役の工藤広夢さんの歌声がすばらしかったです。

帰還が困難であろう戦地に偵察機が飛び立つ前の飛行場のシーンは、ピエールの見せ場だと思うんですけど、ほんとうに歌の力と感情が大きなうねりになって会場を包んでいたように思います。涙でた。曲がすごく良い。
(彼をアンサンブルのパートで語ってしまっていいのかわかりませんが......。)



4)謎のカーテン演出なくなってた

初演でとっても印象に残っているのが、場面転換の際に舞台中央でカーテンをシャーーーって引く演出。

境界とか区切りとか、なんかそういうものを表してたんだと思います。

たしかに場面転換っぽさは出ているんだけど、どんなにシリアスなシーンだったとしても容赦なく「シャーーーーーーーッ」ってカーテンレールの音が響き渡る訳ですよ。

シーン転換なのか、シーンクラッシャーなのかわからない感じで、ぶっちゃけ個人的には理解できない演出でした。
単純にダサいし。
それが今回! 改善! カーテン無かった! すばらしい!
不評だったんですかね〜やっぱり。すごい鳴り響いてましたからね。シャーーーーッて。
まあ、普通に暗転した方がいいですよ。カーテンより断然。


総じて良い印象しかないです。再演のマタハリ。
スタッフに感染者が出たとかで、完走できなかったのは残念ですが、再演してくれてありがとうという気持ちでいっぱいです。
演者、スタッフすべての関係者が、これからも健やかに作品に打ち込めますように。

こんな状況下でも、エンタメを失ってはいけないと思う今日この頃です。



2021年6月11日 東京建物ブリリアホールにて

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